連累/吉鶴話譚

蘭歌

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最後は与太噺。

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とある日の、とあるホールの楽屋にて。
「すみません、無明師匠に涼栄師匠、時間作っていただいて。津軽先輩も来ていただいてありがとうございます」
「いや、いいよ。むしろ、十分しか時間とれなくて申し訳ない」
「公平君は俺が言えば、時間作るもんね」
「気色悪いこと言うな。ついでに仕事中だからそっちで呼ぶなっての」
「師匠たち、本当仲いいですよね……」
「ふざけんなよ涼栄。どこが」
「ふふ、付き合い長いからね」
「恭助―!!」
「え、えっと!時間がないので勧めます!涼栄師匠が出した『吉鶴話譚』と津軽先輩の『連累』に関して二、三お話をお伺いしようと思っているのですが、よろしいですか?」
「そうですね!師匠、津軽さん、話が進めていいですか?」
「うん、どうぞ」
「ちっ……恭助、後で覚えてろ」
「ひえっ……まず『吉鶴話譚』ですが、これは無明師匠が話されたことを、涼栄師匠が纏めてたもの、という事でしたね」
「はい。真打に上がって、この名前になる時、師匠から聞いた話や、その前に聞かされていたのを元々、個人的に纏めていたんですけれど、それを津軽さんに見つけられまして、なんなら本にしてみないか、と」
「いつの間に纏めていたんだよ。お前……。んでもって、すべての元凶はやっぱりテメェか」
「元凶だなんて。丁度俺も『連累』をまとめ終わったばかりだったし、どうせならって思っただけなんだけれど」
「おん?」
「し、師匠手を降ろして下さい……!」
「あの、津軽さん。どうしてタイトルが『連累』なのですか?意味を調べましたけれど、他人の罪や事件に関係して罪や災難をこうむること、つまり巻き添えの事ですよね」
「どうして、って俺がまさにそうだからだよ。父のせいでいろいろ災難こうむってきたわけだし。それは、涼明師匠にも言える事だろうけれど」
「ちなみに津軽さん。書いてある事、どのくらいが本当なのですか?」
「さぁ?どこまでだろうね?」
「全部だろう」
「んァ!?」
「え、え?無明師匠それは本当で?」
「さァてなぁ?俺が幽霊を見ていたって話も含め、信じる信じないは自由だろう。なぁ、恭助?」
「そ、うだね。そこの判断は任せるよ」
「先輩……あ、すみません、時間がないのでこれだけ最後に。どちらでも共通で名前の出てくる十年前に亡くなった涼明師匠は、読む限り救われたのではないかと思うのですけれど、お二人は、最後まで代理にされたままではないのですか?」
「……僕は、後悔してないよ。ずっと母からそうされてきたし、好きになった相手の役に立てたならそれでいいかなって。今は、ちゃんと『津軽恭助』って人間を見てくれる人もいるからね」
「こいつと被るのは癪だが同じく。惚れて、最後までついてくと決めた師匠の役に立てたなら、俺はそれで構わない。師匠には返しても返しきれない恩があるからな」

そう言って津軽恭助と、七子公平は満足そうに笑った。
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