未来で愛人を迎える夫など、要りません!

文野多咲

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引き離されたダンス

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エドウィンは、シャルロットの兄であり、ジュリエッタの従兄になる。エドウィンは絵本から抜けでたような麗しい王子だ。

エドウィンは侯爵に向けて不敵な笑いを浮かべた。

「バルベリ候、俺が誰だか知っているか」

「エドウィン王太子殿下にあらせられます」

エドウィンは侯爵に愉快気な一瞥を投げると、ジュリエッタに距離を詰めてきた。ジュリエッタの腰にエドウィンの手が巻き付いてくる。ジュリエッタが躱そうとするも間に合わなかった。

「侯爵、俺とジュリエッタは幼い頃から一緒に過ごしていてね、シャルロットとジュリエッタは、俺を取り合って喧嘩ばかりしていたのさ。だから、いまだに二人は俺をめぐって仲が悪い」

「殿下、私の記憶とは違いますわ」

「エディと呼べ。俺たちは他人ではないのだから」

ジュリエッタはエドウィンに強引にダンスへと引きずられる。王太子に恥をかかせるわけにもいかず、ジュリエッタはダンスをする羽目となった。

見れば侯爵は侯爵でシャルロットに引っ張られていく。

(どうして、こんな羽目に)

侯爵と引き離されてしまったのが無念だ。しかも、侯爵の相手はシャルロットだ。

本当はジュリエッタだって侯爵と踊りたかった。しかし、侯爵はおそらくステップを踏めないだろうと諦めていた。それを、シャルロットはいとも簡単に侯爵をダンスへと引っ張り出してしまった。そして、侯爵は侯爵でシャルロットに合わせて、それなりにステップを踏んでいるように見える。

(やはり、あの二人は運命なのかもしれない……)

ジュリエッタを苦しみが覆う。

二人に気を取られているジュリエッタの腰をエドウィンが引き寄せる。密着を避けて体を押すも、エドウィンはジュリエッタを逃さない。

「殿下、夫のいる身、ご容赦くださいませ」

「夫だと? お前があの男に体を許してはいないことが俺にわからないとでも?」

エドウィンはジュリエッタに覆いかぶさる。ジュリエッタは見透かされたことにぞっとする。そんなジュリエッタを見て、エドウィンは笑う。

「元平民なんぞに指一本も触れさせたりはしないのは、実に良い心がけだ」

予知夢のジュリエッタは安っぽいプライドで侯爵に体を許さなかった。しかし、今は、違う。侯爵を愛しているから。侯爵に本当に愛する人ができたときに、その人と幸せになって欲しいと願うからだ。

「侯爵さまは素晴らしい方です」

「生きて帰ってきたのは余計なことだったがな」

エドウィンの言いようにジュリエッタはぞわっと怒りが湧く。しかし、怒れる立場にないことをわかっていた。ジュリエッタ自身、王都にいる間じゅう、侯爵が生きようが死のうがどうでもよかったのだから。

「おかげで未亡人のお前を引き取ってやる予定が狂った。しかし、お前が操を守っているのならば、その健気さに報いて、妃にしてやってもいい」

ジュリエッタはカッとなる。

「それはどういう意味ですの?」

「言葉通りだ。俺はいつでもお前を未亡人にしてやれる」

(何ですって?)

ジュリエッタはエドウィンを見た。エドウィンは不敵に笑い返している。

「たとえ冗談でも許せませんわ」

「どうして怒る? 俺がお前を王妃にしてやろうという話をしているのだぞ?」

ジュリエッタは顔をそむけた。

これ以上話すのも嫌だ。

そんなジュリエッタをエドウィンは引き寄せて、後頭部に手を当てて自分に向かせた。

エドウィンは笑いながら、顔を近づけてくる。ジュリエッタはそれを避けようとするも、頭を強く抱え込まれて避けられそうにない。

(いやっ……)

ジュリエッタは強くエドウィンを押すもエドウィンは離れない。

(本当に嫌な人っ)

幼いころから意地悪ばかりされてきた。エドウィンには人が嫌がるのを見るのが好きな嗜虐趣味がある。そんなエドウィンがずっと苦手だった。

(侯爵さま……、助けて……)

ジュリエッタはいつしか侯爵に助けを求めていた。

侯爵はシャルロットと踊っているというのに。

シャルロットの可愛さに夢中になって、ジュリエッタのことなど気にもかけていないかもしれないのに。

狭い視界に侯爵を探せば、金色の軍服に白いドレスを視界の端に捉える。二人は睦まじく踊っているようだ。

(侯爵さまには私のことなど目に入っていない。あの人はシャルロットを見つめているのだわ)

思えば、予知夢では、ジュリエッタが侯爵を好きになったときには既に侯爵とシャルロットは愛し合っていた。侯爵を好きになったのはジュリエッタよりもシャルロットの方が先だった。

(侯爵さまの良さを先に見つけて先に好きになったのはシャルロット。何て愚かな私。私には侯爵さまは不釣り合いなのだわ)

「ジュリエッタ、ちゃんとこっちを向け」

「おやめくださいっ……」

「俺はお前の王子さまの自覚があるのだがな。熱烈な恋文を送ってきたのも一度や二度ではない」

「それは誤解です」

「今更恥ずかしがるな」

「おやめくださっ……」

エドウィンに腰をきつく締め付けられて、ジュリエッタはもがく。

ジュリエッタが体術を会得しているといっても、腕力ではかなわない。

どう見ても嫌がっていることがわかるのに、エドウィンは拘束を緩めない。

(いや、いやよ。触れられるのもいやっ)

「侯爵さまっ……」

(侯爵さま以外に触れられたくないっ)

ジュリエッタが小さく叫ぶも、ジュリエッタに助けは来なかった。

(侯爵さまっ……)
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