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第一部

くるみのダンス

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トレーニングルームはサロンから更に離れた、

死神課の先にある。

死神が体のメンテの為に、

トレーニングする場所だ。

奥にはそれぞれの死神の自室が設けられているので、

身体のメンテ以外ではそこか、

休憩室にいることが多い。

くるみは室内に通され、

圧倒されたように他の死神たちを見ていた。

「凄い……ここって、

死んだ人たちが来るところなんだよね」

「ハハハ。確かに死人ばかリがいる場所には、

思えないよね」

向井が笑いながら言うと、

部屋の奥から二十代くらいの男性がやってきた。

彼もデスクワーク担当の死神で、

憑依される死神のメンテと、

トレーニングを担当していた。

「こんにちは。僕はエルフです」

くるみは小さく頭を下げた。

「初めての憑依は、

君にとっても違和感があると思うので、

馴染むまで僕がトレーナーとしてつきます。

最初は体が浮いた感じだけど、

少しずつ馴染んで、

自分の意思で動かせるようになります」

「あの、この人は俺が中にいる間、

どうなってるの? 」

「核……君達でいう魂の中に入っています。

君は体を借りているだけだからね。

だから、話していることも行動も、

全て分かっています。

君が意図しない行動をとろうとすると、

核に取り込まれて、

再生以前に消されてしまうので、

身体をお借りしているという事は、

忘れないでください」

「分かった」

くるみは頷いた。

「じゃあ、憑依してみましょうか」

エルフがいい、ティンは軽く体を動かすと、

くるみの手を取った。

「わっ……!! 」

くるみの体がスッと吸い込まれて、

ティンの中に入っていった。

「どう? 」

向井が聞くと、

「ちょっと、ムズムズする感じ……」

「じゃあ、軽く体を動かしてみて」

エルフに言われて、

くるみは手足を動かした。

「……軽く動く。凄い……」

“それは俺が、

毎日トレーニングしてるからです”

「なに? 頭の中で声がする!! 」

「大丈夫。ティンが君に話しかけてるだけだから。

この体にいる間、ティンは核の中にいるので、

たまに声が聞こえてくることもありますが、

君のダンスを邪魔することはないです」

「体が馴染んでるみたいだし、軽く踊ってみる? 」

向井がいうと、エルフもティンの様子を見て、

「くるみ君との相性もいいみたいですね」

「くるみモデルのダンススニーカーも用意しておいたし、

足に馴染ませたいでしょ? 」

向井が持っていた袋から、

シューズを取り出した。

くるみは嬉しそうにそれを受け取ると、

早速履いてみた。

ティンの方が身長もあるので、

ダンスの感覚もすぐにはつかめないだろう。

くるみはミラーの前で、

ストレッチを始めた。

ある程度の運動がおわるのを見計らって、

「ヴィヴィ。ストリートダンスの曲かけて。

ジャンルはランダムでね」

エルフが言った。

ヴィヴィは冥王がどうしても入れたいと作った、

冥界のバーチャルアシスタントだ。

驚くくるみをよそに、

音楽が流れてきた。

最初はぎこちなかった体の動きが、

徐々に慣れてきたのか、

軽やかにリズムを刻み始めた。

スピードが速くなってくると、

その場にいた死神たちも、

彼のパフォーマンスを魅入るように、

個々の作業を止めた。

向井もストリートダンスを間近で見るのは、

初めてだったので、

その姿に息をのんで見守っていた。

自分の体でもないのに、

これほどのダンスを踊れるとは。

セイが夢中になるはずだ。

無理なことは十分理解していても、

彼にはもっともっと踊っていてほしい。

思わずそう願っている自分がいた。

曲が終わった後もその場にいたものは、

向井と同じ思いでくるみを見ていたのだろう。

凄い……

誰もが動けず声も出せずにいた。

その空気を打ち破ったのは、

パチパチパチパチ――――

セイだった。

「凄い! 凄い!! 凄い~~~~~」

ドア口でのぞいて見学していたセイが、

夢中になって拍手をしていた。

興奮しているのか、顔が真っ赤になっている。

「生で見られるなんて」

室内に入ってくると手を取って握った。

「僕、あなたの大ファンなんです」

そういったところで、

「あっ、ティンじゃん。

くるみ君を出して……」

憑依されている時は、

冥界の人間には重ねて見えることもあるので、

セイにはくるみが見えていたのだろう。

その場にいたものが呆気に取られていると、

「お前、持ち場を離れるんじゃない!! 

これから霊電のメンテがあると言っただろう」

五十代くらいのガタイのいい男性が、

部屋に乗り込んできた。

「少しくらいいいじゃないですか!! 」

調査室室長は文句を言うセイの襟をつかむと、

「ほら、行くぞ!! 」

と、引っ張っていった。

「くるみ君~サイン、サイン~!! 」

セイの叫び声に、

死神たちはハッと我に返った。

「いやはや、凄いなぁ」

エルフは驚いた様子で言った。

「これならオーデション通るんじゃないの? 」

周りにいた死神たちも驚愕した顔で頷いている。

ティンから出たくるみが、

死神たちと楽しそうにしている姿を見て、

「これがあるから、

死んでるのに頑張ろうと思っちゃうんですよね~」

向井は見守るような気持ちでほほ笑んだ。
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