追放聖女35歳、拾われ王妃になりました

真曽木トウル

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7、元聖女、王妃になる

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 ────結婚式がいよいよ、始まった。


 美しく荘厳なステンドグラスが輝く大聖堂の中、貴族や軍人や聖職者その他、国中の主要人物が勢ぞろいしている。
 その中央のバージンロードを、私はゆっくりと歩く。
 終着点で待つ、礼装のウィルフレッドのもとへ。

 大学時代毎日会ってた彼のはずなのに、不意に思ってしまう。


(……なんて素敵な男性なんだろう)と。


 15年の歳を重ねただけで、ウィルフレッドには違いない。
 なのに、なんでこんなに見とれてしまうのかしら。

 2人で壇上に上った。
 新婦として誓いの言葉を口にする。

 そしてウィルフレッドの手に誘われ、緊張しながら身体を寄せる。
 彼の唇が、私のそれに重なった。

 想像していたよりも柔らかくて、びっくりするほど優しかった。


(あのウィルフレッドが、女性にはこんな優しいキスをするのね)


 失礼な驚き方だったけど、ドキドキしつつも、くちづけが優しかったことはひとつ私を安心させた。

 だけど式はまだ終わらない。

 退出時には、左右に数えきれない人が並び、見送られながら私たちは絨毯じゅうたんの上を歩いていく。
 その圧巻の光景に、深く息を吸って吐いた。

 この何百人いるのだろうという人々が、私たちの結婚に立ち会った。
 本当に今日、私は、ウィルフレッドの妻になるんだ。


 ────やっと、長い道のりを抜け、馬車で2人きりになった時、安堵のため息が漏れる。


「疲れたか?」
「……ええ。あなたは何だかずっと、楽しそうだったわね」
「そりゃ楽しいさ」
「『そりゃ』?」
「おまえは?」
「楽しんでる余裕なんてないわよ。ひたすら緊張して……」


 ……私を待っていたウィルフレッドが素敵だった、ということまでは言わなくていいわよね。


「聖女に就任した時を思い出したかしら」
「……真面目だな」
「結婚式イコール王妃の就任式みたいなものですからね」


 正確に言えば、結婚成立には、これから後に待っているものも必要だ。

 深呼吸して、私はウィルフレッドを見つめる。


「……ひとつだけお願いして良い?」
「なんだ?」
「その、えっと、夜……手加減……してくれる?」


 クスッと笑って彼は「善処する」と答える。

 笑い事じゃないわ、と思いながらも、くちづけが優しかったこともあって、その時の私は素直に彼の言葉を信じていた。


     ***


「────う、そ、つき…………」


 ……そして結婚式の翌朝。
 ベッドの上で、動けない私はシーツを握りしめて唸るしかなかった。


「てかげん……してくれるって……言ったじゃない」
「だいぶ手心は加えたぞ?」
「…………身体が……全然動かないんですけど?」
「そうか、それは悪かった」


 恨めしく顔を上げた私にウィルフレッドはくちづけて、
「今夜はもう少し優しくする」
と言って髪を撫でる。
 ……あんまり信用できない気がする。

 というか、彼とキスしている自分がいまだに信じられない。
 そして、彼の妻になったという事実も。

 ウィルフレッドの方にちらりと目をやる。
 服の上からはすらりと細く見えて、脱いだら筋肉で締まっている身体が眩しい。
 同じ35歳のはずなのに。

(全然釣り合う気がしない)

 せめてもう少し若い私だったら、なんて、思っても仕方ないことを思ってみたり。


「しばらく、眠れ。
 何か子守唄がわりに弾いてやろうか。
 ヴァイオリンかピアノでも」

「ああ、そうね……」


 彼は武闘派のわりに、王子のたしなみとして楽器が得意だった。
 いまだに近くに楽器を置いているほど好きなのね。


「…………ヴィオラが良いわ。あなたのヴィオラの音が一番好き」


 回らない頭で呟くと、ククっと笑って寝間着をまといウィルフレッドはベッドから出る。

 楽器を手に取り、少し離れて奏で始めた。
 人の声に近い、ヴァイオリンよりも落ち着く音色。
 主旋律を弾くことの少ない楽器だけど、私はこの音が好き。


(……懐かしい。私の一番好きな曲、覚えててくれたのね)


 私は自然と目を閉じる。
 ウィルフレッドは私のことを本当によく覚えてくれている。
 でも、私だって覚えていることがある。

 学生たちは定期的に奉仕活動をしており、私たちは孤児院や乳児院にしばしば出向いた。一番熱心に子どもの世話をしていたのが彼だった。


『そんな遊び、どこで知ったんだ?』

 私が子どもと遊んでいる時に、彼が驚いて声をかけてきたことがある。

『これはお父様からだったかしら。私が小さな頃、両親もお兄様も、忙しいけどできるだけ時間を作って私と遊んでくれていたのよ』

『ふぅん……それはうらやましい。うちは両親とも子どもの頃はほとんど会わなかったからな』

『そうなの?』

『俺も、将来子どもを授かったら……ルイーズの家のように遊んでやりたいな。大きくなってからも楽しかったと思い出せるように』


 そう言って、少し照れたようにそむけた彼の目を私は覚えている。

 この短い期間で感じたけど、大人になっている面はあるけど、本質的にウィルフレッドは15年前と変わっていない。
 たぶん、本音では今もきっと子どもが欲しいんじゃないかと思う。
 国王だから、国の都合を優先させているだけで。『白い結婚』でもいい、とまで言うなんて。


(…………どうか、間に合いますように)


 あと少し若ければ、なんて今思っても仕方ない。
 ただ願いながら、私は眠りについた。


     ***
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