私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲

文字の大きさ
30 / 32

30

「今日もきれいだよ、俺の奥さん」

 由紀也はドレッサー越しに目が合うと優月に言ってきた。
 その日、由紀也の会社の創立記念パーティーがあった。
 妻として会社の催しに参加するのは初めてのことで緊張はあるが、由紀也が全面的にフォローしてくれるだろうから不安はない。
 優月のドレスは由紀也が選んだ。華やかな深紅だ。

「このドレス、派手じゃないかしら」
「優月が着れば、あでやかだ。俺はいつも誘惑されてしまう」

 確かに着込んでみるとしっくりとする。
 由紀也はネックレスを手に取ると、優月に着けた。そして、うなじにキスをしてくる。
 最近になって、優月は容姿に自信を持ち始めた。由紀也が優月を褒めてくれるからだ。
  
 パーティー会場に向かっていると、前から来る複数の男女の会話が聞こえてきた。

「あの女、うちの会社のパーティーに、毎回押しかけてくるよね」
「どうやって調べるんだろうね、怖いよね」

 それら男女は由紀也に気がつくと、取り囲んできた。由紀也の部下らしかった。

「CEO、誰です、その美女。まさか奥さま?!」
「そうだよ」
「すげー、さすがっす。うらやましいっす」
「どこで出会ったんすか? どうやって口説いたんすか?」
「教えるかよ」

(CEOって呼ばれているのね。社員にはざっくばらんなんだわ)

 優月は由紀也の知らない一面を見ることができて内心嬉しかった。
 仕事の話を始めたようだったので、優月は、一足先に会場の入り口付近まで行っておくことにした。
 見れば入り口で、女が、受付の女性社員と、言い合っていた。

「どうして会場に入れないのぉ?」
「だから、無理なんです。あなたの入場は禁止されてるんです」
「私はぁ、由紀也さんの彼女よぉ。会場に入れなさいよぉ」
「CEOは結婚しておりますが」
「嘘言いなさいよぉ。私みたいな可愛い彼女がいるのに、他の人と結婚するわけないじゃないのぉ」
「CEOの奥さまはとても美しい方ですわ。失礼ですけど、あなたとは比べ物にもなりませんわ」

 女はよく見れば麗奈だった。優月は呆気に取られて見つめる。
 麗奈のドレスは着古されたもので、麗奈にはどこか余裕がなかった。

(パパはドレスを買ってあげるお金もなくなったのかしら)

 優月に気がつけば、麗奈も唖然としていた。
 麗奈は、優月に目を見張るものの、いつもの傲慢な目付きを寄越してきた。

「優月、どうしてここにいるのぉ? まさか、うちの会社の社員狙いでやってきたのぉ?」
「………?」
「麗奈の彼氏がこの会社のCEOってこと、知らなかったぁ?」

 麗奈は勝ち誇るような顔で言ってきた。

(御曹司の彼氏って、もしかして、由紀兄さん………?)

 そのとき、麗奈が媚びた目を、優月の背後に向けた。

「由紀也さぁん、受付の人が中に入れてくれないのぉ」

 振り返ると、由紀也が追い付いていた。由紀也は麗奈を見ないで優月の腰を抱いて入り口に向かう。

「ちょっと、由紀也さん、麗奈はこっちよぉ。受付の人がパーティーに入らせてくれないのぉ」

 由紀也は麗奈に冷たい目を向けた。

「名前で優月の妹だとわかったから、目をつむってきたけど、優月はもう家族と縁を切ったから、俺にはあなたを受け入れる義理はない」

 優月は事情を理解した。

「『特別な縁』って、私と由紀兄さんのことだったのね。由紀兄さんは私の義叔父だもの……」

 どういう経緯で麗奈と由紀也が出会ったのかわからないが、由紀也は、親戚ということでパーティーに押しかけた麗奈を見過ごしてきてやったようだ。

「へ、へえ。お、叔父さんだったのぉ?」

 麗奈は、由紀也とは面識があるというのに、少しも覚えていなかったらしい。

(都合の悪いことは忘れてしまうもの、昔怒られた相手のことなど覚えてないわよね)

 麗奈はいろいろと勘違いして、由紀也を自分の彼氏だと思い込んだのだろう。
 そして、それはまだ続いているらしく、麗奈は由紀也を上目遣いで見上げた。

「由紀也さんは麗奈との縁は切らないでしょぉ?」

 麗奈は由紀也に手を伸ばしてくる。優月は麗奈の手をはたいた。

「私のものを勝手に触らないで」

 麗奈はポカンとした顔をした。

「由紀兄さんは、今は私の夫なの」

 大切なものはもう奪われはしない。触らせたりするものか。

 優月は毅然と麗奈を見た。
感想 5

あなたにおすすめの小説

完璧な妹に全てを奪われた私に微笑んでくれたのは

今川幸乃
恋愛
ファーレン王国の大貴族、エルガルド公爵家には二人の姉妹がいた。 長女セシルは真面目だったが、何をやっても人並ぐらいの出来にしかならなかった。 次女リリーは逆に学問も手習いも容姿も図抜けていた。 リリー、両親、学問の先生などセシルに関わる人たちは皆彼女を「出来損ない」と蔑み、いじめを行う。 そんな時、王太子のクリストフと公爵家の縁談が持ち上がる。 父はリリーを推薦するが、クリストフは「二人に会って判断したい」と言った。 「どうせ会ってもリリーが選ばれる」と思ったセシルだったが、思わぬ方法でクリストフはリリーの本性を見抜くのだった。

聞き分けよくしていたら婚約者が妹にばかり構うので、困らせてみることにした

今川幸乃
恋愛
カレン・ブライスとクライン・ガスターはどちらも公爵家の生まれで政略結婚のために婚約したが、お互い愛し合っていた……はずだった。 二人は貴族が通う学園の同級生で、クラスメイトたちにもその仲の良さは知られていた。 しかし、昨年クラインの妹、レイラが貴族が学園に入学してから状況が変わった。 元々人のいいところがあるクラインは、甘えがちな妹にばかり構う。 そのたびにカレンは聞き分けよく我慢せざるをえなかった。 が、ある日クラインがレイラのためにデートをすっぽかしてからカレンは決心する。 このまま聞き分けのいい婚約者をしていたところで状況は悪くなるだけだ、と。 ※ざまぁというよりは改心系です。 ※4/5【レイラ視点】【リーアム視点】の間に、入れ忘れていた【女友達視点】の話を追加しました。申し訳ありません。

完結 この手からこぼれ落ちるもの   

ポチ
恋愛
やっと、本当のことが言えるよ。。。 長かった。。 君は、この家の第一夫人として 最高の女性だよ 全て君に任せるよ 僕は、ベリンダの事で忙しいからね? 全て君の思う通りやってくれれば良いからね?頼んだよ 僕が君に触れる事は無いけれど この家の跡継ぎは、心配要らないよ? 君の父上の姪であるベリンダが 産んでくれるから 心配しないでね そう、優しく微笑んだオリバー様 今まで優しかったのは?

婚約者が選んだのは私から魔力を盗んだ妹でした

今川幸乃
恋愛
バートン伯爵家のミアの婚約者、パーシーはいつも「魔法が使える人がいい」とばかり言っていた。 実はミアは幼いころに水の精霊と親しくなり、魔法も得意だった。 妹のリリーが怪我した時に母親に「リリーが可哀想だから魔法ぐらい譲ってあげなさい」と言われ、精霊を譲っていたのだった。 リリーはとっくに怪我が治っているというのにずっと仮病を使っていて一向に精霊を返すつもりはない。 それでもミアはずっと我慢していたが、ある日パーシーとリリーが仲良くしているのを見かける。 パーシーによると「怪我しているのに頑張っていてすごい」ということらしく、リリーも満更ではなさそうだった。 そのためミアはついに彼女から精霊を取り戻すことを決意する。

妹から私の旦那様と結ばれたと手紙が来ましたが、人違いだったようです

今川幸乃
恋愛
ハワード公爵家の長女クララは半年ほど前にガイラー公爵家の長男アドルフと結婚した。 が、優しく穏やかな性格で領主としての才能もあるアドルフは女性から大人気でクララの妹レイチェルも彼と結ばれたクララをしきりにうらやんでいた。 アドルフが領地に次期当主としての勉強をしに帰ったとき、突然クララにレイチェルから「アドルフと結ばれた」と手紙が来る。 だが、レイチェルは知らなかった。 ガイラー公爵家には冷酷非道で女癖が悪く勘当された、アドルフと瓜二つの長男がいたことを。 ※短め。

「君の作った料理は愛情がこもってない」と言われたのでもう何も作りません

今川幸乃
恋愛
貧乏貴族の娘、エレンは幼いころから自分で家事をして育ったため、料理が得意だった。 そのため婚約者のウィルにも手づから料理を作るのだが、彼は「おいしいけど心が籠ってない」と言い、挙句妹のシエラが作った料理を「おいしい」と好んで食べている。 それでも我慢してウィルの好みの料理を作ろうとするエレンだったがある日「料理どころか君からも愛情を感じない」と言われてしまい、もう彼の気を惹こうとするのをやめることを決意する。 ウィルはそれでもシエラがいるからと気にしなかったが、やがてシエラの料理作りをもエレンが手伝っていたからこそうまくいっていたということが分かってしまう。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

幼馴染の婚約者を馬鹿にした勘違い女の末路

今川幸乃
恋愛
ローラ・ケレットは幼馴染のクレアとパーティーに参加していた。 すると突然、厄介令嬢として名高いジュリーに絡まれ、ひたすら金持ち自慢をされる。 ローラは黙って堪えていたが、純粋なクレアはついぽろっとジュリーのドレスにケチをつけてしまう。 それを聞いたローラは顔を真っ赤にし、今度はクレアの婚約者を馬鹿にし始める。 そしてジュリー自身は貴公子と名高いアイザックという男と結ばれていると自慢を始めるが、騒ぎを聞きつけたアイザック本人が現れ…… ※短い……はず