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2章 オダ郡を一つにまとめる
42話 デイルの動き
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ルードヴィッヒ14世より、タルカに対してオダの侵攻を認める大義名分が発せられてからタルカ郡を治めるデイル・マルは、準備に明け暮れていた。
「クソッ。国境に向かった奴から何の報告もないということは、あのクソガキは大義名分を得ておいて、何をしているのだ。一向に攻めてこないではないか!そうか焦らしか。焦らして俺が攻めるのを待っているのだな。その手には乗らんぞ」
イライラして、そこら中のものに当たり散らかしているデイルの部屋の扉がノックされる。
「デイル様、ベア卿の使者を名乗る者が」
「今更何のようだ。自分にまで害が及ぶことを恐れてあのクソガキに鞍替えしたクソ野郎が」
「では、追い返しますか?」
「いや、話ぐらいは聞いてやろう。通せ」
「はっ」
使者を名乗る男は、デイルもよく知る人物だった。
「サムか」
サム・ライ、騎士爵位を持つ貴族でありながらちょんまげが特徴的で、武力のみならず知力も備えた文武両道の男だ。
何故、ナバルから使者が来たのか、それはドレッド・ベアがオダ郡について書状を書き、タルカに攻めるように促すためである。
しかしサム・ライは、この書状を受け取らなかった。
ドレッドからサブローによるタルカを攻める大義名分を得た方法を伝え聞いたサム・ライは、証拠になるようなものを残すべきではないと使者となり、口で動かすべきだと考えたのである。
「名前を呼び捨てにされる程親しかったかなマル卿」
「ヒヒッ。口を慎むがよい騎士爵如きが」
「相変わらず不気味な笑い声だな。やれやれ。ハインリッヒ卿に煮湯を飲まされ、さぞかし苦境に陥っているであろうマル卿をお助けできないかと来たのだが、必要なかったようだな」
「陛下の前で足枷を外したのは、ベア卿の方ですがねぇ。それに助けたいというのならきちんとこのような口約束ではなく、きちんと誓紙を交わしてもらいですなぁ。ヒヒッ」
「痛いところを付くのも相変わらずだな。しかし、それは断る。ハインリッヒ卿は、切れ者だ。道連れとなりかねない事には、同意できないのでな。だからこうして非公式に使者を立てて、赴いたのだ。あの場で足枷を外すしかなかったドレッド様からの最大限の謝罪と非公式に協力するという御厚意と受け取ってもらえぬか?」
「ヒヒッ。そのような口約束など必要ありませんなぁ。それに共に死んでくれない者をどうやって信じよと言うのですかなぁ?ヒヒッ」
「あくまで共倒れ以外の協力は求めないと?」
「そうですなぁ」
サムは、デイルの反応を見て、少し考えるとオダ郡の公爵家が既にドレッドに付いているという手札のカードを切り出す。
「ふむぅ。困りましたな。ドレッド様は、オダ郡を取る準備を完了された。マル卿が乗ってくれれば、陛下の御前でのことを陳謝して、折半しても良いとおっしゃられたのだが。その気が無いなら仕方がない」
サムの言葉に動揺したデイルは、口調が荒くなる。
「ドレッドがオダを取る準備ができただと!陛下の手出し無用って言葉を無視したって発言ってことで良いか?」
「いやいや、こちらは手を出さん。あくまでオダには、内部から崩壊してもらうまでのこと。その後、ドレッド様の庇護下に入ると。領民から頼られては、こちらも受けざるおえなかったので」
「そういう筋書きか。貴様の考えそうなことだ。それをより確実にするべく俺を利用しようって腹積りなのが見え見えなのが気に食わないがな!」
サムは、デイルの言葉が荒々しくなり冷静さを失ったことに、あと一押しだと手応えを感じていた。
「それがわかっているなら。協力して、甘い汁を吸えば良い。いつものマル卿のようにな」
「ククク。帰ってドレッドに伝えろ、俺は動かん、好きにしろとな」
まさかの言葉にサムは、驚いた。
前のデイルなら美味しいものを目の前にぶら下げられたら飛び付いたはずだ。
それなのに勝手にしろと。
まるで、デイルには、ドレッドの作戦が失敗すると言わんばかりに。
「さぁ、話は終わりですよぉ。どうしても協力して欲しいのなら今度は誓紙を持ってくるのですねぇ。ヒヒッ」
いつものデイルに戻ったので、サムはこれ以上は無駄だと帰って行った。
「デイル様、先程の話、無碍にして良かったのですか?」
「あれは協力ではなくて捨て駒と言うんですよぉ。それに口約束だけなら必要ありませんよぉ。ヒヒッ。国境にいる者たちの監視をしているリゼット君にオダに動きがあれば、このタルカのために死ぬまで戦えと伝えてもらえますかなぁ。ヒヒッ」
「はっ、かしこまりました」
デイルは、サブローの動きは誘いだと読んだ。
ハザマオカ砦での迎撃からの侵攻だと。
だから、動かない。
当のサブローの狙いが内部に蔓延る膿の一切排除だと気付かずに、この時デイルが動いていれば、未来は大きく変わっただろう。
しかし、デイルは動かない選択をした。
デイルにとって、先刻起きたハザマオカでの戦いはナバルの兵を調略し、捨て駒として、突撃させ、あの訳のわからない迷路を攻略して、サブローの首を取るのが目的だった。
しかし、得体の知れない風によって、率いた兵の首が飛び、その後の陛下の御前にて、サブローに良いようにやられてしまった。
元来慎重に事を進めるデイルがより慎重になってしまったのである。
それが良くなかった。
もう一度言おう。
それが良くなかった。
デイルは、最大の好機を逃した。
この時、オダヘ侵攻するべきだったのである。
「クソッ。国境に向かった奴から何の報告もないということは、あのクソガキは大義名分を得ておいて、何をしているのだ。一向に攻めてこないではないか!そうか焦らしか。焦らして俺が攻めるのを待っているのだな。その手には乗らんぞ」
イライラして、そこら中のものに当たり散らかしているデイルの部屋の扉がノックされる。
「デイル様、ベア卿の使者を名乗る者が」
「今更何のようだ。自分にまで害が及ぶことを恐れてあのクソガキに鞍替えしたクソ野郎が」
「では、追い返しますか?」
「いや、話ぐらいは聞いてやろう。通せ」
「はっ」
使者を名乗る男は、デイルもよく知る人物だった。
「サムか」
サム・ライ、騎士爵位を持つ貴族でありながらちょんまげが特徴的で、武力のみならず知力も備えた文武両道の男だ。
何故、ナバルから使者が来たのか、それはドレッド・ベアがオダ郡について書状を書き、タルカに攻めるように促すためである。
しかしサム・ライは、この書状を受け取らなかった。
ドレッドからサブローによるタルカを攻める大義名分を得た方法を伝え聞いたサム・ライは、証拠になるようなものを残すべきではないと使者となり、口で動かすべきだと考えたのである。
「名前を呼び捨てにされる程親しかったかなマル卿」
「ヒヒッ。口を慎むがよい騎士爵如きが」
「相変わらず不気味な笑い声だな。やれやれ。ハインリッヒ卿に煮湯を飲まされ、さぞかし苦境に陥っているであろうマル卿をお助けできないかと来たのだが、必要なかったようだな」
「陛下の前で足枷を外したのは、ベア卿の方ですがねぇ。それに助けたいというのならきちんとこのような口約束ではなく、きちんと誓紙を交わしてもらいですなぁ。ヒヒッ」
「痛いところを付くのも相変わらずだな。しかし、それは断る。ハインリッヒ卿は、切れ者だ。道連れとなりかねない事には、同意できないのでな。だからこうして非公式に使者を立てて、赴いたのだ。あの場で足枷を外すしかなかったドレッド様からの最大限の謝罪と非公式に協力するという御厚意と受け取ってもらえぬか?」
「ヒヒッ。そのような口約束など必要ありませんなぁ。それに共に死んでくれない者をどうやって信じよと言うのですかなぁ?ヒヒッ」
「あくまで共倒れ以外の協力は求めないと?」
「そうですなぁ」
サムは、デイルの反応を見て、少し考えるとオダ郡の公爵家が既にドレッドに付いているという手札のカードを切り出す。
「ふむぅ。困りましたな。ドレッド様は、オダ郡を取る準備を完了された。マル卿が乗ってくれれば、陛下の御前でのことを陳謝して、折半しても良いとおっしゃられたのだが。その気が無いなら仕方がない」
サムの言葉に動揺したデイルは、口調が荒くなる。
「ドレッドがオダを取る準備ができただと!陛下の手出し無用って言葉を無視したって発言ってことで良いか?」
「いやいや、こちらは手を出さん。あくまでオダには、内部から崩壊してもらうまでのこと。その後、ドレッド様の庇護下に入ると。領民から頼られては、こちらも受けざるおえなかったので」
「そういう筋書きか。貴様の考えそうなことだ。それをより確実にするべく俺を利用しようって腹積りなのが見え見えなのが気に食わないがな!」
サムは、デイルの言葉が荒々しくなり冷静さを失ったことに、あと一押しだと手応えを感じていた。
「それがわかっているなら。協力して、甘い汁を吸えば良い。いつものマル卿のようにな」
「ククク。帰ってドレッドに伝えろ、俺は動かん、好きにしろとな」
まさかの言葉にサムは、驚いた。
前のデイルなら美味しいものを目の前にぶら下げられたら飛び付いたはずだ。
それなのに勝手にしろと。
まるで、デイルには、ドレッドの作戦が失敗すると言わんばかりに。
「さぁ、話は終わりですよぉ。どうしても協力して欲しいのなら今度は誓紙を持ってくるのですねぇ。ヒヒッ」
いつものデイルに戻ったので、サムはこれ以上は無駄だと帰って行った。
「デイル様、先程の話、無碍にして良かったのですか?」
「あれは協力ではなくて捨て駒と言うんですよぉ。それに口約束だけなら必要ありませんよぉ。ヒヒッ。国境にいる者たちの監視をしているリゼット君にオダに動きがあれば、このタルカのために死ぬまで戦えと伝えてもらえますかなぁ。ヒヒッ」
「はっ、かしこまりました」
デイルは、サブローの動きは誘いだと読んだ。
ハザマオカ砦での迎撃からの侵攻だと。
だから、動かない。
当のサブローの狙いが内部に蔓延る膿の一切排除だと気付かずに、この時デイルが動いていれば、未来は大きく変わっただろう。
しかし、デイルは動かない選択をした。
デイルにとって、先刻起きたハザマオカでの戦いはナバルの兵を調略し、捨て駒として、突撃させ、あの訳のわからない迷路を攻略して、サブローの首を取るのが目的だった。
しかし、得体の知れない風によって、率いた兵の首が飛び、その後の陛下の御前にて、サブローに良いようにやられてしまった。
元来慎重に事を進めるデイルがより慎重になってしまったのである。
それが良くなかった。
もう一度言おう。
それが良くなかった。
デイルは、最大の好機を逃した。
この時、オダヘ侵攻するべきだったのである。
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