上 下
62 / 351
第二部

作家 河原

しおりを挟む
「おや、ご機嫌斜めですね~」

冥王が言うと、

「当たり前でしょ。

あの未完の小説が映画になるっていうんだもん。

終わってない部分は違う作家が書くって言うんだから、

これが怒らずにいられるかってのよ」

河原は円形ベンチに座った。

ギャラリーの中央には長方形のロング書棚があり、

それを囲むようにベンチが置かれている。

虎獅狼達がギャラリーで本を読みたいというので、

人気書物だけそこに置かれていた。

「おぬしのあの中途半端な小説が映画に? 」

虎獅狼が言った。

「失礼な。

書きかけで死んじゃったから未完になってるだけで、

続きは書いてます」

「本当ですか? 」

向井が顔を覗くと、

「あのね~あれは長編中の長編で考えてたの。

二十巻、三十巻と長く書くつもりだったから、

プロットもその都度書き足してたの。

まさかこんなに早く死ぬなんて、

思ってなかったしさ」

河原はむくれた顔をした。

「そんなに長く続く予定の本だったのですか? 」

冥王も驚いたように河原の顔を見た。

「そうだよ。君たちも読んだならわかるでしょ。

あれは魔界のファンタジーで、

何代にもわたる主人公の戦いの物語なんだもん。

異世界にも行くし、閻魔界にも行くの」

「あれは面白い、面白いがしかし、

閻魔は酷すぎる。私はあんな残虐非道ではないですよ」

「仕方ないじゃん。あくまでも私の想像なんだから」

「想像……想像の中の私は、

みんなにとってあんなに恐ろしいのか…

印象が悪くなるから、もう少し優しくできないかね」

「想像なんて何にも役に立たないよね。

死んでここに来たら実際はこれだし……」

河原が冥王を指さした。

「失礼な。ここのものは、

私を何だと思っているんですか」

冥王がふくれっ面になる。

「まあまあ、それだけ親しみやすいという事だろ」

虎獅狼が笑いながら宥めた。

「だって鬼は人間を食べるって言われてたし、

妖怪も人の血を吸うって」

「全く、人間とは恐ろしい生き物だな。

妖怪の方が余程情が深いというものよ。

抑々、鬼は人なんだぞ。

人間には妬みや僻みと言った陰湿なものを、

内に秘めてるものが多い。

それが鬼を生むんだ」

虎獅狼は情けないと言いたげに首を振った。

「別に鬼や妖怪が何を食べようが、

いいじゃないですか? 

ただの物語なんですから」

「私は嫌ですよ。

食事は体を作る大切なものなんですから、

栄養ある美味しいものが食べたいです。」

「冥王はグルメだもんね」

河原はそういって、冥王を見た。

「俺だって季節のものを食べたいぞ」

虎獅狼が言うと、

冥王もそうだそうだと頷く。

「でさ、そんなことを考えてたら、

物語が迷走して、

少しストーリーが変わってきちゃったのよ。

だから映画化は嫌なんだよね」

「なるほど」

虎獅狼が気持ちはわかるぞというように、

頷いた。

「とりあえず完結まで時間はかかるけど、

書いてるから。

まぁ、気長に待っててよ。

それに他の話も書きたいし。

この前の冥界ラブロマンスは、

冥王と盛り上がっちゃったよね~」

「あれは傑作ですよ。

出来れば連ドラにしたいくらいです」

二人はニコニコ笑いながら楽しそうだ。

「うちには新田君というスターはいるけど、

女優がいないのが残念です。

いたら冥界ドラマを作りたいですね~」

冥王は次から次へと、

色んなことを思いつく人だなと、

向井は飽きれながら見ていた。

「あ~冥王いた~」

そんな話をしていると、

三鬼とこんがギャラリーに飛び込んできた。

座っている冥王の背中に飛び乗ると、

「かんなくず集めてきたよ~」

「冥王来ないから探しに来た」

嬉しそうに言った。

冥王は二人を背負うと、

「そうか。じゃあ、作りに行くか」

「子供に材料集めさせて、

冥王はここでおしゃべりですか。

お殿様はいい御身分ですね」

向井が言うと、

こんが冥王のブローチを見て聞いた。

「これなあに? 」

「冥王の顔? カッコイイ~僕も欲しい!! 」

「こんも欲しい~」

冥王が向井の顔を見て、

しまったという表情をした。

『だから、言ったじゃないですか』

向井が口だけ動かして言う。

「じゃあ、山川と作家さんにお願いしてみようか」

「お願いしたら作ってくれる? 」

「いい子でお願いしたら、

作ってくれるかもしれませんよ」

「じゃあ、早くいこ~!! 」

「工房に行くなら、俺も行くぞ」

虎獅狼もいい、

冥王は三鬼とこんに引きずられ、

妖怪とともに部屋を出て行った。

「あれが冥王だからなぁ~

何か威厳あるイメージで物語を作ってたから、

根底から覆っちゃうんだよね」

河原もそういうと、

図書室へと戻っていった。

「あっ、アメジストドームのこと、

言おうと思ってたのに忘れた。

まあ、いいか」

向井もこれ以上邪魔が入らないうちにと、

仮眠を取りに休憩室に向かった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

王子に転生したので悪役令嬢と正統派ヒロインと共に無双する

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:411pt お気に入り:276

チートなタブレットを持って快適異世界生活

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:802pt お気に入り:14,313

GB版【お試しサイズ】リーチ・ザ・サミットフィルム

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:2

貴方達から離れたら思った以上に幸せです!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:208,635pt お気に入り:12,420

転生幼女はお詫びチートで異世界ごーいんぐまいうぇい

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7,660pt お気に入り:23,936

【完結】契約妻の小さな復讐

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,553pt お気に入り:5,877

こっちは遊びでやってんだ

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:85pt お気に入り:0

処理中です...