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下巻 第三章 (1)
しおりを挟む天美は基地内の営倉(懲罰牢)に閉じ込められていた。
営倉は大抵の軍事施設に存在する。多人数の兵士たちが長期間の集まると、ケンカをするもの、軍律を乱すものたちが必ず出てくる。彼らに反省を、うながせるためにも営倉は必要不可欠なものでもあった。
それ以上の犯罪は軍法会議にかけられ、それなりの処罰をうけることになる。当然というか彼らも、その処分が決まるまでは営倉に留め置かれことになるが、
この米軍基地は、独身兵のほかに家族がいる兵士たちも大勢住んでいた。家族持ちの兵士たちは基地内の官舎に住み、独身兵たちは独身宿舎に住んでいた。
今回、天美が閉じ込められた営倉は、この何棟か存在する独身宿舎の一角にあった。
しかし、また、なぜ営倉なのか、どこにでも閉じ込める場所があるのに。それは、軍の責任者が、拉致した部外者に、何か情報が入ることを恐れ、反対をしたからだ。
軍の責任者は天美の能力について、しっかり把握できていなかった。いくら、独身宿舎が軍事秘密になるようなものがない場所だとしても、兵士たちに接触する場所に留め置くことは、万が一、逃げられたときは、致命的になることを。
諜報部関係の人間が説得を試みたが、彼は首を振らなかった。『逃げられることは、絶対にない!』と力強い声で断言し、押し切った。もともと、天美の移送先を軍事基地にしたのは、迅速に、当日彼女を護送する計画であったので、飛行機出発までの時間ぐらいはということで、諜報部側も許容したのであった。
ジャックたちは、午後六時半頃、基地に戻っていた。
基地内に入った二人は、独身宿舎棟前の入口で、おかしな物を持ち込んでいないかどうか所持品検査を受けた。そのとき、同僚の検査係から、ある情報をつかんでいた。
不思議な顔をしながら、『突然、予告なしに上官があらわれて、大きな布袋をかついだ人物たちと一緒に、この宿舎内に入っていった』と、普通に聞いたら、ちょっと、何かことがあったかな、というぐらいの情報なのだが、ジャックたちには朗報であった。
これで、少しは、かつがれたと懐疑していた少女の情報がうそではないことがわかり、自由に行動をしやすい、自分たちの宿舎内に捕まっている可能性が高まったからだ。
ジャックたちは、この宿舎棟に入ると、さっそく、営倉に向かった。
その問題の営倉扉前には、二人の人物が、丸椅子に座って監視をしていた。一人は、いかにも、軍人の雰囲気をかもしだした軍帽軍服姿の五十代の男性で、もう一人も、同様に五十代か、礼服姿の男性だ。雰囲気からして、大使館側の責任者か。
ものものしい様子から見ても、情報通り少女が捕まっているような感じである。
軍服姿の男性は手持ちぶたさなのか、左の手のひらを、右手でにぎったパイプのような形をした警棒で軽くたたいていた。その襟章には銀製の鷲が羽ばたいた姿が、
彼こそが、天美を営倉に閉じ込めた軍事側の責任者、空軍基地副司令官のドルバー大佐であったのだ。総司令官は不在で、今日は、彼が基地内の全指揮権をにぎっていた。
そのスキのない目つきで、営倉内を見つめている姿を見て、
「ふ、ふくすれいかん!」
ここで、思わずバークが声を上げてしまったのだ。ジャックは、しまったと思ったが、
「大佐殿」
と敬礼するしかなかった。彼は心中で後悔をしていた。まさか、相棒が驚いて声をあげる展開なんて、想像すらしてなかったのか、
現在の行動は様子見が主な目的であった。人数が多ければ改めて大勢の仲間をつのるか、対処できない場合は名残惜しいがあきらめる。逆に、人数が少ない場合は、隠し持っている催涙弾を使って強行手段に出ると。
だが、相手がドルバー大佐とまでは想像をしていなかった。彼らの想像していた大佐像は、強面ながらも面倒見がよく、基地内における、いじめなどは決して認めず、いじめ側を断罪する、弱者の味方であったのだ。
だが彼らは失念していた。どんな、温厚な人物でも、国家に忠誠を誓う上級軍人であることを。そのドルバー大佐は、見つかった二人に対して声をかけてきた。
「おう、君たち、どうしたんだよ?」
部下たちに慕われるだけあって、言葉遣いが、上司のわりにフランクな人物だ。
「自分たちは、ここに、ちょっと・・」
ジャックはそう答えるのが精一杯であった。事の重大さに動転しながら、バークも真っ青の顔だ。ドルバーは、その様子を見てニヤリと笑った。
〈こいつら、できてるな〉
と、およそ、どこでもそうだが、軍事基地は圧倒的に男性が多かった。そのため、男同士がカップルになるのは珍しくないのだ。中では、雰囲気を味わうために、わざわざ、営倉でプレイを楽しむ場合もあった。大佐は、そのようなことを知り尽くしているので、大佐は笑みを浮かべていたのである。
「ははは、しかし残念だが、今日は使用禁止だ。よそでやってきたまえ」
その思わぬ成り行きに、ジャックは思わずバークを見つめた。それを、また勘違いしたのか、ドルバー大佐は言葉を続けた。
「さあさあ、ここで、そんなものを見せつけるのはやめて、どこかに行きなさい。そこで、座っていらっしゃる大使館の方も困っておるぞ」
「た、大すかん!」
バークは再び驚きの声を上げた。
「君たちに関係ない人物だが、一応は紹介をしておこう。カルトナー駐日公使だ。ということで、とっとと、帰りなさい」
「すみませんでした」
「イエッサー」
二人は勢いよく敬礼をして、その場を退散しようとした。まずは、見つかったということで、一旦は退くという考えである。
そのとき、一人の男性が戻ってきた。この男も、五十代半ばか、
「やはり、ここは広いな。簡単な用件だったが、思ったより時間がかかってしまった。今から、すぐ出発の用意をしないとな」
そう声をかけてきた男は、鷲鼻で見たことのない制服を着ていた。彼はジャックとバークの姿を射るような目つきで見つめていたが、すぐに、険しい顔になって声を出した、
「どうして、ここに下官が!」
「ビュイッグ殿。このものたちは、営倉で、その何を言いにくいのですが・・」
ドルバーは部下を、かばおうとしたが、
「何を言っているのかな、君も今回は、どれほどの機密事項かわかっているだろう」
ビュイッグという名の男は、冷たい口調で答えた。しかし、副司令官に殿と呼ばせ、偉そうに君呼ばわりをした、この人物は?
「ですが、このものたちは、たまたま、出くわしただけであって、決して・・」
ドルバーは、なおも弁解を続けようとしたが、
「関係ない! この現場を見てしまったからには、素直に返すわけにはいかない!」
ビュイッグは切り捨てるように答えた。
「では、支部長は、いかがなさる、おつもりで」
「気の毒だが、記憶を消すしかないな」
その支部長という声で、ジャックはあることに思い当たった。
〈そうだ。この制服はCIA、つまり支部長というのは、CIA日本支部長〉
ジャックは、目の前に開けた活路が閉じてしまった現実を知り、絶望的な気分になった。
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