上 下
154 / 350
第四部

吉沢の罪

しおりを挟む
特殊災害対策室は、

儀式を知らない議員たちからも、

この団地を使用しないことで、

非難を浴びていた。

不便な立地とは言え、

リノベーションもされているのに、

長い事使用が禁止されているからだ。

大災害から十七年後。

再び地震が多くなり、

国民の不安が大きくなっていた頃、

この団地近辺の土地の調査が始まった。

結界に適した場所を探した後、

時期を見て大きな結界をはる予定だった。

それが健次郎の起こした不始末により、

この団地の奥で、

仮の小さな儀式を執り行わざるを得なくなった。


今考えれば運がよかったのだ。

時同じくして、

大沢の死と地震が静まったことで、

再びの奇跡として大沢の名を、

不動のものとしたのだから。

その後、

団地の使用を許可し、

人も住み始めたが、

今のところ問題はないようだった。


ここはあの団地よりかなり距離はある。

吉沢は駅前の小さな商業施設を見ながら、

結界になりそうな土地を探していた。

団地が使用出来ればそれに越したことはない。

あの場所は儀式に最も適しているからだ。

ただ、あの大災害を超える災害が起きたとしたら………

全国に結界をはることは可能なのか…? 

だとしたら、どれだけの血が必要なのか。

AIに千人程の贄の選出をさせておいた方が、

いいのかもしれない。


この所あの団地の前に行くと、

頭痛と耳鳴りが起こっていた。

吉沢からしてみれば、

自分のこの行いが祟りとして、

跳ね返ってきているように感じてならなかった。

新たに選んだ場所にも、

入れなくなっている今、

第二、第三と、

結界場所を選出しておかなければならない。


あの佐々木もやっと死んでくれた。

あいつのおぞましい趣味の為に、

部屋を用意し、

子供をさらい、

死体の始末もしてきた。

一体、何人の子供を犠牲にしたのか。

自分はこの手で………ゴミを捨てるように、

人を殺めてきた。

大沢家を守るために………

いつからこうなってしまったんだ。

どこで選択を誤ってしまったんだ。

国民が暮らしやすい国を、

目指していたはずなのに………


吉沢は立ち止まると空を見上げた。

国のトップも役に立たない。

自分たちの不祥事の後始末の為に、

今や特殊災害対策室は国の要になっていた。

吉沢がため息をつき歩き出すと、

道路を挟んだ向かい側にあの青年の姿を見た。

まさか………始末したはず………

吉沢は驚いて再度その場所に目をやった。

だが、青年の姿はもうなかった。

そういえば二年前………

『……俺は今日奴を見たんだ』

健次郎が言った言葉を思い出していた。

幽霊………それとも本当に生きていた………?

吉沢は首を大きく左右に振った。

そんなはずはない。確かに殺した。

今でもあのナイフを突き刺した感触に、

うなされることがあるんだ………

吉沢は青ざめた表情で、

その場所に立ち止まっていた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

王子に転生したので悪役令嬢と正統派ヒロインと共に無双する

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:276

チートなタブレットを持って快適異世界生活

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:447pt お気に入り:14,313

GB版【お試しサイズ】リーチ・ザ・サミットフィルム

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:2

貴方達から離れたら思った以上に幸せです!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:208,139pt お気に入り:12,402

転生幼女はお詫びチートで異世界ごーいんぐまいうぇい

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:8,463pt お気に入り:23,939

【完結】契約妻の小さな復讐

恋愛 / 完結 24h.ポイント:326pt お気に入り:5,874

こっちは遊びでやってんだ

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:0

処理中です...