河原の小石のひとりごと

光野朝風

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河原の小石のひとりごと

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 僕は小石です。
 川原のところにある、投げるにはちょっと手ごろではないくらいの大きさの小石です。
 昔は山の上なんかにいて、もっと体も大きくて、「俺様」だなんて威張り散らしていたけれど今は気持ちも穏やかになって「僕」と言っています。
 ときどき、猫とか、犬とか、人間とか、色々な生き物を見ます。
 たまに見慣れぬ、ワニってやつですか?
 あれが川にいて人間が大騒ぎしていたこともありました。
 僕のとある友達は、ただ黙ってそこにいただけなのに、人間をつまずかせてしまったようでした。
 そうしたら、その石は「このバカやろう!」とか言われて、思いっきり蹴飛ばされていました。
 いえ、男の人ではなく女の人でしたよ。
 なんだか、怒って蹴飛ばしたと思ったら突然泣き出して、今度はまた僕の友達を持って、今度は石を思いっきり振りかぶって川へと投げ始めていました。
 一度じゃ気がすまなかったみたいで、他の友達も同じように投げ込まれていました。
「ナオキのバカヤロー!」とか叫んでいましたよ。
 あとは、学生服の男の人と女の人が、恐る恐るキスをしていたりしていました。
 あんまりじろじろ見ちゃいけないなとか思っていたんですけど、男の人のほうが、「甘い味がする」とか言ったら、女の人に「ぜんぜん」って返されて少ししょんぼりしていました。
 男の人のほうがロマンチストみたいです。
 夏には大きな花火とか空に上がったりするんですよ。
 浴衣の人とかいっぱい来て、感動しているときとか、花火が終わったあととかに、缶とかペットボトルとか、たまにティッシュとか、いろんなごみをたくさん捨てていきます。
 人間って「わあ」なんて言って目をきらきらさせながらごみを捨てられるようです。
 打ち上げ花火じゃなくても、どこからか若い人たちが集まってきて花火で遊ぶんですけど、やっぱりそのままごみを捨てていきます。
 缶とか、ぱぁって綺麗になった後に捨てられちゃった花火たちとかです。
 おかげで、缶たちとも仲良くなれました。
 捨てられちゃった花火たちはしょげて何も言いません。
 そう言えば時折、川原に力なく横たわる缶とかペットボトルの中で言うものがいました。
「用が済んだら、捨てちゃうんだもんな。ひどい仕打ちに、もう心はからっぽさ」
 僕も、そんな気がしていました。
 でも、人間って不思議な生き物で、あれだけ捨てていくのに、他の人が拾いに来るんですよ。
 グループで大きなごみ袋いっぱいに空き缶やペットボトルやコンビニ弁当のプラスチック容器とか、とにかくいろいろ拾っていくんです。
 僕たちは拾われませんけどね。
 ちょっと前にね、また人間が大騒ぎしていたのですよ。
 海からアザラシってやつが来ましてね、僕も見るのが初めてだったのですが、たいそうかわいいやつで、僕も珍しいものだから色々と話しかけて親しくなりましたね。
 でも、なんだかワニとは違う扱いでしたよ。
 ワニは網をかけたりして、持っていってしまったのに、アザラシはみんなキャーキャー言って捕まえようとしません。
 どうしてでしょうね?
 どうやらアザラシは道に迷ったみたいなのですがね、しきりに「海は物凄く汚れてしまったんだ」って言っていましたね。
「仲間が食糧不足や汚れた海のせいでバタバタ死んでいく」とも言っていましたね。
 僕たちは動けないけれど、動けると何かと大変そうです。
「海にもごみがいっぱいなんだ」って言っていました。
 僕は海の様子なんてわからないから、「どうして?」ばっかりでしたよ。
 だって、それしか言えないのですもの。
 僕はごみのことは少しわかるような気がしたけれど、よくわからない話ばかりでした。
 その話をしている時のアザラシの顔はとても悲しそうでしたよ。
 中には、僕の見ている人間とは違う行動をする人間たちがいるようで、網でいっぱい魚を取っていったりするんだと言っていましたね。
「君はずっとここにいるのかい?」
 と、アザラシが聞くものですから、僕は「ずっとこうしているよ。されるがままさ」なんて言って笑っていると、アザラシは言いましたね。
「昔からここはこんなに汚いのかい?」って。
 僕は山から流されてごろごろとここに来たものですから、僕は「山はもっと綺麗なんだけれどね、人間たちの住んでいるところにくると、だんだん汚くなるんだ」って言ったら、「ふぅん」と何を言うまでもなく、それから黙り込んで何かを考えているようでしたね。
 そうしたら、突然ぽつりぽつりと言うんですよ。
「人間って何がしたいのかな?僕らにはちゃんと守らなきゃいけないことがあって、それをみんなで守っているんだ。僕らの住みかを汚したり、食べ物をいっぱいとっていったりして、人間には僕らみたいなルールがないのかな」
 僕はそのアザラシの言うことはよくわからなかった。
 僕たちは、ただじっとここにいるだけなのだから。
 ルールはよくわからないけれど、僕たちは自分で生活を選ぼうと思ってどこかには行けない。
「でも、確かによくわからないね。ごみを捨てたり拾ったりするし、ワニは捕まえたけど、君は捕まえようとしないし、僕にはよくわからないよ」
 僕が言うと、アザラシはペチリと片手で顔を覆った。
 その夜はよく晴れていた。
 雨ばかり降っていたけれど、また久しぶりに星が見られそうだ。
 アザラシが「僕、そろそろ行かなきゃ」って、言い出したんです。
 僕が「海ってやつに帰るのかい?」って聞くと、うんうん、と頷いていた。
「海は汚れてしまったけど、ここはもっと汚いね。僕はよく母親から綺麗な海の話を聞かされたけれど、綺麗な海がどんなものか知らないんだ。僕たちは僕たちでルールを守って生きていかなきゃいけないんだ」
 アザラシのしゃべることは僕にはちっともわからなかったけれど、僕は「君の事は忘れないよ。僕は君が元気にしていられるように、あの一番キラキラしている星に祈っているよ」言ったら、アザラシは「じゃあ僕は君の事思い出すために、あの一番キラキラしている星を見るよ」と言ってくれた。
 そうして夜のうちにアザラシは行ってしまったけれど、僕はアザラシが海ってやつからひょっこり顔を出して、同じ星を見ているんだと思って幸せな気持ちになっている。

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