咽び泣き

惰眠

文字の大きさ
6 / 9
1章

5話

しおりを挟む
 今日も何も変わらない1日が始まる。

 かわいい雀の鳴き声を遠くに聞きながら学校へと続く坂道を上る。
 桜はもう散ってしまっている。

 相変わらず、周りには私と同じような服装の生徒たちが歩く。
 服装以外の部分を見ると、個性がそれぞれ生きている。

 今日も、私は藍色のヘッドホンを頭に着ける。
 流れる音楽はロック。

 激しく場を包むドラムの音。
 脳の奥まで響き渡るようなギターの音。
 足の先を掴むようなベースの音。
 そして、全身を震わせてくれるような歌声を持つ歌手が声を張る。

 気分はいつも通り。
 何事も起きないことを祈りながら平静を装う。

 大きな門をくぐり、静かにあの教室に向かう。

 1-2

 クラスの戸を開けると、音を聞かなくても分かるほど騒ぐ面々が揃っている。
 入学してから約1か月が過ぎた頃。
 それほどの短い時間で意気投合しあえる仲間ができているのだ。
 彼らを羨む気持ちは、ゼロではない。

 ゆっくりと席に着く。
 例え、私一人孤立していたとしてもこのクラスは変わらず存在する。
 それほど自由なのだろう。

 鞄の中から読みかけの本を取り出す。

 読みかけのページには、音符マークの可愛い栞が挟まっている。
 小さなときに、私が作ったものだろう。
 記憶にないが、とても大切に使っている。

 クラスの騒がしさを背中で感じながらページをゆったりとめくり読み進めた。

 チャイムが鳴る。
 目の前には、田中先生が立っている。

 ホームルームの時間だ。

 1日の移動教室や、その他配布物。
 数日の内に慣れたその風景が繰り返される。

 教師が壇上に立つと、ある程度の静まりがやってくる。
 この教室は、とても環境がいいのだろう。

 机の隅に読みかけの小説を置き、田中先生の言葉に耳を傾けるために、少し音量を下げる。

「今日も1日頑張りましょう。では、号令お願いします。」

 その言葉で締めくくられる。

 号令が終わり、先生好きな女生徒たちは、田中先生を囲んで話をする。

 今日の髪型が綺麗だとか、服装がかわいいだとか。
 田中先生も同じく褒めているようだ。

 遠目でそれらを見ながら私は、次の時間の準備をする。

 机の上には、必要な教科書や筆記用具などを揃え、準備はできている。
 少し見渡せば、まだ楽しそうに騒ぐクラスメイトの姿を見かける。

 チャイムが鳴り、1限目が始まる。

 1限目は数学だ。
 松田という教師の担当だ。
 白髪の生えた40代くらいの先生で、面白おかしく数学を教えようとしてくれる。
 頼れる先生の代表格のような存在だ。

 クラスの面々からは、まっちゃんやまっさんなど呼ばれ親しまれているようだ。
 私は、対照的に先生との距離の取り方に戸惑い、松田先生と丁寧に呼んでいる。

 私にとって、少し手の届かない所にある数学も、松田先生のお陰で理解が進んでいるはずだ。

 授業の始まりはいつものように前回分の復習から始まり、今回の授業とその発展問題。
 日によっては、少し雑談が多くなり時間がつぶれることがあるが、もしかしたらそこが人気の秘訣かもしれない。

 2限目は歴史だ。

 塚内先生というおじいちゃん先生が教えてくれている。
 綺麗なスキンヘッドが輝く笑顔が素敵な先生だ。

 パワーポイントや、映像資料を使って分かりやすく教えてくれている。
 たまに、雑学のようなものが入り面白い話や悲しい話など、広い知識で勉強のお手伝いができる先生だ。

 課題の提出を忘れる男子生徒たちからは、寛容な態度で許す姿から塚内様と呼ばれている。
 いろいろと輝いて見えるが、気のせいだ。

 私は、4限まである授業を何とか耐え抜き、お昼の時間を迎えた。

 耳に流れるのは、かわいらしい音が響く、変わった音楽だ。

 お昼ご飯は、母の作ったお弁当。
 程よい甘さの卵焼きが、私のお気に入りだ。

 周りで固まって食べる人たちを置いて、一人で黙々と音楽とともにご飯を食べ進めた。
 心の中で考えることといえば、苦手な目の前にあるトマトだ。

 あの謎の感触が苦手なのだが、母は止まらない。
 意を決して、一つ口に運ぶ。

 ぐにりとしたジェル状のアレが歯に当たる感覚が、何とも言えない不快感を引き起こす。
 呑み込めるほどに噛み、お茶で流し込む。

 あと一つ残っていることを目の当たりにすると、聞こえないため息を漏らしてしまう。

 激闘の末、弁当を空にして本を読む。
 朝から続きが気になっていた。

 朝という短時間の暇つぶしには最適だが、短時間ゆえに続きが気になって仕方がない。
 耳に流れる音楽をBGMとして読み進める。

 丁度、感動的なシーンだ。
 このシーンは、ここでは読みたくないと思ってしまっている自分がいる。
 我儘だと言い聞かせる。
 それほどまでにこのシーンはゆったりと読んでいたい。

 いつも通りの昼休憩。
 変わらず騒がしい教室。
 でも、意外と居心地の良さを感じる不思議さ。

 そして、1日は流れ、終わる。

 変わり映えない午後の授業も終わる。
 わかりやすく教師陣から教わり、満足。

 静かに教室を後に、自宅へと向かう。

 部活をしない私にとって、帰り道はあまりにも静かだ。
 朝と違い、ちらほらと見かける生徒たち。
 そして、少し赤みがかった空を見上げ、静かなジャズの音楽に揺られながら校舎を後にする。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

処理中です...