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第三部
アニメと安達
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そして今は、TVを占領中という事か。
冥王から、
「安達君はしばらくはここで過ごしてもらって、
それから仕事に入るから、
君達もそのつもりでいてくださいね」
と言われたが、
これは少し様子を見ていた方がいいのかもしれないな。
冥王が俺だけに言ったという事は、
何か言えない理由があるんだろう。
向井は室内に入ると、安達に声をかけた。
「安達君? 」
向井の声も聞こえないのか、凄い集中力だ。
「アニメは面白いですか? 」
その声にやっと安達が振り返った。
「面白い。漫画は読んだことあるけど、
動くのは初めて。凄いね」
安達はアニメのことを話すときは、
特に幼くなる。
「うん、だけど疲れない?
少し休んだら?
見たいものがあるなら録画しておけば、
いつでも見れるから」
「……そういえば、ちょっと疲れた。
でも、これ見たいんだ」
「だったら、録画しておいてあげるから、
少し寝ておいで」
「……分かった。眠ってくる」
安達はそういうと立ち上がり、
ふらふらしながら自室に戻っていった。
「向井はスゲエ~
俺があれだけ声かけても動かなかったのに」
向井がリモコンで録画をしていると、
牧野がびっくりした様子で近づいてきた。
「ちょうど眠くなってたんじゃないですか? 」
向井が笑って言った。
「あいつってやっぱ変」
牧野は安達の去った方向に目をやると、
ぽつりと言った。
その三日後―――
新たな大画面モニターが三台設置され、
牧野も寝ながらプロ野球を観戦していた。
「安達君はいませんね」
向井が聞くと、
「さっき、ディッセが来て、
安達を冥王のところに連れてったよ。
なんか、新しいリングがどうとか言ってた」
リングが出来上がったのかな?
向井はそんなことを考えながら、
牧野に声をかけた。
「俺はちょっと仕事で下界に下りるので、
アートンさんに聞かれたらそう言っといてください」
「何かあるの? 」
「ん~大したことじゃないんですけど、
冥王に話があるので」
「分かった」
向井が部屋を出ようとすると、
「お土産欲しい~食いもんがいい~」
牧野の声がかぶさってきた。
「買えたらね」
向井は笑うと下界に下りて行った。
――――――――
黒谷翔太。
高田に言われて気になっていたので、
冥王に尋ねてみると、
「ああ、彼ね。
どうも特殊みたいで、
特例が見えないように、
何度も消去を試みたんだけど、
成功しないんですよ。
調べてみたらどこを探しても、
彼のような人間はいないんです。
不思議ですよね。
彼が寿命を全うせずここに来たら、
即特例にするんですけどね」
「縁起でもない」
向井が渋い顔をしていった。
「特例になるというのは、
本当に特別なんですよ。
魂魄は魄が強いと鬼になり、人に害をなします。
鬼は人というのは嘘ではありませんよ。
特例は精神も肉体も、
強い存在のものにしか務まらないので、
子供は除外されます。
鬼は陰、神は陽。
その両方を持った者が鬼神であり、
君達特例です。
誰でもなれるわけではないんです」
冥王はそういうと真剣な顔で向井を見た。
「それにね。人間は霊が好きなんですよね。
ほら、よく守護霊の話などもするでしょう。
でも実際は殆ど光の渦に乗って、
ここから成仏されてるので、
いない人が多いんですよ」
「えっ? はっ? 」
向井が間抜けな声を出した。
「守護霊の多くは補導できなかった、
光の渦に乗らなかった霊です。
別に悪霊でもないので無理に祓いませんけど、
その人間と霊波動が合ったという事でしょう。
守護するわけではありませんが、
その人間のそばにいたければ、
守らないわけにいきませんから、
自然と守護しているというわけです」
冥王が笑った。
向井は人間だった時の情報が、
どんどん崩れてきて、
何が何だか分からなくなってきていた。
「そんなに難しい顔をしなくても、
ここにいれば自ずと分かっていきますよ。
君たちの先祖だって、
調べればいつ生まれ変わっているのか分かります。
もちろん君たちのその前のこともね」
冥王が笑いながら話す。
「その黒谷君と高田さんも、
不即不離の関係を保っていたので、
向井君も大丈夫です」
冥王にそういわれて、
黒谷が住むという団地に来てみたのはいいが……
引っ越しする人が多いのか、
人が次から次へと荷物をもって移動していた。
向井が不思議そうに眺めていると、
一人の男性が近づいてきた。
「もしかして高田さんの次の人? ん?
人でいいのか?」
そういって腕を組んで考え込むと言った。
中肉中背。
人懐っこい笑顔の作業着姿の男は、
向井を見ると話しかけてきた。
「俺、黒谷。高田さんから聞いてない? 」
「あ、いや、向井です。
想像していたより若くて、
少し驚きました」
「えっ? 俺、カッコいい? 」
「いや、カッコいいとは……」
「まいっちゃったなぁ~あははは」
人の話をきちんと聞くタイプではないようだ。
「写真で見るともう少しがっちりして見えたので」
「どの写真? 見せて? 」
向井が高田に渡されたタブレットを見せると、
「これ、六年位前の写真じゃん。
この時はリストラにあって、
人生お先真っ暗だった時だな。
彼女にも振られて、
仕事も住むところもなくなってさ。
もう、死ぬしかないかって思ってたら、
高田さんに会ったんだよ」
「そうなんですか」
「今はこの時より年は食ってるけど、
体重落ちてるからな」
黒谷は明るく言った。
冥王から、
「安達君はしばらくはここで過ごしてもらって、
それから仕事に入るから、
君達もそのつもりでいてくださいね」
と言われたが、
これは少し様子を見ていた方がいいのかもしれないな。
冥王が俺だけに言ったという事は、
何か言えない理由があるんだろう。
向井は室内に入ると、安達に声をかけた。
「安達君? 」
向井の声も聞こえないのか、凄い集中力だ。
「アニメは面白いですか? 」
その声にやっと安達が振り返った。
「面白い。漫画は読んだことあるけど、
動くのは初めて。凄いね」
安達はアニメのことを話すときは、
特に幼くなる。
「うん、だけど疲れない?
少し休んだら?
見たいものがあるなら録画しておけば、
いつでも見れるから」
「……そういえば、ちょっと疲れた。
でも、これ見たいんだ」
「だったら、録画しておいてあげるから、
少し寝ておいで」
「……分かった。眠ってくる」
安達はそういうと立ち上がり、
ふらふらしながら自室に戻っていった。
「向井はスゲエ~
俺があれだけ声かけても動かなかったのに」
向井がリモコンで録画をしていると、
牧野がびっくりした様子で近づいてきた。
「ちょうど眠くなってたんじゃないですか? 」
向井が笑って言った。
「あいつってやっぱ変」
牧野は安達の去った方向に目をやると、
ぽつりと言った。
その三日後―――
新たな大画面モニターが三台設置され、
牧野も寝ながらプロ野球を観戦していた。
「安達君はいませんね」
向井が聞くと、
「さっき、ディッセが来て、
安達を冥王のところに連れてったよ。
なんか、新しいリングがどうとか言ってた」
リングが出来上がったのかな?
向井はそんなことを考えながら、
牧野に声をかけた。
「俺はちょっと仕事で下界に下りるので、
アートンさんに聞かれたらそう言っといてください」
「何かあるの? 」
「ん~大したことじゃないんですけど、
冥王に話があるので」
「分かった」
向井が部屋を出ようとすると、
「お土産欲しい~食いもんがいい~」
牧野の声がかぶさってきた。
「買えたらね」
向井は笑うと下界に下りて行った。
――――――――
黒谷翔太。
高田に言われて気になっていたので、
冥王に尋ねてみると、
「ああ、彼ね。
どうも特殊みたいで、
特例が見えないように、
何度も消去を試みたんだけど、
成功しないんですよ。
調べてみたらどこを探しても、
彼のような人間はいないんです。
不思議ですよね。
彼が寿命を全うせずここに来たら、
即特例にするんですけどね」
「縁起でもない」
向井が渋い顔をしていった。
「特例になるというのは、
本当に特別なんですよ。
魂魄は魄が強いと鬼になり、人に害をなします。
鬼は人というのは嘘ではありませんよ。
特例は精神も肉体も、
強い存在のものにしか務まらないので、
子供は除外されます。
鬼は陰、神は陽。
その両方を持った者が鬼神であり、
君達特例です。
誰でもなれるわけではないんです」
冥王はそういうと真剣な顔で向井を見た。
「それにね。人間は霊が好きなんですよね。
ほら、よく守護霊の話などもするでしょう。
でも実際は殆ど光の渦に乗って、
ここから成仏されてるので、
いない人が多いんですよ」
「えっ? はっ? 」
向井が間抜けな声を出した。
「守護霊の多くは補導できなかった、
光の渦に乗らなかった霊です。
別に悪霊でもないので無理に祓いませんけど、
その人間と霊波動が合ったという事でしょう。
守護するわけではありませんが、
その人間のそばにいたければ、
守らないわけにいきませんから、
自然と守護しているというわけです」
冥王が笑った。
向井は人間だった時の情報が、
どんどん崩れてきて、
何が何だか分からなくなってきていた。
「そんなに難しい顔をしなくても、
ここにいれば自ずと分かっていきますよ。
君たちの先祖だって、
調べればいつ生まれ変わっているのか分かります。
もちろん君たちのその前のこともね」
冥王が笑いながら話す。
「その黒谷君と高田さんも、
不即不離の関係を保っていたので、
向井君も大丈夫です」
冥王にそういわれて、
黒谷が住むという団地に来てみたのはいいが……
引っ越しする人が多いのか、
人が次から次へと荷物をもって移動していた。
向井が不思議そうに眺めていると、
一人の男性が近づいてきた。
「もしかして高田さんの次の人? ん?
人でいいのか?」
そういって腕を組んで考え込むと言った。
中肉中背。
人懐っこい笑顔の作業着姿の男は、
向井を見ると話しかけてきた。
「俺、黒谷。高田さんから聞いてない? 」
「あ、いや、向井です。
想像していたより若くて、
少し驚きました」
「えっ? 俺、カッコいい? 」
「いや、カッコいいとは……」
「まいっちゃったなぁ~あははは」
人の話をきちんと聞くタイプではないようだ。
「写真で見るともう少しがっちりして見えたので」
「どの写真? 見せて? 」
向井が高田に渡されたタブレットを見せると、
「これ、六年位前の写真じゃん。
この時はリストラにあって、
人生お先真っ暗だった時だな。
彼女にも振られて、
仕事も住むところもなくなってさ。
もう、死ぬしかないかって思ってたら、
高田さんに会ったんだよ」
「そうなんですか」
「今はこの時より年は食ってるけど、
体重落ちてるからな」
黒谷は明るく言った。
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