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第一部

冥王のお絵かき

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廊下の騒ぎがおさまるのと同時に、

工房から妖鬼と花村が、

何やら楽しそうに話しながら出てきた。

「じゃあ、下絵が出来たら作業を始めるから」

「俺の腕も役立ちそうで嬉しいよ」

妖鬼が手を振り去っていくと、

花村がサロンに戻ってきた。

「随分楽しそうだったけど、工房はどうでした? 」

向井が花村に声をかけた。

「妖鬼君のおかげで、

私の思う通りの作業場になって助かったよ。

彼、宮大工としての腕も立派だよね。

関所にある深彫りの装飾は、

妖鬼君の作品なんだってね」

花村が驚いたように話した。

「ああ、そういえば、

図書室にある和室の透かし深彫りも、

妖鬼さんが仕上げたって言ってました」

花村が納得するように頷いた。

「さっき工房に冥王が来てね。

私と妖鬼君に自分の思いをたっぷり話されて、

おかげで冥王が描くイメージも分かったよ」

「全く、あの人は…………

冥王のものは後回しだって言ったんですけどね」

「いやいや、

それが彼の話を聞いたら、

私も妖鬼君も楽しくなっちゃってね。

メインは龍で衝立がいいそうだよ」

そういって一枚の紙を見せてくれた。

「酷い絵ですね。これ冥王が描かれたんですか? 」

「まあ、子供の落書きのようだけど、

細かいところにチェックが入っていて、

設計図みたいでしょ。

どんな思いでこれを描いていたんだろうと考えたら、

妖鬼君と笑っちゃってね」

「確かに」

二人は冥王が机に向かって、

真剣にお絵描きしている姿を思い浮かべて、

笑いが止まらなくなった。

「冥王は面白い方だよね」

「そうですね。

ある意味素直なんで、

扱いやすいとも言えますけどね」

「酷いなぁ~」

「あははは。

でも閻魔様のイメージが違うのは事実でしょ? 」

「うんうん」

花村も楽しそうに頷くと、

「この作品は仕上げ彫りまで時間がかかりそうだから、

すぐにでも始めないと」

と言いながら、部屋の奥に消えていった。

さて、俺も仕事をするか。

「と、その前に…マッサージチェアーでほぐしていこう」

向井は肩をもみながら、

トレーニングルームに向かった。
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