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第一部

冥王も死ぬの?

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「冥王室の出入りって、

死神以外では派遣課と再生課しか、

いかないだろう? 

何か聞いてないの? 」

牧野が聞いた。

「みんなが知っていること以外は、

聞いたことはないけど、

今の冥王も任務について二百年くらいだし」

「えっ? 冥王って変わるの? 」

三人が驚いて声を揃えた。

「ああ。

いきなり辞令がきて冥王になるらしい。

前任者が亡くなって就任したそうだよ」

「冥王も死ぬの? 」

牧野がビックリした顔をした。

「らしいですね。

俺もよく知らないけど、

人間より長く生きているのは確かです。

昔のこともよく知ってるし、

源じいとは楽しそうに話してますよ。

考えたら冥王も可哀想です。

冥界をうろつくくらいしか、

楽しみがないからね」

「そうなの? 私任命されたときに、

ちらっと見ただけだから、

冥王がどんな姿してるかよくわかんない」

「俺も知らない」

早紀と牧野は顔を見合わせた。

「角があるのをのぞけば、

イケオジ? なんじゃないの」

「ええ~見たい」

「俺も見たい~」

二人が言った。

「冥界にいれば会えると思うけどね。

ちょこちょこ顔を出してますよ」

「ほんとかよ」

牧野は怪訝そうな顔をした。

「そういえば再生課の新田君て、

有名な人気俳優じゃない。

人間界をうろついてて大丈夫なの? 」


今から二年前。

二十七歳の人気俳優が亡くなった事件は、

それはもう大騒ぎだった。

熱狂的ファンが警備をすり抜け、

新田に抱きつき、

それに続いたファンがドミノ倒しのようになり、

結果新田は下敷きになり死亡。


「あの事件は冥界でも話題だったでしょ。

まさか、彼が特例になるとは思わなかったけど」

「俺達は知人に会ったとしても、

分からないようにシールドが付いてるけど、

熱狂的なファンだと、

そのシールドを突き破ることがあるんですよ。

だから人間界にいる時間の少ない再生課に、

新田君は配属されているわけ」


再生課は消去課から運ばれた霊魂を、

再生させるために壺へと封印し、

冥王に届けるのが仕事だ。

消去も霊魂の上書き回数により、

再生の仕分けが必要になり、

新しいもの、年代物で分けられる。

なので再生課は他の特例のヘルプ以外では、

あまり下界には降りてこない。


「人気者は大変だな」

牧野が片肘をついて言った。

「誰が人気者だって? 」

「えっ? 」

四人が振り返った。

「おやおや、噂をすれば、

男前の新田君じゃないか」

田所は椅子を引くと、

座りなよという合図をした。

「いつ見ても目の保養~

冥界では一に新田、

二に向井っていわれてるのよね」

「俺は? 」

牧野が自分を指さす。

「あんた自分の顔、鏡で見たことあるの? 」

「ちぇっ」

「それより、珍しいよね。

新田君がこんなところに顔を出すなんて」

「向井さんのせいですよ。

雑誌が読みたくて、

冥王は寝ないで待ってますよ。

あと特別室のお偉いさんが、

向井はどうしたって、

そりゃもう、

えらい剣幕で死神に怒鳴り散らしたみたいで、

ピリピリしてます」

「ハハハ。年取ると我慢できなくなるんですよね。

これ飲んだら帰りますから。

新田君もここまで来たんだから、飲んでいきなよ」

「当然でしょ。久しぶりの下界なんだから、

飲んでいきますよ」

新田はチューハイを注文した。

「十二人しかいない特例が、

ここに五人も揃ってるなんてね」

「五人じゃないよ。六人」

「えっ? 」

五人が声の方を振り返ると、

小柄な目つきの鋭い若者が立っていた。

少年にしか見えない彼は姿を消して、

すんなり居酒屋に入ってきた。

「おや、安達君。

君も仕事帰りかい? 」

田所が聞くと、

安達は隣の席から椅子を持ってきて、

向井と牧野の間に割り込んだ。

ここで一番年が近いからか、

牧野にはよく突っかかっている。

「俺は安達より先輩ですからね。

こんなことで目くじら立てたりしませんよ」

牧野は挑発するように言った。

「………」

安達は無言で店員が運んできたチューハイを飲んだ。

「あっ、それ俺の……」

新田は仕方なさそうに、再度オーダーした。

十七歳で亡くなった安達は、

特例の中では一番年若く、

容姿は少年にしか見えない、

少し異質な存在だ。

頭には、

人には見ることのできない、

孫悟空の緊箍児きんこじのような輪が嵌められている。

向井は安達に声をかけた。

「今日は朝から随分と霊の補導をしてくれたみたいで、

助かったよ」

「……うん」

「もう。

感謝されたら有難うでしょ」

早紀が安達の頭をボンッと強く叩いた。

「…………」

安達は何も言わずに頭を触った。
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