眠り姫のキセキ

夢のあとさき

　握られた手のぬくもり。
　目覚めれば先生が居た。
　そこは病室の一角。
　２、３日安静にした方が良いと。

「まるで橘川さんがあなたぐらいの頃を思い出すわね」

　看護師長が懐かしそうに目を潤ます。
　ここだけの話よとそっと打ち明けられる。

　一人きりのベッドの上。
　窓越しに見える低い空。
　何故だか急に切なくなって涙がこぼれる。

　ずっとずっと待っていた。
　何かを望み続けて。
　もう一人の私が潜むように。

　遠い記憶の中で、
　高い高い空の上で、
　深い深い海の底で、
　感じ続けていた想い。

　そして今もおぼろげに、
　私の身体を回り続けている。

　今度目覚めた時には、
　きちんと生きたいと願う。
　重荷の身体を背負っても――。

　一度は眠った身体だから、
　そう強く思えるのかもしれない。
　３年前に意識を取り戻した時、
　その願いだけははっきりしていた。
　まるで生かされるためにと宿っていたかのように。