あなたの声が聞こえる

クロユキ

文字の大きさ
1 / 1

死者との会話をする少女

しおりを挟む
ある小さな集落村があり、一軒家に人が集まっていた。
『あたしがいなくても、村のみんながいるんだ。お前は一人じゃないよ』
「……か、母ちゃん…」
グスグスと涙を流し先ほど亡くなった母親と会話をする男は、青白く仰向けで眠る母親に話をしているのではなく、母親の手を触る少女に向かって会話をしていた。
『お迎えが来たようだね…ちゃんとご飯は食べるんだよ』
笑顔を見せる少女は、会話が終わると黙ったまま下を向き動かなくなった。
「母ちゃん!俺を一人にしないでくれ!!」
動かなくなった少女の体をギュッと抱きしめ、ワーワーと声を出して泣く男に傍にいた村人も一緒になって泣く者もいた。
「……お、おじさん…苦しい…」
「!」
自分に抱き付く男に少女は困ったような顔で苦笑いをしていた。
「おお、悪い目が覚めたのか?メル」
「うん…おばあちゃん、お話ができて良かったって言っていたよ…」
「…う…そうか、そうか…」
男はまた涙を流し抱きしめていた体を離れメルの両手を握りしめて感謝をしていた。
「ありがとうな」
「うん」
メルの手を離した男は仰向けで眠る母親の傍で手を合わせていた
「良かったな…最後にモネさんと話ができた」
「死んじまったら話が出来ないもんな…」
モネおばあちゃんの別れに集まった村人はメルの話をしていた。
「まさか、死んだ者と話が出来るなんて思っていなかったな~」
「そうだな、何言ってんだこの娘は…って初めはメルを信じていなかったな…」
「そういや…メルを聖女だと言っていたな」
「いやいや、聖女はケガを治すだけのもんだろう?メルは死んだ者と会話が出来る。もしかしたら大聖女かもな!」
「おおっ、それが本当ならうちの村は凄いってもんだぜ」
ワイワイ、ガヤガヤと大人達が話をするのを聞いていたメルは「はぁ…」と息を吐いていた。
「ごめんね~っメル、大人達の話なんて聞く事ないよ。はい、今日はありがとう」
メルは亡くなったモネおばあちゃんのお金をもらっていた。おじさんがまだモネおばあちゃんの傍を離れない為、用意していた封筒をメルに渡していた。
「ありがとう、おばさん」
「体の方はなんともないかい?」
「うん、大丈夫。」
ごそごそともらったお金を袋に入れ帰る準備をしていた。
「さあさあ、料理とお酒だよ!」
「おっ、待ってました!」
「酒だ。酒だ。」
村の女達が料理と酒を持ち、大人達の夜が始まった。
「あっ!メルちょっと待って」
パタパタと料理を詰めた袋をメルに渡していた。
「ありがとう」
「良いって、気をつけて帰るんだよ」
「うん」
料理を貰ったメルは外を出ると家の中に入る事が出来ない村人達老若男女でいっぱいだった。
「よう、メル。もう帰るのか?」
「うん…お父さんとお母さんが待っているから…」
「…そうか、送ろうか?」
「大丈夫。おやすみなさい」
「ああ…」
メルは男と話終えると両親が待っ家へと帰った。
男はメルの後ろ姿が見えなくなるまで見送るとボソッと声に出していた。
「……メルが、死者が見えるようになったのも両親が死んでしまった時だったな…」







しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

【完結】わたしは大事な人の側に行きます〜この国が不幸になりますように〜

彩華(あやはな)
恋愛
 一つの密約を交わし聖女になったわたし。  わたしは婚約者である王太子殿下に婚約破棄された。  王太子はわたしの大事な人をー。  わたしは、大事な人の側にいきます。  そして、この国不幸になる事を祈ります。  *わたし、王太子殿下、ある方の視点になっています。敢えて表記しておりません。  *ダークな内容になっておりますので、ご注意ください。 ハピエンではありません。ですが、救済はいれました。

処理中です...