私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲

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「今日もきれいだよ、俺の奥さん」

 由紀也はドレッサー越しに目が合うと優月に言ってきた。
 その日、由紀也の会社の創立記念パーティーがあった。
 妻として会社の催しに参加するのは初めてのことで緊張はあるが、由紀也が全面的にフォローしてくれるだろうから不安はない。
 優月のドレスは由紀也が選んだ。華やかな深紅だ。

「このドレス、派手じゃないかしら」
「優月が着れば、あでやかだ。俺はいつも誘惑されてしまう」

 確かに着込んでみるとしっくりとする。
 由紀也はネックレスを手に取ると、優月に着けた。そして、うなじにキスをしてくる。
 最近になって、優月は容姿に自信を持ち始めた。由紀也が優月を褒めてくれるからだ。
  
 パーティー会場に向かっていると、前から来る複数の男女の会話が聞こえてきた。

「あの女、うちの会社のパーティーに、毎回押しかけてくるよね」
「どうやって調べるんだろうね、怖いよね」

 それら男女は由紀也に気がつくと、取り囲んできた。由紀也の部下らしかった。

「CEO、誰です、その美女。まさか奥さま?!」
「そうだよ」
「すげー、さすがっす。うらやましいっす」
「どこで出会ったんすか? どうやって口説いたんすか?」
「教えるかよ」

(CEOって呼ばれているのね。社員にはざっくばらんなんだわ)

 優月は由紀也の知らない一面を見ることができて内心嬉しかった。
 仕事の話を始めたようだったので、優月は、一足先に会場の入り口付近まで行っておくことにした。
 見れば入り口で、女が、受付の女性社員と、言い合っていた。

「どうして会場に入れないのぉ?」
「だから、無理なんです。あなたの入場は禁止されてるんです」
「私はぁ、由紀也さんの彼女よぉ。会場に入れなさいよぉ」
「CEOは結婚しておりますが」
「嘘言いなさいよぉ。私みたいな可愛い彼女がいるのに、他の人と結婚するわけないじゃないのぉ」
「CEOの奥さまはとても美しい方ですわ。失礼ですけど、あなたとは比べ物にもなりませんわ」

 女はよく見れば麗奈だった。優月は呆気に取られて見つめる。
 麗奈のドレスは着古されたもので、麗奈にはどこか余裕がなかった。

(パパはドレスを買ってあげるお金もなくなったのかしら)

 優月に気がつけば、麗奈も唖然としていた。
 麗奈は、優月に目を見張るものの、いつもの傲慢な目付きを寄越してきた。

「優月、どうしてここにいるのぉ? まさか、うちの会社の社員狙いでやってきたのぉ?」
「………?」
「麗奈の彼氏がこの会社のCEOってこと、知らなかったぁ?」

 麗奈は勝ち誇るような顔で言ってきた。

(御曹司の彼氏って、もしかして、由紀兄さん………?)

 そのとき、麗奈が媚びた目を、優月の背後に向けた。

「由紀也さぁん、受付の人が中に入れてくれないのぉ」

 振り返ると、由紀也が追い付いていた。由紀也は麗奈を見ないで優月の腰を抱いて入り口に向かう。

「ちょっと、由紀也さん、麗奈はこっちよぉ。受付の人がパーティーに入らせてくれないのぉ」

 由紀也は麗奈に冷たい目を向けた。

「名前で優月の妹だとわかったから、目をつむってきたけど、優月はもう家族と縁を切ったから、俺にはあなたを受け入れる義理はない」

 優月は事情を理解した。

「『特別な縁』って、私と由紀兄さんのことだったのね。由紀兄さんは私の義叔父だもの……」

 どういう経緯で麗奈と由紀也が出会ったのかわからないが、由紀也は、親戚ということでパーティーに押しかけた麗奈を見過ごしてきてやったようだ。

「へ、へえ。お、叔父さんだったのぉ?」

 麗奈は、由紀也とは面識があるというのに、少しも覚えていなかったらしい。

(都合の悪いことは忘れてしまうもの、昔怒られた相手のことなど覚えてないわよね)

 麗奈はいろいろと勘違いして、由紀也を自分の彼氏だと思い込んだのだろう。
 そして、それはまだ続いているらしく、麗奈は由紀也を上目遣いで見上げた。

「由紀也さんは麗奈との縁は切らないでしょぉ?」

 麗奈は由紀也に手を伸ばしてくる。優月は麗奈の手をはたいた。

「私のものを勝手に触らないで」

 麗奈はポカンとした顔をした。

「由紀兄さんは、今は私の夫なの」

 大切なものはもう奪われはしない。触らせたりするものか。

 優月は毅然と麗奈を見た。
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