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第一章 地上編

第十話 イース王国

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「おや、ウォリア、遅かったじゃないか」

 イース王国の門に着いた一行は、門番に話しかけられる。

「聞かなかったか? サフィアを探すために急いでベッサに引き返してたんだよ」
「お前だけじゃないってことは、まだ見つかってないんだな」
「そうだな。何か良い情報がないか、ここへ訪れたんだ」
「情報屋か。あんなうさんくさい所でさえ使わざるを得ないんだな」

 門番は一行に同情する。それだけ酷い所なのだろうか。

「まあ、金なら腐るほどあるからどうでも良い。いくら要求されたって一括払い余裕だ」
「それなら、後ろの奴らは持ってかない方が良いな」
「後ろの奴らって、あのゴブリンたちのことか?」

 ウォリアは門番の視線を追うと、門番はラルドとエメを見ていた。二人ともきょとんとしている。

「あいつは金より珍しいもんを好むからな。テイマーを要求されたっておかしくないぞ」
「ふむ、そうか。ならあいつらに話をつけてこよう」

 ウォリアは後ろで待っていた二人に話しかける。

「ラルド、エメ、すまないが、ここでしばらく待っていてくれないか?」
「どのくらいで戻られるのですか?」
「まあ、かかって一時間くらいかな。それまで待てるか?」
「はい、待てます」
「ありがとう。それじゃあ、後は俺に任せてくれ」
「わかりました」

 二人と話し終えたウォリアは、重装備を外し、武器と盾も置いてから再び門へ向かった。

「このくらいの軽装なら、何も取引に使われないな?」
「まあ、そうだな」
「じゃあレイフたちは待っていてくれ。さあ、門を開けてくれ」

 門番は門の片方を勢い良く引き、開けた。そこからウォリアはイースの中へと入っていった。
 暇な時間が出来てしまったラルドたちは、門番の部屋に入れてもらっていた。

「ふーん、大蛇はそうすれば契約出来るのか。後はうーんと……」
「げっ、マイナスマスかよ。ついてないな」
「うふふ。こんなボードゲームがあったのね」

 門番の部屋で、四人は思いのまますごしている。サフィアの本を読んでいるラルドにジシャンは声をかける。

「ラルド君、あなた、呪文の勉強をしてるって言ってたわよね?」
「あ、あの声、下にまで聞こえてたんですね……」
「どうかしら? 私から呪文を教わる気はない?」
「でも、僕の魔力じゃ所詮火の玉を出すのが精いっぱいですよ」
「そう、魔力が無いのね。でも、火の玉を出せるならそれを応用することは出来ないかしら?」
「暗いところでは灯りに使えるとかですかね」
「そうよ。呪文で大事なのは魔力じゃなくて使い方。私があのテイマーの女の子を助けたときの呪文も、風の呪文を応用したものなのよ」
「風を上向きに放ったってことですね。でも、力加減とかは魔力が必要なんじゃないですか?」
「そこはただの慣れよ。ほんの少しの努力でなんとかなるわ。どう? 教わる気になった?」

 ラルドは本を閉じ、腕を組んで考える。

「うーん、どうしましょうか……」
「今すぐじゃなくても良いわよ。教わる気になったら言ってちょうだいね」
「あ、はい、わかりました」

 ジシャンはラルドの元から去り、エメの遊ぶ魔王スゴロクを見にいった。
 一方ウォリアは、情報屋の元へたどり着いていた。

「おやおや。こんな大物がここへ何の用かな?」
「知りたいことがあるんだ。金は腐るほどある」
「お前さんほどの者なら金より珍しいもんいくらでも持ってるだろ。隠したって無駄だぞ」
「金以外は遠くに置いてきた。今すぐ情報をくれるならこれだけの大金をやれるが、断るならこの金は無しだ」
「うーんそうか。じゃあ妥協してやろう。その袋をよこせ」

 ウォリアは情報屋に大金の入った袋を手渡した。じゃりんと音を立てて、情報屋の手の上に袋が渡った。

「さて、何を知りたいんだ?」
「サフィアがどこにいるか知りたい。お前が知ってるとは思えないが」
「俺の手下たちがあちこち走り回って探しているさ。いずれ魔王討伐隊の誰かが情報を求めここに来ることを見越してな」
「どうなんだ? 痕跡とかあったのか?」
「なーんにも見つかってないさ。あるのはサフィアを見つけて大金得ようとして命を落としたバカどもの死体だけだ。幸い、俺の手下は誰も死んでいないがな」
「まあ、どうせそんなもんだと思ってたさ。なんにも情報をくれないなら、金を返してくれ」

 情報屋の手の上にある袋をウォリアが取り返そうとすると、情報屋が空いてる手でさえぎった。

「待ってくれ。一つだけ良い情報を思い出した」
「ふーん、くだらない内容だったら、金、返してもらうからな」

 情報屋は冷や汗をかく。

「パレードの日のことだ。俺の手下も民衆に紛れて観察していたが、そのときにサフィアは小声でこう言っていたんだ。『みなさん、申し訳ございません』って。何か罪を犯して、そのことを重く受け止めすぎて行方をくらましたんじゃないかと思うんだ」
「俺はそんな声聞いてないぞ」
「相当小声だったからな。地獄耳の手下を送って正解だった」
「英雄の彼女がなぜ民衆に謝っていただろうか……」
「これで情報は十分か?」
「謎が深まっただけだが、ありがとう。金は返してもらわなくて構わない」
「ふう、それは良かった。じゃあ、サフィアが見つかると良いな。バイバイ」
「もし何かまた情報が入ったら手下を伝って教えてくれ。それだけ金があれば出来るよな?」
「えぇえぇもちろん。それでは」

 ウォリアは情報屋を出て、門番の部屋へと戻っていった。

「……ということだ。サフィアを捜してるのは俺たちとテイマーたちだけじゃないみたいだな」

 情報屋で得た情報を話すウォリア。一行は黙って話を聞いていた。

「伝えなくちゃいけないことは以上だ。レイフ、次はどうする?」

 話し終えたウォリアがレイフに訊ねる。

「今や俺たちだけじゃなくて他の奴らも勝手にサフィアを捜しているんだな。俺たちがまだ行けてない場所も、既に誰かが入って情報を確認してるかもしれない。となると、俺たちにしか行けない場所に行くしかないな」
「俺たちにしか行けない場所か……。スカイ王国とかはどうだ?」
「空か。西に行かせたテイマーたちがもう行ってそうだけどな」
「あそこに行こうと思ったら、ワイバーンをテイムしなきゃならん。ラルド、彼らにそんな力があるのか?」
「ワイバーンはそうそう人前に姿を現さないので、多分まだテイム出来てないかと思います」
「だけど俺たちにはジシャンがいる。スカイに行くならもってこいだ」

 ラルドたちはジシャンに目を向ける。

「えぇ。私の呪文でスカイまで打ち上げることは可能だわ。でも、スカイの直下まで行くのは相当時間がかかるわよ」
「奴らがワイバーンをテイムするまでよりは早いだろう。とにかくジシャン、お願いだ。俺たちをスカイへ連れていってくれ」

 ジシャンは少し悩む。

「うーん、とにかく遠いからねぇ。サフィアちゃんがいたときは竜の背中に乗ってすぐ行けたけど……。そうだわ、ラルド君、竜をテイム出来るかしら?」
「本で見ましたが、命を取れる直前まで追い込まなきゃいけないみたいです。しかも一人じゃないと卑怯者扱いされてしまってテイム出来なくなってしまうと書いてありました」
「へー、強い魔物を引き連れるにはそれ相応の実力が必要なのね。ねぇラルド君、やっぱり、私から呪文を教わってみない?」
「うーん……」

 ラルドが悩んでいると、突然外で大きな物音が聞こえた。
不思議に思ったエメが言う。

「なんだ、今の音は」
「外に出て確かめてみよう」

 一行が部屋の外へ出ると、門の前に巨大な竜がいた。

「ウォリアたち、助けてくれ! 俺たちだけじゃ手に負えない!」
「フハハ! 雑魚の人間どもが集まったところでこの私は止められぬわ!」
「竜! なぜイースを襲うんだ!」
「さあ、何故だろうなぁ」
「ラルド君はここで見ていなさい。こいつは俺たちが片付ける」

 レイフたちは戦闘態勢に入った。竜はその姿を見下ろしながら、嘲笑した。

「ぐふふ、たかが人間が三匹増えたところで無駄だ。全員あの世へ送ってやるよ」
「俺たちが魔王を討伐したことを知らないようだな。せいぜい傷だらけになってから後悔するが良い」
「ラルド、後であの竜に仲間になってくれないか頼んでみたらどうだ?」
「本の内容通りなら断られるはずだけど、ダメ元で一応やってみるよ」
「ウォリア、ジシャン、いくぞ!」

 かつての魔王討伐隊と竜が戦い始めた。
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