上 下
86 / 352
第三部

冥界図書室

しおりを挟む
その声に向井達が振り返ると、

伸びをする牧野が立っていた。

「あ~よく寝た。図書室の椅子って寝心地いいよね」

「わがままって、私ですか? 

牧野君に言われたくないですね~」

「俺のはわがままじゃなくて正直なの」

「ほお~勝手気侭に行動しているものを正直とは、

いつからそうなったんでしょうね~」

「なんだよ。喧嘩売ってるの? 」

くだらないことで言い争っている二人を、

向井はばかばかしく見ていた。

「あぁそうだ。この前の発表会。

虎獅狼達がまた参戦したいそうですよ。

なんだか盛り上がってましたから、

余程楽しかったんでしょうね。

他の妖怪も出たいと言ってました」

「だったら、俺もリベンジする! 

佐久間の紙切りが準優勝なんて悔しいじゃん」

「でも、佐久間さんの副賞のA5ランクの肉で、

焼き肉して一番多く食べてたの牧野君でしょう? 」

「それはそれ、これはこれ。

皆だって食べたじゃん。

で、俺って結局何位だったのよ。

早紀や源じいたちにも負けたんだよ」

「参加できなかった死神達もいるし、

大盛況でしたからね。

またやりますか」

つい数秒前まで文句を言いあっていたのに、

もう忘れてる。

言いたいことを言っても許されてしまう。

牧野君のこの性格だけは、

神様が彼に与えた特権のように思えるな。

向井は楽しそうな二人を見ながら微笑んだ。



数日後―――

地震と水害が続けて発生し、

下界ではちょっとした騒ぎになっていた。

冥界でもアートン達が冥王と執務室にこもって、

何やら話し合いをしていた。

特別室も騒がしくなり、

大沢からの呼び出しも頻繁になっていた。

向井がそのことを冥王に伝えると、

「暫くは特別室には行かなくていいです。

何か問題がある時は私が処理します。

なので、

向井君には下界での変動を見ていてもらえますか? 」

「結界か………」

向井のつぶやきに冥王の眉が上がった。

「実は虎獅狼から結界の事を聞いたんですけど、

詳しいことは冥王から聞けと言われて。

この災害にはそれが関係しているんですか? 」

「この前図書室で、

聞きたいことがあると言っていましたが、

その事ですか」

「はい」

「………いずれ君には説明しますが、

今は下界も冥界も迷走状態です。

結論が出ないままに動いているので、

しばらく様子を見たあと、

君にもお願いをすることになると思います。

安達君のことも頼みます」

「分かりました」

冥王が口を濁すときは、

それ以上今は言いたくないという事なので、

向井は頭を下げると静かに執務室を出た。

下界の災害がこのまま治まらないとなると………

大きな事件に発展しそうだな。

向井はパトロールの為、

その足で下界に下りた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

王子に転生したので悪役令嬢と正統派ヒロインと共に無双する

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:681pt お気に入り:276

チートなタブレットを持って快適異世界生活

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,143pt お気に入り:14,313

GB版【お試しサイズ】リーチ・ザ・サミットフィルム

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:2

貴方達から離れたら思った以上に幸せです!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:207,307pt お気に入り:12,435

転生幼女はお詫びチートで異世界ごーいんぐまいうぇい

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7,653pt お気に入り:23,938

【完結】契約妻の小さな復讐

恋愛 / 完結 24h.ポイント:5,104pt お気に入り:5,879

こっちは遊びでやってんだ

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:85pt お気に入り:0

処理中です...