えっ俺が憧れの劉備玄徳の実の弟!兄上に天下を取らせるため尽力します。

揚惇命

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5章 天下統一

成都に向かう道中にある砦

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 数千人規模に埋め尽くされた成都城までの道中にある蘆塘寨ろとうさいという砦では、迫り来る賊を相手に籠城する3人がいた。

 ???「ふむ。我らの仲間たちも反乱に加わっているようじゃ。味方同士で、一体何をしていることやら」

 ???「父よ。そのような悠長なことを言っている暇は無いぞ」

 片目を眼帯で隠し、大きめの双刀を腰に差し、髪を一つに束ね、男まさりな口調で話す女性。

 ???「桃よ。勇ましいのは結構だが、多勢に無勢、顔見知りもいると来た。勝ち目は無かろうよ」

 桃と呼ばれた男勝りな女性の名は王桃オウトウと言い、蘆塘寨の女盗賊である。

 ???「姉様、準備ができました」

 王桃「悦、死地に付き合わせること、許せ」

 悦と呼ばれた左右に髪を束ね、腰に複数の短剣を差し、背中に弓を背負う女性の名前は、王悦オウエツと言い、姉である王桃と同様に蘆塘寨の女盗賊である。

 王桃「多勢に無勢だからと家族を見捨てるような臆病な父を持った覚えなどない。そこで私の勇姿を見ているがいい」

 この2人の女傑の父の名を王令公オウレイコウと言い、蘆塘寨の盗賊団を束ねる首領である。

 王令公「やれやれ。勝手にせよ。我らと奴らの目的は同じ。劉璋様が治めていた頃の好き勝手な時代に戻すこと」

 王桃「つくづく情けない父だ。しかし、そのような父の行いで生かされている私も妹も同罪。それゆえ、償いたいと思うことの何が悪い。父の仲間だったものたちまで反乱を起こした今こそ変わる時だと何故、わからない!」

 王令公「父に対して口答えをするでない。誰のお陰で、今までこうして無事で過ごせていると思っておる?」

 王悦「そのことに関しては、姉も私もお父様に感謝しております。ですが、此度の件は、姉様に同感です。危機に瀕する成都の皆様を救い我が家の罪を償える機会を得られたと理解しています」

 王令公「フン。そのようなことをしても侵した罪が消えることなどあるまい。なら好き勝手に生きるまでのことじゃ」

 王桃「父よ。分かり合えぬようで、残念だ。私はたとえここで死のうとも我が家の罪と向き合い、償うことを諦めん。父よ今生の別れだ」

 王悦「失礼しますお父様」

 王令公「お前たちのことなど知らん!お前たちはこの家と全く関わり合いのない赤の他人じゃ!勝手にするが良いわい!」

 2人の娘が背を向けると王令公の目には涙が溢れていた。

 王令公「(これで良いのじゃ。これで。娘たちはワシと関係ない。ワシが娘可愛さに女を拉致して劉璋様に差し出していただけのことじゃ)」

 賊が埋め尽くす外に出る2人が驚く。
 そこには城壁に立ち、大声で賊を惹きつける父の姿があったからだ。

 王令公「おーい、ワシじゃ。ワシワシ。そんなとこで何してるんじゃ!はようこっちに戻ってこんか」

 蘆塘寨の賊A「ありゃ頭領」

 信者A「我らの崇高な教えを忘れた賊に教えを説き直さねばなりません」

 蘆塘寨の賊A「うぐっ。な、何しやがる」

 信者A「復唱しなさい」

 蘆塘寨の賊A「何を言って」

 信者A「復唱!」

 蘆塘寨の賊A「は、はぃ」

 信者A「宜しい。1つ、この世の女は全て宗主様に捧げること」

 蘆塘寨の賊A「この世の女は全て宗主様に捧げること」

 信者A「2つ、女は教主様により、宗主様を産む器となる」

 蘆塘寨の賊A「女は教主様により、宗主様を産む器となる」

 信者A「3つ、女しか産めぬ女は、神の器にあらず、慰み者とせよ」

 蘆塘寨の賊A「女しか産めぬ女は、神の器にあらず、慰み者とせよ」

 復唱するごとに深い深い催眠状態へと陥っていく蘆塘寨の賊たち。

 信者A「4つ、教主様に選ばれし神の器は、宗主様の母、崇め奉りて、慰み者どもを犯すべし」

 蘆塘寨の賊A「教主様に選ばれし神の器は、宗主様の母、崇め奉りて、慰み者どもを犯すべし」

 信者A「5つ、女は宗主様からの恵み、有り難く頂戴して、身も心も清めるべし」

 蘆塘寨の賊A「女は宗主様からの恵み、有り難く頂戴して、身も心も清めるべし。女、女、あの砦に女が居るぞ。うおおおおおおお!!!!」

 この賊の言葉を皮切りに信者含め多くのものが蘆塘寨砦へと雪崩れ込む。

 王桃「父を助けにいくぞ悦」

 王悦「はい姉様」

 だが一瞬の出来事だった。

 王令公「娘たちよ!信じた我が道を突き進むが良い!これはワシの罪!お前たちが背負う必要などあるまいぞ!全く、2人の娘に恵まれて、幸せな人生じゃった!」

 父の最後の声が聞こえた後、雪崩れ込んだ盗賊諸共、蘆塘寨の砦が爆発したのである。

 王桃「馬鹿な父だ。死して償えることなど無かろうが」

 王悦「お父様、お父様ーーーーー」

 王桃は握り拳で、太腿を悔しそうに叩き、王悦は王令公の死に涙を流す。
 しかし、吹き飛んだとはいえ、まだまだ敵はいる。

 信者A「これはこれは、こんなところに女が居ましたよ。宗主様からのお恵みです。有り難く頂戴するとしましょう。行きなさい」

 その言葉で突撃してくる信者たちだが次の瞬間には恐怖で顔を引き攣っていた。

 王桃「貴様らのようなくだらない宗教のせいで国が乱れ、1人の男が自らの罪と向き合うことを諦めたのだ。許さんぞ。異端者ども!」

 顔に身体に返り血を浴びようと信者どもを確実に殺すため喉を貫いたり、首を切り落としたり、心臓に突き刺したり、男の急所を切り落としたりと暴れ回る王桃。

 信者A「ヒィィィィィィィ。化け物め」

 王桃「もう一度言ってみろ。異端者。女は宗主様を産む器だったか?糞でも食ってろや」

 信者A「いやだいやだいやだ死にたくない死にたくない死にたくにゃぁぁぁぁぁぁぃぃぃぃぃぃ。ぷぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 王桃「フン。たわいもない。いつまで泣いている悦」

 王悦「姉様、ひぐっひぐっ。だってお父様が」

 王桃「父の身の引き方は、決して許されないことだ。ないてやる必要などない。悲しんでやる必要などない。あんな、子不幸者になど」

 王悦「ですが姉様!」

 そう呟いて、顔を上げた王悦は王桃の顔を見て、何もいえなかった。
 言葉とは裏腹にその目には涙が溢れていたからだ。
 だがそのことを王悦が指摘することもない。
 ただ、嬉しかった悲しいのは自分だけでなく姉も悲しいとわかったから。
 無数の頭のない屍の前で、ただ1人の父のために涙を流す姉の姿を刻み込む王悦だった。
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