信長英雄記〜かつて第六天魔王と呼ばれた男の転生〜

揚惇命

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2章 オダ郡を一つにまとめる

104話 スエモリの戦い(前編)

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 スエモリ城では、レーニン・ガロリングが苛立ちを募らせていた。

「ええぃ!ナバルの連中は、何をしておる!未だあのクソガキが急造したキャッスルの一つも抜けんのか!大軍を寄越して、この体たらくとは、所詮ハザマオカでクソガキにやられた無能どもの集まりであったか。かくなる上は、おいそこのお前陛下にこの手紙を頼む」

「イエス。マイボス。レター?」

 片言で話すこの男の出身は、ここアイランド公国でもなければ、このヴァルシュラ大陸の出身者でもない。
 魔物蔓延る別の大陸から命からがら逃げてきたところを奴隷売買や武器の供給で儲けるノルマディック王国に捕らえられ、競売にかけられて売られたのである。
 ノルマデイック王国は、動かないのではなく全体の弱体化を図るため裏で手広く糸を引いて、有利な状況を作り出しているのである。
 そんなノルマディック王国に捕まったこの男に名前はない。
 いや、正確にはネルソン・ターナーというれっきとした名前があるのだがこのアイランド公国において、奴隷に名前などない。

「この使えない奴隷が!こっちの言葉をさっさと覚えろと言っているだろうが!」

「バイオレンス。ノー。ノー」

「暴力はやめてだと?何言ってるかわからんわ。これは躾じゃ。このノロマのグズのためのな」

「ペインフル。ミー」

「痛いのは当然であろうが。それと同じくワシも痛いわ!それもこれもお前がこっちの言葉を全く覚えないからであろうが!だからワシがこうして躾をしているのだ」

「ノー。ノー。バイオレンス」

「全く使えん。物珍しさに手を出して、高い買い物をして、こんな何の役にも立たん奴隷であったとは」

「ヘルプ。ヘルプ。ミー」

「誰がお前のような使えないグズを助けるというのだ。クソッ。おい誰か居ないか!」

「はっ。ここに」

「もうお前で良い。この手紙を陛下に届けよ」

「ヒヒッ。畏まりました」

「おい、何だ今の笑い方は?このワシを笑ったのか?アァ!」

 殴られても笑い続けるこの男は、マーガレット・ハインリッヒの居場所を探るため昨日ようやく兵士の1人のフリをして潜入したタルカ郡のデイル・マルである。
 笑っていたのは、この手紙が陛下に宛てたものであることからマーガレット・ハインリッヒの居場所に関することだと推測したからである。

「殴っても笑う気持ち悪い男が!不愉快じゃ!とっとと陛下に手紙を届けよ」

「ヒヒッ。畏まりました」

 こうして、ようやく目的のものを手に入れたデイル・マルは、スエモリ城を後にして、手紙を開くのだがマーガレット・ハインリッヒの居場所が示されたものでは無かった。
 ちなみにレーニン・ガロリングの手紙には次のように書かれていた。

『親愛なるルードヴィッヒ14世陛下へ。
 ロルフが死にもう時期1年となります。
 我が娘の傷もそろそろ癒えたかと、つきましては陛下との婚礼を考えております。
 それには現在統一などと訳のわからぬことを言っているサブロー・ハインリッヒによる横暴を止めねばなりません。
 何卒、サブロー・ハインリッヒに対する横暴をお止めくだされ。
 陛下の親愛なる下僕レーニン・ガロリングより』

 この手紙を見て、デイル・マルは深く考えていた。

 やれやれ、てっきりレーニンのことだから手元にマーガレットを置いていると思っていましたが。
 ずっとマーガレットのところに向かった使者はまだかとしか言ってませんでしたねぇ。
 もう少し早ければその使者の後を尾けられたかと思うと少し残念ですねぇ。
 それにしても何ですかこの手紙は?
 ドレッドの部下であるサムから聞いた話では、話は付いていると。
 ヒヒッ。
 これはこれで、ドレッドを脅す材料にはなりますかねぇ。
 この俺を謀ろうなんて、100年早いですよぉ~。
 まぁ、ハザマオカのリゼット君には、向こうが動かない限り様子見、突撃させる場合は痛くもない人質を取って徴兵した逆らえない馬鹿共だけにして、殺したオダ側が恨みを買うように伝えましたからねぇ。
 まぁ、この手紙があれば、ひとまず十分でしょう。
 リゼット君にも撤退するように伝えますか。
 被害を出すならここではなく人質も見てる前での方が恨みを増幅させやすいですからねぇ。

 その頃、レーニン・ガロリングは。

「手紙はまだ陛下に届かんのか!あの気味の悪い笑い方をする兵士は、何をしている!」

「レーニン様、我が軍に気味の悪い笑い方をする兵士なんていませんが?」

「なんじゃと!?では、あの兵士は一体何者じゃ。もしや、クソガキの密偵であったか。ええぃ。こうしては、おられん。あの手紙をマーガレットに渡されたら、ワシが今一度政略結婚させようとしていることが露呈する。マーガレットの元に向かった使者も帰らんとあっては、もう既にクソガキの魔の手が」

 慌ただしく駆けてくる馬に乗る兵士。

「レーニン様に御報告!サブロー・ハインリッヒが現れました!その数、歩兵・騎兵・弓兵の混合、おそらくショバタキャッスルの全兵力かと!」

「何ぃぃぃぃ!クソガキがここに攻めてきただと!?ちょうど良い。返り討ちにしてくれるわ。全軍、迎撃準備を整えるのだ」

「はっ。すぐに」

 こうして、命運を決めるスエモリの戦いの幕が上がる。
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