上 下
92 / 351
第三部

アニメと安達

しおりを挟む
そして今は、TVを占領中という事か。

冥王から、

「安達君はしばらくはここで過ごしてもらって、

それから仕事に入るから、

君達もそのつもりでいてくださいね」

と言われたが、

これは少し様子を見ていた方がいいのかもしれないな。

冥王が俺だけに言ったという事は、

何か言えない理由があるんだろう。

向井は室内に入ると、安達に声をかけた。

「安達君? 」

向井の声も聞こえないのか、凄い集中力だ。

「アニメは面白いですか? 」

その声にやっと安達が振り返った。

「面白い。漫画は読んだことあるけど、

動くのは初めて。凄いね」

安達はアニメのことを話すときは、

特に幼くなる。

「うん、だけど疲れない? 

少し休んだら? 

見たいものがあるなら録画しておけば、

いつでも見れるから」

「……そういえば、ちょっと疲れた。

でも、これ見たいんだ」

「だったら、録画しておいてあげるから、

少し寝ておいで」

「……分かった。眠ってくる」

安達はそういうと立ち上がり、

ふらふらしながら自室に戻っていった。

「向井はスゲエ~

俺があれだけ声かけても動かなかったのに」

向井がリモコンで録画をしていると、

牧野がびっくりした様子で近づいてきた。

「ちょうど眠くなってたんじゃないですか? 」

向井が笑って言った。

「あいつってやっぱ変」

牧野は安達の去った方向に目をやると、

ぽつりと言った。



その三日後―――

新たな大画面モニターが三台設置され、

牧野も寝ながらプロ野球を観戦していた。

「安達君はいませんね」

向井が聞くと、

「さっき、ディッセが来て、

安達を冥王のところに連れてったよ。

なんか、新しいリングがどうとか言ってた」

リングが出来上がったのかな?

向井はそんなことを考えながら、

牧野に声をかけた。

「俺はちょっと仕事で下界に下りるので、

アートンさんに聞かれたらそう言っといてください」

「何かあるの? 」

「ん~大したことじゃないんですけど、

冥王に話があるので」

「分かった」

向井が部屋を出ようとすると、

「お土産欲しい~食いもんがいい~」

牧野の声がかぶさってきた。

「買えたらね」

向井は笑うと下界に下りて行った。


――――――――


黒谷翔太。

高田に言われて気になっていたので、

冥王に尋ねてみると、

「ああ、彼ね。

どうも特殊みたいで、

特例が見えないように、

何度も消去を試みたんだけど、

成功しないんですよ。

調べてみたらどこを探しても、

彼のような人間はいないんです。

不思議ですよね。

彼が寿命を全うせずここに来たら、

即特例にするんですけどね」

「縁起でもない」

向井が渋い顔をしていった。

「特例になるというのは、

本当に特別なんですよ。

魂魄は魄が強いと鬼になり、人に害をなします。

鬼は人というのは嘘ではありませんよ。

特例は精神も肉体も、

強い存在のものにしか務まらないので、

子供は除外されます。

鬼は陰、神は陽。

その両方を持った者が鬼神であり、

君達特例です。

誰でもなれるわけではないんです」

冥王はそういうと真剣な顔で向井を見た。

「それにね。人間は霊が好きなんですよね。

ほら、よく守護霊の話などもするでしょう。

でも実際は殆ど光の渦に乗って、

ここから成仏されてるので、

いない人が多いんですよ」

「えっ? はっ? 」

向井が間抜けな声を出した。

「守護霊の多くは補導できなかった、

光の渦に乗らなかった霊です。

別に悪霊でもないので無理に祓いませんけど、

その人間と霊波動が合ったという事でしょう。

守護するわけではありませんが、

その人間のそばにいたければ、

守らないわけにいきませんから、

自然と守護しているというわけです」

冥王が笑った。

向井は人間だった時の情報が、

どんどん崩れてきて、

何が何だか分からなくなってきていた。

「そんなに難しい顔をしなくても、

ここにいれば自ずと分かっていきますよ。

君たちの先祖だって、

調べればいつ生まれ変わっているのか分かります。

もちろん君たちのその前のこともね」

冥王が笑いながら話す。

「その黒谷君と高田さんも、

不即不離の関係を保っていたので、

向井君も大丈夫です」

冥王にそういわれて、

黒谷が住むという団地に来てみたのはいいが……

引っ越しする人が多いのか、

人が次から次へと荷物をもって移動していた。

向井が不思議そうに眺めていると、

一人の男性が近づいてきた。

「もしかして高田さんの次の人? ん? 

人でいいのか?」

そういって腕を組んで考え込むと言った。

中肉中背。

人懐っこい笑顔の作業着姿の男は、

向井を見ると話しかけてきた。

「俺、黒谷。高田さんから聞いてない? 」

「あ、いや、向井です。

想像していたより若くて、

少し驚きました」

「えっ? 俺、カッコいい? 」

「いや、カッコいいとは……」

「まいっちゃったなぁ~あははは」

人の話をきちんと聞くタイプではないようだ。

「写真で見るともう少しがっちりして見えたので」

「どの写真? 見せて? 」

向井が高田に渡されたタブレットを見せると、

「これ、六年位前の写真じゃん。

この時はリストラにあって、

人生お先真っ暗だった時だな。

彼女にも振られて、

仕事も住むところもなくなってさ。

もう、死ぬしかないかって思ってたら、

高田さんに会ったんだよ」

「そうなんですか」

「今はこの時より年は食ってるけど、

体重落ちてるからな」

黒谷は明るく言った。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

王子に転生したので悪役令嬢と正統派ヒロインと共に無双する

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:269pt お気に入り:276

チートなタブレットを持って快適異世界生活

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:710pt お気に入り:14,313

GB版【お試しサイズ】リーチ・ザ・サミットフィルム

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:2

貴方達から離れたら思った以上に幸せです!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:206,646pt お気に入り:12,410

転生幼女はお詫びチートで異世界ごーいんぐまいうぇい

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7,717pt お気に入り:23,938

【完結】契約妻の小さな復讐

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,158pt お気に入り:5,875

こっちは遊びでやってんだ

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:56pt お気に入り:0

処理中です...