最強テイマーの姉が行方不明になりました〜最弱テイマーの僕が必ず見つけます〜

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第四章 地下編

第七十二話 破壊神コワレ

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破壊神に招かれるまま扉の中に入った一行。そこは扉の外と違い、煌びやかな空間だった。引いていく腕についていきながら、破壊神のいる部屋へ向かった。

「バカみたい。こんな奥な必要ない。疲れる」
(まあまあシンジュ、良いじゃないか。自他とも認める臆病者が前面に立ってるなんて有り得ない話だろう?)
「むー、それはそうだけど……」

 しばらく腕についていき、いよいよ目的の部屋の前までたどり着いた。ここまで来た一行を、破壊神は歓迎する。

「良くぞ来た。この扉の先が俺の部屋だ。さあ、入ってこい」

 一行は顔を合わせ、全員うなずく。そしてそのままラルドを先頭に続々と部屋の中へ入っていく。その部屋の中には、昔と全く身体も顔も変わっていない破壊神がいた。気さくにラルドに話しかける破壊神。

「よう、ラルド」
(なんで地下世界があんな感じなのかはなんとなく察したよ。全部お前がやったことだろ)
「フフフ、話すまでもないな。そう、地下世界を真っ暗闇が広がる地獄にしたのは俺さ。怒り狂って破壊してるうちに、木、土、水、空、時間、その他諸々を破壊してしまっていた。今思えば、もっと冷静にしていれば地上に還り世界を俺の物に出来たろうにな」
(それじゃあ、なんでここだけは家みたいになってるんだ?)
「俺がここに封印されてから長い年月が過ぎ、ほんの少しだけ創造の力が使えるようになったのだ。それで作った。俺の娘も破壊の力を持ってるだろ?」
(見たことないから知らない)
「フフフ、良く出来た娘だ。人間ごときに自分の力を無駄に見せつけたりしない。俺の娘だけあって優秀だ。だが、その愛娘もいずれ殺さねばならないのが辛いところだ」

 辛いと言いながら、破壊神の口は上に歪んでいる。言葉と見た目の違いを、ラルドは指摘する。

(辛いなら、なんで笑ってるんだよ)
「決まってるだろ。あいつは俺の妻のエキスが強すぎる。今度は娘に封印されかねない。そうなったら全ておじゃんだ」
(だからって、自分の子供を殺したりするもんか! やっぱりお前とは打ち解け合えない。さっさと姉さんの居場所だけ吐いて大人しくしてろ)
「まあ待て。ここからはラルドと俺だけの秘密の話だ」

 そう言うと破壊神は煙を出した。この煙には見覚えがある。ラルドはそう感じた。

(この煙は……確か、魔王の夢を見たときの煙だ。はかいしん、一体なんのつもりだ?)
「フフフ、どうやらお前はこの煙に見覚えがあるようだな。サフィアを追いかけるうちに見たことがあるのだろうな」
(僕だけにしたい話があるって、一体なんなんだよ)

 煙を巻き終えた破壊神は、ラルドに語りかけた。

「なあラルド、俺と協力して、地上を俺たち二人の物にしないか?」
(はぁ……何を言い出すかと思えば、そんなことか。僕は別に世界が欲しいわけじゃない。姉さんを見つけたいだけだ。それで? なんでそんな質問を?)
「魔王が元々テイマーだったのは知ってるだろう? そいつを魔王にしたのは俺なんだよ。そのとき特別に強い怨念がいて、そいつと融合させたんだ。その魔王の恐ろしさたるや、魔王がいる時代を生きたお前にはわかるだろう?」
(姉さんにワンパンされた魔王のどこが恐ろしいのか全くわからんな)
「そうか。わからんなら説明してやろう。あの魔王はな、遥か昔から人間どもを脅かした奴なんだよ。お前の時代はたまたまサフィアという強力な奴が勇者の仲間にいたから勝てたが、それまでは勇者たちは負け続けていたのだ。これでわかったか?」
(それで、結局何が言いたいんだ)
「お前を魔王として地上に顕現させ、その負の力で俺も地上に還るのだ。そうしたら、ソーヨを殺して天界を乗っ取り、世の理を書き換えるのだ。人間も竜も魔物も全部俺たちの部下にして、何もせずとも楽な暮らしが出来るようにな」
(ふざけたことを。さっきも言っただろう。僕にそんな野望はない)
「バカめ。少し考えればわかるだろ。世界を掌握すれば、サフィアの場所だって一発でわかるぜ? 天界の力を使えばな」
(嘘つけ。そうぞうしん様はそんなことをしてない)
「そうか。昔の天界はそれが可能だったのに、今は出来ないのか。いやいや、ソーヨが隠しているだけだろ。騙されるな、俺……」
(そうぞうしん様が本当に僕のことを想うなら、そんなくらいの力はすぐ使っているだろ。くれたのは、あのコンパスだけだった)
「わからんだろ。何か理由があってお前に旅をさせているのかもしれないぞ」
(それもあるかもしれないけど……ともかく、お前と協力はしない。姉さんは、僕たちだけの手で見つける)
「そうこうしているうちに寿命が来て死ぬぞ。それならば魔王という永遠の存在にならなければ、サフィアは捜せない」
(お前を地上に出したら、また暴れかねない。そうするとお前との協力は、論外だ。それに、姉さんを見つけるのにそんな時間をかけるつもりはない。すぐに見つけ出してやる)
「良い心構えだ。だが、俺の敵になると言うのなら、この場で捻り潰してやる!」

 破壊神の腕がラルドに伸びる。掴まれそうになるが、それをバックステップで避ける。煙の範囲外に出たようで、レイフたちに認識された。

「ラルド君、どうしたんだい? はかいしんと二人で急に黙って見つめあって」
(レイフ様、危険です。今すぐ目覚めましょう)
「させるかよ! お前たちが夢の中から入ってくるのは計算済みだ。目覚めることは出来ない!」

 破壊神のその言葉に、一行は絶望した。……エメを除いて。

「ほーん……じゃあ、これでも目覚めないってか?」

 エメは一瞬でその場から消え去り、他の者たちも後に続くようにその場からいなくなった。破壊神は目を見開いて驚く。

「な、あのゴブリン、一体何をしやがったんだ……?」

 エメの謎の力で目覚めることが出来た一行は、上半身を上げ、エメを見る。

「エメ君、一体どうやって俺たちを目覚めさせたんだい?」
「睡眠のスペシャリストの秘密の力だ。具体的には説明しない。しかし、今度はこれをも上回る力で夢の世界から出られないようにされるかもしれないから、対策が必須だな」
「そうだぞ。お前たち。今回は逃したが、今度こそはそのゴブリンの秘密とやらを解いて、更に強く夢の世界に縛りつけてやる」
「今の声、破壊神の声じゃない?」

 どこから聞こえたかわからない、破壊神の声に一行は驚く。エメだけは相変わらず余裕そうにしている。

「ラルド、これ以上は下手に夢の世界から地下世界には行けないな。サフィアを見つけたくても、自分が失踪したら元も子もないからな」
「でも、対策すれば行けるんだろ? だったら、大丈夫じゃないか?」
「おいおい、俺にどれだけ仕事を押しつけるんだよ。これ以上働くのはごめんだぜ」
「ダメだ。働け」
「めんどくさいなぁ。どうしよっかなぁ」
「エメ君、君はサフィアに対しての想いとかはないのかい? ラルド君は危険を冒してでもサフィアを捜そうとしているのに」
「……まぁ、全くないわけではない。だが、面倒なものは面倒だ。天秤にかけたら、均等になるくらいに」
「その天秤は、どうやったらサフィアの方に傾くんだい?」
「そうだなー……何か報酬があればやる気になるかもしれない」
「フンス君みたいなこと言い出したな。もし、君のおかげでサフィアを見つけることが出来たら、一生生活に困らないほどの特権を与えてやると言ったらどうだ?」
「今の生活で十分だ。これ以上は望まん」
「む、そうか……」
「エメ、もし姉さんを見つけられたら、シンジュと結婚させてやろうか?」
「「えー!?」」

 ラルドの提案に、シンジュとエメは驚いた。エメは顔が真っ赤になり、シンジュは真っ青になる。

「ラルド、何を言い出すんだ! お、俺がこいつに惚れてるとでも言いたいのか!」
「ラルド、私が結婚するのは、別の生物。ゴブリンと、出来なくはないけど……」
「僕は二人はお似合いだと思うけどね。エメはシンジュに恋をしてるみたいだし」
「そうか。君たちはそこまで仲が良いのか」
「ち、ちげーよ。ラルドが今勝手に言い出したことだ。別に俺はシンジュには惚れてない。俺の好みじゃないからな」
「私がエメと結婚するのは、もっとエメのことを知った後。すぐには、結婚出来ない」
「まあそんな条件を提示しなくても、僕の力を使えばエメは絶対服従だけど」

 ラルドは右手の甲をさする。その瞬間、エメは口を開いた。

「わーったわーった。対策を考えてやるよ……ちっ、契約の解除方法を知ったら、真っ先にお前から離れてやるからな……」
「なんか言ったか?」
「い、いやいや、なんも言ってない。さあ、俺は対策を考えるために動かせてもらうぞ」

 エメはその場から立ち去り、フンスのテントに入っていった。
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