えっ俺が憧れの劉備玄徳の実の弟!兄上に天下を取らせるため尽力します。

揚惇命

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5章 天下統一

5年の月日が経過する(曹操編)

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 ボロボロの兗州を見て、捨てるという選択をするのは簡単だろう。
 だが俺は捨てるという選択を取ることはできない。
 許昌の救援に来てくれた劉備に仮を作りたくなくて、差し出したのとは、訳が違う。
 停戦の置き土産として、手を出す許可をした青州とも訳が違う。
 これ以上、土地を失えば間違いなく劉備と雌雄を決する以前の問題となる。
 天がこの時代に2人の英雄を選んだというのなら俺がこの手で天を掴み取ってくれる。
 息子可愛さに油断して、これだけの土地を失った訳だが、司馬懿の奴にはケジメを付けさせねばならん。
 苦渋の決断だが子桓なら司馬懿の居場所を知っていよう。
 だが対面した息子を前にこの言いようのない不安感は何だ?
 目の前にいる子桓は、本物なのか?
 本物か。
 そっくりな人間がいるわけないのに俺としたことが陳留と濮陽の惨状を目にして、だいぶ疲れているのだろう。
 だが、目の前で裸で宙吊りにされている子桓は、何かとは言えないが明らかに前と違うのだ。

 曹丕「フハハハハ。父よ。それで俺に勝ったつもりか」

 曹操「勝った負けたなどと親子で言い合うつもりはない。お前のやり方が間違っていたとも言わん。だがな、俺が献帝様から帝の地位を奪わなかったのは、それをすることの危険性の方が大きかったからだ」

 曹丕「あのような弱い王に肩入れするなど父は老いた。あのような弱い王など必要ない。今、この世界に必要なのは唯一王。それに俺はようやく。いや。フハハハハ」

 曹操「華北を混乱に陥らせ、司馬仲達を好き勝手させたお前の罪は重い。暫く牢に繋がせてもらう。その前に、司馬仲達の居場所を教えてもらおうか?」

 曹丕「逃げ出した小心者のことか。ここの山に隠れている。それこそ俺が見つけたいぐらいだ。計画をことごとく狂わせた奸臣めが」

 曹操「この山にか。聞きたいことは聞いた。此奴を牢に閉じ込めておけ」

 曹丕「フハハハハ。父が甘くて助かる。ここで俺を殺しておかなかったことを絶対に後悔させてやろう。ククク。フハハハハ」

 一見、普通に受け答えしているように見える。
 だが、何故ああも笑えるのだ。
 自分がどれだけの人間を巻き込み、死に追いやったという自責の念はないのか。
 育て方を間違えたのか。
 いや、子桓は、同じ母から産まれた子文や子建や曹熊ソウユウと考え方が違っていた。
 こうも変わるものか。
 いや、父親の俺が疑問に思っては、可哀想だな。
 俺が育て方を間違えたのだ。
 甘いと思われようとも子を殺すことなどできん。
 しっかりと牢で反省してもらわねばな。

 許褚「曹丕様が示してくれたところを徹底的に探したらポツンと一軒、家が建ってたんだなぁ」

 曹操「でかしたぞ虎痴」

 典韋「いやそれなんですが殿。人っこ1人いませんで」

 曹操「そうか。逃げた後か」

 郭嘉「曹操殿、捜索に人を割くかい?」

 曹操「いや、そんな時間はない。一旦、司馬懿のことは捨て置き、兵力と軍備の増強を行う。5年だ。この停戦期間の間に何としても国力を安定させ、劉備と雌雄を決するのだ」

 劉備よ。
 あの日、2人で話したことを覚えているか。
 俺は天が選んだ2人の英雄の片割れで終わるつもりはない。
 天下をこの手に掴むのはこの曹孟徳と知れ。
 今から、その時が楽しみだ。

 夏侯惇「孟徳、話がある」

 曹操「元譲、どうした小声で」

 夏侯惇「内密な話だ」

 曹操「わかった」

 元譲から内密の話とは珍しい。
 何か、あったのか?
 俺は、話を聞いて驚いた。

 曹操「その話は本当なのか?」

 夏侯惇「あぁ、だから内密な話だと言ったのだ」

 曹操「子桓が忽然と牢から姿を消すなど。郭女王の方はどうだ?」

 夏侯惇「牢から出すなら奴らだと踏んで、動向を監視していたが動きはなかった」

 曹操「なら、何処に?」

 夏侯惇「わからん。牢を監視させていた男が鍵を開けたことは間違い無いのだが」

 曹操「まさか、陳留の時のような差異何生じているのか?」

 夏侯惇「あぁ。鍵を開けてないと言っている」

 曹操「だが、鍵は空いていて、状況からその男が開けたことには間違いないのだな?」

 夏侯惇「あぁ。だが、監視の兵は、曹丕のことを知らない奴に任せていた」

 曹操「当然の判断だな」

 夏侯惇「だから、嘘をついているようには思えないのが俺の考えだ」

 曹操「しかし、消えたというのなら子桓は何処に?」

 夏侯惇「郭女王のところでないのは間違いない。後、関わりのある者たちのところも監視していたが動きはない」

 曹操「だから消えたと表現したのか」

 夏侯惇「あぁ。そうとしか思えない」

 曹操「わかった。引き続き、復興に支障が出ない程度に行方を追ってくれ」

 夏侯惇「承知した」

 かつて劉備から聞いた呪術とやらか。
 だとしたら子桓は、何かに取り憑かれている?
 いや、まさかな。
 しかし、人が忽然と痕跡を消すことなどできるであろうか?
 一体、何がどうなっている?
 この世界で、何が起こっているというのだ。
 いや、考えるのはやめておこう。
 劉備とどちらが天下を制するかの戦をするのだ。
 例え、大義が向こうにあろうとも俺は歩みを止めん。
 この手で必ず天下を掴む。

 司馬師「失礼します。父の居場所のことで心当たりが」

 曹操「司馬懿の息子か」

 どうして此奴がここに?
 いや、これが罠だとしても司馬懿にケジメを付けさせる機会を得られるのなら聞いてみようではないか。

 司馬師「母に命じられ、怪しい行動を取る父の監視のため潜入しておりました。父の弟に見破られ、こうして追い出されましたが」

 曹操「お前の話など必要ない。司馬懿の居場所に心当たりがあるのは真か?」

 司馬師「はっ。山にある一軒家を捜索したとお聞きしました」

 曹操「あぁ、それが何か」

 司馬師「あそこには叔父の施した仕掛けがあります」

 曹操「仕掛け?カラクリのようなものか?」

 司馬師「はい。それさえわかれば、居所を見つけることができるかと」

 曹操「それさえわかれば、か。そこに時をかけることはできん」

 司馬師「承知しております。だから俺がその仕掛けを解きます。その暁には」

 曹操「わかった。司馬懿を捕らえるための兵力を融通すると約束しよう」

 司馬師「ありがとうございます」

 1人で探すというのなら別に問題ないだろう。
 その言葉で、コイツが俺を罠に嵌めようとしてる可能性は限りなくゼロに近くなったが、だとしてもそこに兵力を避ける余裕は現状無い。
 見つかればいいと思うしか無いか。
 だが結果として、司馬懿の拠点が見つかることはなく、5年の歳月が流れ、とうとう劉備との停戦の機会が終わりを迎えようとしていた。
 あれから子桓も行方知らずのままだ。
 今、俺の目の前には、あの惨状から立て直し、用意した100万を超える軍と将兵。
 さぁ、劉備よ。
 雌雄を決しようぞ。
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