使い魔スライムと俺

うしお

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01、届いた荷物

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三十歳の誕生日、一人暮らしをしている俺の自宅にひとつの荷物が届けられた。
品名に『モンスター製品(封印済)』と書かれたそれは、俺に対する誰かの嫌がらせなどではなく、三十歳を迎えた俺の誕生日を祝うためのプレゼントだ。
ちなみに、このプレゼントは受取人が俺で、送り主も実は俺という自作自演の代物だったりする。
まあ、送り主の名前は全然知らない人間の名前にしてあるから、いつもくる配達員が伝票を見たとしても、俺がこれを自分で自分に贈ったなんて恥ずかしい事実がバレたりはしないはずだ。
もし、バレたりしたら少しどころじゃなく、かなり恥ずかしいのだけれど。
品物としてはもちろんだが、まわりくどい方法を使ってまで自分で自分を祝っているということも、あまり知られたくはなかった。

何故、俺がモンスター製品をわざわざ誕生日プレゼントとして自分に送り付けたのか。
それはもちろん、童貞のまま三十歳を迎える自分に対する一種の憐れみだ。
二十九歳の俺には、三十歳の俺が間違いなく童貞のままその日を迎えるだろう未来がしっかりと見えていた。
きっと、恋人ができることもなく、ひとりでその日を迎えるだろうことも。
だが、いくらなんでもその憐れみだけでは、モンスター製品にまで手を出す理由としては弱すぎた。
モンスター製品はかなりとの噂で、一度ハマってしまうと生身の人間との行為では物足りなくなると言われている。
だから、そんなヤバいものに手を出そうとしている自分を納得させるための言い訳として、俺は自分がこの誕生日で三十歳になることを利用したのだ。
ぶっちゃけてしまうと、そんな言い訳を用意しなくてはならないくらい、俺はどうしてもそれが欲しかったのだ。
年齢イコール彼女いない歴。
血の繋がらない女性はもちろん、これまで誰かと性的に触れあった記憶すらない。
かといって、別に性的嗜好が男に向かっているということでもたぶんなくて、ただただチャンスがなかっただけなのだと思う。
そして、そのチャンスは、おそらく今後も俺におとずれることはないとも思うのだ。
だから、一生未使用なまま終わるだろうおのれの分身に、疑似であってもせめて少しくらいはいいものをプレゼントしてやろうと、思いきって購入することにした。
そこに、元に戻れなくてもいいじゃないか、きっと俺にはそんな出会いはやってこないんだからという、大きな諦めが含まれていることは否定のできない事実だった。

冷蔵便で届いた荷物の中身は、封印ラベルがついたひとつの密封瓶だ。
小さなジャム瓶くらいの大きさしかなく、手に取ってみると見た目から想像した通りの重さで、見た目の割にやけに重いとかそういうこともない。
なんとなく透かして見た瓶の中には、どぎつい蛍光ピンクの液体のようなものが入っていた。
手にした瓶を軽く振ると、中に入っている蛍光ピンクの塊がゼリーのようにぷるぷると揺れる。
俺は、密封瓶を一度冷蔵庫へとしまって、同封されていた説明書を手に取った。

「ついに、買ってしまった。これが、噂の《オナホスライム》か」

正式名称は、《使い魔スライム》というのだが、このスライムと契約した誰かが、匿名でオナホ代わりに使ったら最高だった、とネットに書き込んだところからおかしくなった。
それから次々と、自分もオナホとして使ったとの宣言や、使ってみた感想などを書き込んだことで、《オナホスライム》という呼び名の方が定着してしまい、そちらの呼び方が正式名称よりも有名になってしまったのだ。
そのせいで、いまでは正式名称を知らずに《オナホスライム》と呼ぶ人間の方が圧倒的に多くなっている。
まあ、スライムといえば、そもそファンタジーなエロゲーの世界では代名詞のような存在だったし、実際にエロ方面に使えるということが判明したことで、そっち方面での需要が一気に高まってしまったのだろう。
いまじゃ、AVの小道具としてもこのスライムは当然のように出てくるし、最近じゃスライムをメインとしたエロトラップダンジョンものなんかの需要が高まっている。
CGなんて作り物ではなく、本物のスライムがそれをしてくれるのだから、ただでさえ妄想の世界で楽しんでいた層が飛びつかないわけがない。
みんな、スライムにめちゃくちゃにされているところを見るのが大好きなのだ。
《使い魔スライム》は、初心者から上級者まで、広い範囲をカバーしてくれる素晴らしいモンスター製のアダルトグッズだった。
俺にとって、初めて購入しようと思ったモンスター製のアダルトグッズでもある。
ちなみに、同じサイトで姉妹商品として《使い魔プランツ》、通称《触手バイブ》というのも販売していた。
なんとなく、住み分けはされているようだが、女でも《スライム》を買えるし、男でも《プランツ》を買える。
楽しみ方は人それぞれということだ。
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