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1章
4話
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先生はペンをとり、バンに紙を挟みメモを取る準備を整える。
横には、私の入学前の提出書類らしきものが置かれている。
「授業はどう?」
「どう…。」
「ああ、ごめんね。ざっくりとした質問で。入学してからそろそろ1か月だよね。もう慣れたかな?授業だったり、学校生活だったり。どうかな?」
彼女は、微笑みながら質問を投げかける。
「はい、少しは…。」
私は、あやふやな回答を返す。
質問攻めになるということに恐れながら構える。
「そう、よかった。じゃあ、最近あったよかったことを教えてくれないかな?なかったら無いでもいいよ。」
いきなり、意図のわからない質問に変わった。
「よくわかんないです。」
「そっかぁ~。じゃあ、私の嬉しかったこと聞いてもらってもいい?」
「全然、大丈夫ですよ。」
面談のはずなのに、これだと雑談でしかない。
そう思いながら彼女の話を聞く。
「最近ね、クラスの子たちが、愛称をつけてくれたの。」
彼女は、手に持っていたバンとペンを置き、身を乗り出しながら話し始めた。
「よかったですね。」
私は、冷めた返事しかできていない。
「千代ちゃん先生だって。かわいくない?」
目の前の彼女が教師であることを忘れるほど、うれしそうだ。
「いいですね。似合ってると思います。」
「でしょ?気に入ってるの。」
年上とは思えないその話し方に、少し緊張の糸がほどけた。
「かわいいですね。」
「ありがと。あと、笑ってる顔のほうが、かわいくて私好きだよ。」
口元が緩んでいたのだろう。
目の前の彼女のせいだ。
思わず、目線を逸らした。
「そんなことないです。」
「変なことを言ったね。他の皆みたいに千代ちゃん先生って呼んでもいいからね。」
「考えてみます。」
「ありがと。あと、私の言ったうれしかったことみたいに、最近あった、何かよかったことって思い出せたかな?」
私は、少し考え答えた。
「最近かわいいぬいぐるみを取れたことですかね。」
「結構、大きいの?」
「このくらいです。」
私は、手のひらサイズのぬいぐるみを両手で囲むようにして伝えた。
「いいな~。ゲームセンターとかは、よく行くの?」
「たまにです。」
「そうなんだね。クレーンゲームは得意なの?」
「いえ、たまたま上手く取れました。」
「すごいね。運命的な出会いだね。」
「そうですね。」
あまりにも先生が上機嫌に話してくれるので、少しこの緊張がバカらしくなる。
「どんなぬいぐるみなのか聞いてもいい?」
「クマのぬいぐるみなんですけど、私と同じ色のヘッドホンをしているので、つい取りたくなってしまって…。」
話しながら、避けていたヘッドホンの話を出してしまってハッとする。
「クマのぬいぐるみって、ただでさえ可愛いのに、そんな可愛い青いヘッドホンをしてるんだったら、私も取りたくなるかも。安藤さん、よかったら今度見せてくれない?」
「鞄に着けてきてもいいですか?」
私は、少し彼女を試すように聞く。
「もちろん。安藤さんはキーホルダーとかつけてないから大歓迎だよ。先輩には、キーホルダーどころか枕を持ってきてる子がいるんだけどね。流石に、初めてそれを見た時は笑っちゃったよね。」
「変わった人がいるんですね。」
彼女の笑い声につられて少し笑いが漏れてしまった。
「そうだね。いろんな人がいて、いつも楽しいよ。」
彼女は、教師という仕事が天職なのだと実感する。
「安藤さん結構真面目に授業受けてくれるから助かってるんだよ。ありがとね。」
「そんなことないです。」
謙遜ではなく、耳を塞ぐ藍色のヘッドホンを思い出し否定した。
「ヘッドホンのことは気にしなくていいからね。」
心臓を掴まれたような気分だ。
まるで、心を読んでいるかのような言動に緊張した。
「心を読んでるみたいでごめんね。」
「え…。」
「なんとなくだけど、私って相手の考えてることがわかるんだ。すごいでしょ?」
「すごいですね。」
私は、少し怯えた声で答える。
もしかしたら、この人になら私のことを分かってもらえるかもしれないという淡い期待をしたが、黒く塗りつぶした。
「ありがと。教師陣は事前に教えてもらえて理解はあるし、いつかそのヘッドホンが自由に着け外しができるように手伝えることがあったら教えてね。」
「わかりました…。」
私は、事前の学校に対する申請用紙には耳が敏感なため、紛らわすために音楽を聴いていることがあると記入していた。
自由な校風通り、素直に書面を信じて対応してくれている。
どの教師も私のこのヘッドホンに対して話してくる人はいなかった。
「それから、話は変わるけど。一年間の目標ってあるかな?」
彼女は、ペンとバンを再び手に取る。
「目標ですか?」
「そう、もし決まってたら教えてほしいかな。」
「すみません。ありません。」
「だよね。たまに決めてる子がいるから一応聞かせてもらったんだけど、困らせてごめんね。」
「大丈夫です。」
「じゃあ、何でもいいから決めておいてくれるかな?目標があったほうが頑張れると思うからね。」
「わかりました。」
「学校についてのほうが嬉しいけど、何でもいいからね。一個でもいいし、何個でも。また決まったら、気軽に教えてね。」
「じゃあ、終わりにしようかな。時間を取らせちゃったね。」
腕時計を見ると、一時間近く時間が経っていた。
何気ない会話だが、少し目の前の教師について知れた気がした。
「あ、あと!」
田中先生は席を立って、私を呼び止めた。
「関係ない話にはなるけど、もし、よかったら軽音部見に来てみてくれない?あ、これチラシね。」
チラシとして渡されたものは、部活紹介で説明された内容が簡潔にまとめられている、張り紙のコピーだった。
「もし、いらなかったらごみ箱に捨てちゃっていいから。」
そう笑いながら私に紙を手渡した。
「少し、机の片づけとかあるから先に帰ってていいからね。最後までありがとね。気を付けて帰ってね。」
「ありがとうございました。失礼しました。」
そう言って私は、少し重たい扉を開けて閉める。
今日の帰り道も、夕陽がきれいに空を彩っていた。
耳に流れる音楽の心地良さとそよ風に攫われるように家に帰った。
横には、私の入学前の提出書類らしきものが置かれている。
「授業はどう?」
「どう…。」
「ああ、ごめんね。ざっくりとした質問で。入学してからそろそろ1か月だよね。もう慣れたかな?授業だったり、学校生活だったり。どうかな?」
彼女は、微笑みながら質問を投げかける。
「はい、少しは…。」
私は、あやふやな回答を返す。
質問攻めになるということに恐れながら構える。
「そう、よかった。じゃあ、最近あったよかったことを教えてくれないかな?なかったら無いでもいいよ。」
いきなり、意図のわからない質問に変わった。
「よくわかんないです。」
「そっかぁ~。じゃあ、私の嬉しかったこと聞いてもらってもいい?」
「全然、大丈夫ですよ。」
面談のはずなのに、これだと雑談でしかない。
そう思いながら彼女の話を聞く。
「最近ね、クラスの子たちが、愛称をつけてくれたの。」
彼女は、手に持っていたバンとペンを置き、身を乗り出しながら話し始めた。
「よかったですね。」
私は、冷めた返事しかできていない。
「千代ちゃん先生だって。かわいくない?」
目の前の彼女が教師であることを忘れるほど、うれしそうだ。
「いいですね。似合ってると思います。」
「でしょ?気に入ってるの。」
年上とは思えないその話し方に、少し緊張の糸がほどけた。
「かわいいですね。」
「ありがと。あと、笑ってる顔のほうが、かわいくて私好きだよ。」
口元が緩んでいたのだろう。
目の前の彼女のせいだ。
思わず、目線を逸らした。
「そんなことないです。」
「変なことを言ったね。他の皆みたいに千代ちゃん先生って呼んでもいいからね。」
「考えてみます。」
「ありがと。あと、私の言ったうれしかったことみたいに、最近あった、何かよかったことって思い出せたかな?」
私は、少し考え答えた。
「最近かわいいぬいぐるみを取れたことですかね。」
「結構、大きいの?」
「このくらいです。」
私は、手のひらサイズのぬいぐるみを両手で囲むようにして伝えた。
「いいな~。ゲームセンターとかは、よく行くの?」
「たまにです。」
「そうなんだね。クレーンゲームは得意なの?」
「いえ、たまたま上手く取れました。」
「すごいね。運命的な出会いだね。」
「そうですね。」
あまりにも先生が上機嫌に話してくれるので、少しこの緊張がバカらしくなる。
「どんなぬいぐるみなのか聞いてもいい?」
「クマのぬいぐるみなんですけど、私と同じ色のヘッドホンをしているので、つい取りたくなってしまって…。」
話しながら、避けていたヘッドホンの話を出してしまってハッとする。
「クマのぬいぐるみって、ただでさえ可愛いのに、そんな可愛い青いヘッドホンをしてるんだったら、私も取りたくなるかも。安藤さん、よかったら今度見せてくれない?」
「鞄に着けてきてもいいですか?」
私は、少し彼女を試すように聞く。
「もちろん。安藤さんはキーホルダーとかつけてないから大歓迎だよ。先輩には、キーホルダーどころか枕を持ってきてる子がいるんだけどね。流石に、初めてそれを見た時は笑っちゃったよね。」
「変わった人がいるんですね。」
彼女の笑い声につられて少し笑いが漏れてしまった。
「そうだね。いろんな人がいて、いつも楽しいよ。」
彼女は、教師という仕事が天職なのだと実感する。
「安藤さん結構真面目に授業受けてくれるから助かってるんだよ。ありがとね。」
「そんなことないです。」
謙遜ではなく、耳を塞ぐ藍色のヘッドホンを思い出し否定した。
「ヘッドホンのことは気にしなくていいからね。」
心臓を掴まれたような気分だ。
まるで、心を読んでいるかのような言動に緊張した。
「心を読んでるみたいでごめんね。」
「え…。」
「なんとなくだけど、私って相手の考えてることがわかるんだ。すごいでしょ?」
「すごいですね。」
私は、少し怯えた声で答える。
もしかしたら、この人になら私のことを分かってもらえるかもしれないという淡い期待をしたが、黒く塗りつぶした。
「ありがと。教師陣は事前に教えてもらえて理解はあるし、いつかそのヘッドホンが自由に着け外しができるように手伝えることがあったら教えてね。」
「わかりました…。」
私は、事前の学校に対する申請用紙には耳が敏感なため、紛らわすために音楽を聴いていることがあると記入していた。
自由な校風通り、素直に書面を信じて対応してくれている。
どの教師も私のこのヘッドホンに対して話してくる人はいなかった。
「それから、話は変わるけど。一年間の目標ってあるかな?」
彼女は、ペンとバンを再び手に取る。
「目標ですか?」
「そう、もし決まってたら教えてほしいかな。」
「すみません。ありません。」
「だよね。たまに決めてる子がいるから一応聞かせてもらったんだけど、困らせてごめんね。」
「大丈夫です。」
「じゃあ、何でもいいから決めておいてくれるかな?目標があったほうが頑張れると思うからね。」
「わかりました。」
「学校についてのほうが嬉しいけど、何でもいいからね。一個でもいいし、何個でも。また決まったら、気軽に教えてね。」
「じゃあ、終わりにしようかな。時間を取らせちゃったね。」
腕時計を見ると、一時間近く時間が経っていた。
何気ない会話だが、少し目の前の教師について知れた気がした。
「あ、あと!」
田中先生は席を立って、私を呼び止めた。
「関係ない話にはなるけど、もし、よかったら軽音部見に来てみてくれない?あ、これチラシね。」
チラシとして渡されたものは、部活紹介で説明された内容が簡潔にまとめられている、張り紙のコピーだった。
「もし、いらなかったらごみ箱に捨てちゃっていいから。」
そう笑いながら私に紙を手渡した。
「少し、机の片づけとかあるから先に帰ってていいからね。最後までありがとね。気を付けて帰ってね。」
「ありがとうございました。失礼しました。」
そう言って私は、少し重たい扉を開けて閉める。
今日の帰り道も、夕陽がきれいに空を彩っていた。
耳に流れる音楽の心地良さとそよ風に攫われるように家に帰った。
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