眠り姫のキセキ

おりのめぐむ

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解けない魔法

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「お父さん、お母さん、今日から2学期が始まったよ」

 表情を一つ変えず、閉じたままの瞳。
 身動き一つしない横たわった身体。
 ほのかに消毒液の匂いが充満する部屋。
 二つ並んだベッド。
 返答の無い両親に報告。
 私も数年前には居た場所。
 白い壁、白いカーテン、白いシーツ、
 何もかもが真っ白の世界。
 まるで時間が止まったかのような、
 静寂で厳かな空間。

「月乃様、投与のお時間です」

 世話役の中島に呼ばれ、病室を出る。
 数年前の私も両親と同じ状態だった。
 身体的に目覚めたものの、
 自身での機能が快活でない。
 眠ったような身体で。

「では失礼します」

 ベッドに寝かされ、腕には数本の管。
 日課の薬の投与が始まった。
 中島は一礼すると両親の元へと戻る。

 しずくの一滴一滴が細い針を通じて巡ってくる。
 一瞬一瞬を刻むように。
 だけど私の時間ときは止まったまま。

 いつからこんな生活が始まったのだろう。
 いつまでこんな生活が続くのだろう。
 生かされ続ける身体と、
 対応しきれない身体。
 今の私の所有物。
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