信長英雄記〜かつて第六天魔王と呼ばれた男の転生〜

揚惇命

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2章 オダ郡を一つにまとめる

124話 セルの胸騒ぎ

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 サブロー・ハインリッヒは、トガクシの案内に従い安全なルートで、アヅチ城へと向かう。
 多くの反乱貴族がサブロー・ハインリッヒがいるワシヅ砦へと進軍し、アヅチ城を守る防衛戦力はそんなに多くない。
 電光石火の奇襲にて、一気に攻め落とし、反乱貴族の退路を断つ。

「それが本作戦の目的である」

 サブロー・ハインリッヒの言葉にセル・マーケットが口を開く。

「サブロー様の読み通り、スムーズに行けば良いのですが」

「セルが不安に思うのも無理はない。だが、反乱貴族の多くが出たという情報に嘘はない。アヅチを落とすは今」

「でも、何だか胸騒ぎがするんです」

「副長がそこまで不安に思うんならよ。兵を分けるってのはどうだ?」

「マタザさん!兵を分けるったって、どう分けるんです?サブロー様の護衛の方に多く割かないといけませんし」

「それは、副長に」

 親衛隊の隊長を務めるポンチョ・ヨコヅナが口を挟む。

「セルの胸騒ぎは、よく当たるでごわす。ここは、親衛隊であるおいどんたちでサブロー様の周りを固めるでごわす」

 忍びの里トガクシの頭領であるモリトキが口を挟む。

「いや待たれよ。セル殿と言ったか?その胸騒ぎ、どういうものだ?」

「あっはい。モリトキさん。何というか僕の胸騒ぎというのは、敵がサブロー様に対して、罠を張ってそうな。そんな気がして、ならないんです」

「罠か。ダンゾウは居るか!」

「ここに大旦那様」

「至急、ルート上で、暗殺に向いている地形を探れ。そこに恐らく敵が隠れていよう。先に制し、正確な情報を封鎖。ワシヅフォートへと攻め寄せる敵に偽の情報を流せ」

「ははっ!」

 このやり取りにマタザが口を挟む。

「副長の胸騒ぎを信じてくれんのか?」

「人には他のものに見えない第六感というものが存在する。そういうのは大事にすべきだ。セル殿、またそういう何かを感じた時は遠慮なく言ってもらいたい。我らとて殿を守りたいのは同じゆえ」

「は、はい。宜しくお願いしますモリトキさん」

「うむ。こちらこそ宜しく頼むセル殿」

 セル・マーケットの感じた胸騒ぎのように一つだけ安全ルートに少し逸れる形で身を隠しやすい森があった。
 そこにマーズ・グランによって雇われた盗賊団が潜んでいた。

「オカシラ、それにしても盗人の俺らが暗殺とかできるんすかね?」

「アタイに聞くんじゃないよ。暗殺なんて、したことないのはアンタたちがよく知ってるじゃないかい。それにしても暗殺対象が子供だなんて、世も末だね。まぁ、金を受け取っちまった以上、やるしかないのは変わらないさね。気を抜くんじゃないよ。アンタたち」

「ヘイ」

 金さえ積めばどんな宝でも盗み出す有名な盗賊団である。
 それを何を勘違いしたかマーズ・グランは、金さえ積めばどんなことでもやると認識していた。
 これは、マーズ・グランがトガクシに暗殺を依頼してすぐ後のこと。

「暗殺者は、多い方がいいよな。俺をコケにしやがったあのクソガキを殺すためにはよ。他に誰かいねぇのか?」

「マーズ様、金さえ積めば何でもする盗賊団が居ると聞いたことが」

「へぇ。盗賊か。バレずに宝を盗むってんならあのクソガキも簡単に殺せるかもしれねぇな。おい、そいつとコンタクトを取れ」

「承知しましたマーズ様」

 顔も名前も知らない相手と連絡を取る手段は限られていて、手紙にてやり取りをした。
 盗んで欲しい宝と聞いて二つ返事で引き受けたことを後悔する盗賊団のオカシラ。

「チッ。アタイとしたことがまさか盗むお宝が人の命だなんてね」

「オカシラにしては、珍しく気が緩みすぎてやしたね」

「ハァ。これでもアタイは悪人から盗む義賊だったってのにさ。よりにもよって、オダをよくしようとしている領主様の命だなんてね。ままならないものさね」

「オカシラの夢のためには仕方ありやせんよ」

「ハァ。だから憂鬱なんじゃないかい。アタイの夢を叶えてくれそうな相手を暗殺することがね」

「女だ男だと誰もが差別されない世界でやすか」

「話しすぎたね。今日は、こなさそうだね。さっさと寝るよアンタたち」

「ヘイ」

 眠りにつく盗賊団をその場に置いて、そこし離れるオカシラ。

「誰だい?さっきから付けてんのはさ?」

「!?やれやれ、音も気配も消していたつもりですが気付かれるとは?我らが護るべき主のため、貴殿らには消えてもらいますぞ」

「主ときたかい。アンタたち、サブロー・ハインリッヒの手のものだね。良い腕利きを抱えているもんさね」

「知られたところで貴殿のお命は頂戴致す」

「構わないさね。やはり子供を暗殺するのは気が引けるもんさ。ホラ、一思いに。但し、アイツらのことは見逃してやってくれないかい?」

 その言葉を聞いて、悪い人間では無いと判断したダンゾウは、小刀を鞘に収める。

「何やら訳がありそうな様子とお見受けした」

「へぇ。話のわかる人もいたもんさね。なーに、よくあるありきたりな夢の話さね。それを叶えるための資金がこれで得られるのさ。アタイの夢は男だの女だのと差別されない世界を作ることさ。そのためには、そういう人たちが集まる街を作る必要がある。それには金がかかるのさ。だから悪人から騙し取られたって人たちから依頼を受けて、取り返した3割を報酬として、貰ってたのさ。バチが当たったのさ。ホラ。ロクでもないだろう?さぁ、一思いに」

「貴殿を我らが主と引き合わせたい。貴殿らを雇った奴らは我らの頭領を嵌めた奴と同一人物かも知れぬゆえ」

「それは、面白い冗談!ってわけじゃないってのかい。全く、面白いね。良いさ。そういうことなら挨拶しようじゃないかい。案内してくれるかい」

「うむ。承知した」

 マーズ・グランとは、つくづく脇の甘い男である。
 自らが蒔いた種で、トガクシも盗賊団もサブロー・ハインリッヒに引き合わせたのだから。
 こうして、トガクシに続き盗賊団まで、サブロー・ハインリッヒに取り込まれるかも知れない状態となるのだった。
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