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戸惑いの狭間で
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翌日、何事もなかったかのように知夏の元へ現れた。
日の短くなった夕方。いかにも学校帰りだといわんばかりの装い。
だけど今日は明らかにいつもの雰囲気とは違っていただろう。
衣服は昨日からのままで昼間のバイトでタバコとラーメンの臭いが染み付いている。
今までばれないようにといつもは着替えていたのにそれもできなくなった。
「腹減ったからラーメン食ってきた」
不審そうな顔の知夏に悟られないよう適当に誤魔化す。
なるべく平静を装いながらいつものようにパソコンを覗く。
"ひろくんのおとうさん きた"
画面から飛び込んできた表示された文字に驚く。
「えっ?」
昨日の今日でヤツが?何しに?
動揺を隠しながらも知夏に訊ねる。
「一体、何しに来たんだ?」
"しゃざいに"
「謝罪?」
"きのうのこと"
「何て言ったんだ?」
知夏はちらっと俺の顔を見ると続きを打つ。
"とつぜんきて さわがせたこと"
「そ、それだけか?」
その問いかけに知夏は何かを考えるようにしばらく俺をじっと見つめた。
勘が鋭いからきっと何かを感じているのは確かだ。
だけどボロを出してはなるものか!
俺は強い眼差しで知夏を見つめ返す。
しばらくすると知夏は軽く頷いた。
「本当か?」
"なにかあるの"
「……い、いや、別に。ただ身内の恥を見せて悪かったな」
慌てて濁すともうその話題に触れないようにした。
そんな俺を知夏はどうも観察しているようだ。
しばらくしてドキッとするような文字を打ち込んでいた。
"つかれてる"
「な、何でだ?」
不意をつかれた言葉に動揺し、知夏の視線がチクチクと突き刺さる。
"なんかへん"
「そ、そんなことない!」
"なにかあるなら"
「あ、ぁ……あるわけね~だろ! 何言ってんだよ!」
動揺を隠すようにその場から背を向けるように立ち上がる。
ふと脳裏に浮かび上がる不安感。
思えば昨日はいろんなことがあり過ぎた。
父親の事、家の事が重なって最悪なことが頭に浮かんだのも確か。
今日だって本当はどう過ごしていいのか分からない。
戸惑いながらこの場所にいる。
だけど余計な心配は掛けたくない!
知夏の前では今までの調子で乗り切るしかないんだ!
一息ついてから知夏の方に振り返ると悲しげな瞳が飛び込んでくる。
――頼む! そんな顔で見ないでくれ!
そう思いつつも黙ったまま目をそらすことしかできない。
やがてキーボードの音が響く。
知夏の真剣な眼差しが俺に注がれる。
"きちんとむきあいたい"
画面に浮かび上がった文字に一瞬息を呑む。
「何言ってんだよ。何もないって!」
知夏の不安げな顔が消えることはなかった。
日の短くなった夕方。いかにも学校帰りだといわんばかりの装い。
だけど今日は明らかにいつもの雰囲気とは違っていただろう。
衣服は昨日からのままで昼間のバイトでタバコとラーメンの臭いが染み付いている。
今までばれないようにといつもは着替えていたのにそれもできなくなった。
「腹減ったからラーメン食ってきた」
不審そうな顔の知夏に悟られないよう適当に誤魔化す。
なるべく平静を装いながらいつものようにパソコンを覗く。
"ひろくんのおとうさん きた"
画面から飛び込んできた表示された文字に驚く。
「えっ?」
昨日の今日でヤツが?何しに?
動揺を隠しながらも知夏に訊ねる。
「一体、何しに来たんだ?」
"しゃざいに"
「謝罪?」
"きのうのこと"
「何て言ったんだ?」
知夏はちらっと俺の顔を見ると続きを打つ。
"とつぜんきて さわがせたこと"
「そ、それだけか?」
その問いかけに知夏は何かを考えるようにしばらく俺をじっと見つめた。
勘が鋭いからきっと何かを感じているのは確かだ。
だけどボロを出してはなるものか!
俺は強い眼差しで知夏を見つめ返す。
しばらくすると知夏は軽く頷いた。
「本当か?」
"なにかあるの"
「……い、いや、別に。ただ身内の恥を見せて悪かったな」
慌てて濁すともうその話題に触れないようにした。
そんな俺を知夏はどうも観察しているようだ。
しばらくしてドキッとするような文字を打ち込んでいた。
"つかれてる"
「な、何でだ?」
不意をつかれた言葉に動揺し、知夏の視線がチクチクと突き刺さる。
"なんかへん"
「そ、そんなことない!」
"なにかあるなら"
「あ、ぁ……あるわけね~だろ! 何言ってんだよ!」
動揺を隠すようにその場から背を向けるように立ち上がる。
ふと脳裏に浮かび上がる不安感。
思えば昨日はいろんなことがあり過ぎた。
父親の事、家の事が重なって最悪なことが頭に浮かんだのも確か。
今日だって本当はどう過ごしていいのか分からない。
戸惑いながらこの場所にいる。
だけど余計な心配は掛けたくない!
知夏の前では今までの調子で乗り切るしかないんだ!
一息ついてから知夏の方に振り返ると悲しげな瞳が飛び込んでくる。
――頼む! そんな顔で見ないでくれ!
そう思いつつも黙ったまま目をそらすことしかできない。
やがてキーボードの音が響く。
知夏の真剣な眼差しが俺に注がれる。
"きちんとむきあいたい"
画面に浮かび上がった文字に一瞬息を呑む。
「何言ってんだよ。何もないって!」
知夏の不安げな顔が消えることはなかった。
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