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グランドール王国、国王リハディオス崩御。
セイハーヌ王国の南に位置する大国、グランドール王国の中でくすぶった火種は、一気に燃え上がった。
すでに決まっていたはずの王位を巡る争いが起こる。
子爵家出身の側室が産んだ子ではあるものの、すでに王太子の位をあたえられていた第一王子を擁する中央貴族と、公爵家出身の王妃が産んだ唯一の男子である第二王子を擁する公爵家を筆頭とする辺境貴族。
長子相続を良しとし、第一王子に王太子の位を授けた王が不在となったことで、第二王子の後ろ楯ともいうべき公爵家が動いた結果だった。
中央貴族は辺境貴族に武力では敵わなかったし、辺境貴族は中央貴族に政治力では敵わなかった。
二つの勢力は拮抗し、長く続くであろうと予想された戦争の気配は、あっさりとその存在を秘されていた第三王子の出現と、戴冠により霧散する。
第三王子の出自は明らかにされなかったが、グランドール王家特有の金色の瞳を持っていることで、その正統性は証明された。
そして、王太子であったはずの第一王子も、王妃の子である第二王子も、新王が戴冠すると同時に、その派閥に所属していた貴族の主だったもの共々、すでに処刑されていることが公表される。
その際、新王に対して異論の声をあげたものたちも、ことごとく処刑されてしまった。
グランドール王国の新たな王の名は、ディルエランデ・ソルヴ・グランドール。
後に冷血王と呼ばれるようになるディルエランデ王の誕生である。
王は、その苛烈な勢いのまま、周辺諸国にも従属を求めた。
服従か、死か。
彼の王は、中立などという甘い選択を用意することはなく、拒絶した国には兵を送り込んで平らげ、日和見をしていた国も服従しないものとして平らげてしまった。
周辺国に服従以外の選択肢はなく、多くの国がグランドールの旗の下に跪いた。
ロサリオールが暮らすセイハーヌ王国は、大きな隣人の突きつけてきたあまりにも理不尽な要求にも、反抗するこなく比較的早い段階で服従を示した。
国力の差はもちろん、何よりも戦力に差がありすぎた。
そして、セイハーヌ王は、ただ服従の意思を伝えるだけでなく、王族の姫をグランドール王の側妃として嫁がせることを宣言した。
姫を正妃に、と言わなかったのは、セイハーヌ王国が周辺国の中でも小さい側から数えた方が早いことを知ってたからであり、グランドール王国からの影響を最小限に留めるためであった。
王の側妃として送られる姫には、ロサリオールが守護する末姫が選ばれた。
末姫は、成人したばかりの十五歳。
女として体はまだ未熟であり、その心もまた幼いままの姫であった。
淑女教育は、最低限と言われる範囲すら終わっておらず、選ばれた日から過酷な教育が課せられるようになった。
ロサリオールには、王より課せられた教育の辛さに一人で泣く姫を助ける手段はなく、ただその傍らにあることしかできなかった。
セイハーヌ王が、末姫ティリアを側妃として選んだのは、グランドール王に嫁がせた姫がすぐに子を成してしまえば、その子に流れる王族の血によってセイハーヌ王国を奪われるかもしれないと考えていたからだった。
それ故、いまだに子の成せぬ体である末姫を選び、時間を稼ごうとしていた。
セイハーヌ王は、表向きは外にも出さぬほど可愛がっている末姫、という存在を王に嫁がせることを、自身の忠誠の証にすることにした。
実際は、心がいつまでも幼く、一向に成長の兆しを見せないため捨て置いていた末姫を活用してやろうとの企みであったが、とちらが事実であるかなど、誰にもわからないことであった。
グランドール王はそれを断ることなく、いくつかの条件をつけたが、姫を受け入れた。
その際の条件は、セイハーヌ王が不思議に思うほど、大したことのないものばかりだったため、ほどなくして末姫はグランドール王の下へ側妃として輿入れすることが、決定した。
ひとつ、姫の輿入れには、親であるセイハーヌ王夫妻が必ず付き添うこととする。
ひとつ、姫の従者は、身を守るための騎士と身のまわりの世話をする侍女を、それぞれ一人までとする。
ひとつ、以後、セイハーヌ王国はグランドール王国の属国となり、忠誠を誓うものとする。
これらの約定を破りし時は、セイハーヌ王国を取り潰すものとする。
グランドール王国へとついていく姫の従者には、唯一の騎士であるロサリオールと、同じく唯一のメイドであるカリネイアが選ばれた。
二人とも平民の出身で、どちらも有能さを買われて王族に召し上げられたものの、王の寵愛から程遠い末姫の世話係を命じられていた。
セイハーヌ王は、国民からの求心力を集めるため、平民からも進んで登用していたが、その平民出身者を自身の側に置くことはなかった。
当然ではあるが、王や王太子のまわりで仕えるものには、生粋の高位貴族だけが選ばれている。
平民出身者である二人は、身分的には王族であるものの、側妃にすらなれない身分の妾から生まれた末姫ティリアの側近に命じられ、長い間冷遇されていた。
しかし、二人は仕える末姫の心根の優しさに心酔しており、与えられた地位を不満に思ったことなどなかった。
だから、二人は末姫と離れずに済んだことを、純粋に喜んでいた。
何も知らない末姫は、二人とお出かけができることを喜んだ。
生まれて初めての外出だった。
セイハーヌ王は、グランドール王国まで行くことをしぶしぶとではあるが了承した。
あまり聞かない風習ではあったが、一緒に行くだけで良いのならと、セイハーヌ王と王妃はそれぞれ別の馬車でグランドール王国まで行くことになった。
王と王妃の馬車には、それぞれ愛人が侍っており、王の馬車などは常に不規則な揺れを伴っていたが、誰もそれを指摘するものはいなかった。
末姫と二人の従者は、一つの馬車で仲良くグランドール王国を目指すことになった。
「ふたりは、ティリアのおとうさまとおかあさまみたいね。かぞくでおでかけできて、うれしいわ」
ロサリオールとカリネイアの間に入り、二人の手を握っていた末姫が、にこにこと嬉しそうに笑う。
そのまま三人で乗り込んだあと、末姫は王と王妃の前に姿を見せることを許されず、馬車からほとんど外へ出ることなく過ごすことになった。
本当の家族と呼べる人はすぐ側にいるのに、と二人は不憫に思いながらも、私たちも嬉しいですと二人の間に座った末姫を、順番に抱き締めて伝えるだけだった。
国王夫妻が、末姫のことをどう思っているのかなど、言われなくても二人はちゃんと気づいていたからだ。
それならばと、自分たちが代わりに末姫を愛そうと思っていた。
二人の間に恋愛感情はなかったが、ただ同じ目的を持つ同士として協力しあうことはできると考えた。
セイハーヌ王は、自分の子よりも若い王を苦々しく思ってはいたが、グランドール王に逆らうつもりなどなかった。
だから、命じられるまま、グランドール王国まで王妃を伴って訪れたし、騎士だらけのの謁見の間で膝もついた。
しかし、その結果、姫と共にグランドール王国へとやってきたセイハーヌ国王夫妻は、揃って王城の地下牢に入れられることとなった。
グランドール王に、虚偽を申し立てたという罪で。
セイハーヌ王国の南に位置する大国、グランドール王国の中でくすぶった火種は、一気に燃え上がった。
すでに決まっていたはずの王位を巡る争いが起こる。
子爵家出身の側室が産んだ子ではあるものの、すでに王太子の位をあたえられていた第一王子を擁する中央貴族と、公爵家出身の王妃が産んだ唯一の男子である第二王子を擁する公爵家を筆頭とする辺境貴族。
長子相続を良しとし、第一王子に王太子の位を授けた王が不在となったことで、第二王子の後ろ楯ともいうべき公爵家が動いた結果だった。
中央貴族は辺境貴族に武力では敵わなかったし、辺境貴族は中央貴族に政治力では敵わなかった。
二つの勢力は拮抗し、長く続くであろうと予想された戦争の気配は、あっさりとその存在を秘されていた第三王子の出現と、戴冠により霧散する。
第三王子の出自は明らかにされなかったが、グランドール王家特有の金色の瞳を持っていることで、その正統性は証明された。
そして、王太子であったはずの第一王子も、王妃の子である第二王子も、新王が戴冠すると同時に、その派閥に所属していた貴族の主だったもの共々、すでに処刑されていることが公表される。
その際、新王に対して異論の声をあげたものたちも、ことごとく処刑されてしまった。
グランドール王国の新たな王の名は、ディルエランデ・ソルヴ・グランドール。
後に冷血王と呼ばれるようになるディルエランデ王の誕生である。
王は、その苛烈な勢いのまま、周辺諸国にも従属を求めた。
服従か、死か。
彼の王は、中立などという甘い選択を用意することはなく、拒絶した国には兵を送り込んで平らげ、日和見をしていた国も服従しないものとして平らげてしまった。
周辺国に服従以外の選択肢はなく、多くの国がグランドールの旗の下に跪いた。
ロサリオールが暮らすセイハーヌ王国は、大きな隣人の突きつけてきたあまりにも理不尽な要求にも、反抗するこなく比較的早い段階で服従を示した。
国力の差はもちろん、何よりも戦力に差がありすぎた。
そして、セイハーヌ王は、ただ服従の意思を伝えるだけでなく、王族の姫をグランドール王の側妃として嫁がせることを宣言した。
姫を正妃に、と言わなかったのは、セイハーヌ王国が周辺国の中でも小さい側から数えた方が早いことを知ってたからであり、グランドール王国からの影響を最小限に留めるためであった。
王の側妃として送られる姫には、ロサリオールが守護する末姫が選ばれた。
末姫は、成人したばかりの十五歳。
女として体はまだ未熟であり、その心もまた幼いままの姫であった。
淑女教育は、最低限と言われる範囲すら終わっておらず、選ばれた日から過酷な教育が課せられるようになった。
ロサリオールには、王より課せられた教育の辛さに一人で泣く姫を助ける手段はなく、ただその傍らにあることしかできなかった。
セイハーヌ王が、末姫ティリアを側妃として選んだのは、グランドール王に嫁がせた姫がすぐに子を成してしまえば、その子に流れる王族の血によってセイハーヌ王国を奪われるかもしれないと考えていたからだった。
それ故、いまだに子の成せぬ体である末姫を選び、時間を稼ごうとしていた。
セイハーヌ王は、表向きは外にも出さぬほど可愛がっている末姫、という存在を王に嫁がせることを、自身の忠誠の証にすることにした。
実際は、心がいつまでも幼く、一向に成長の兆しを見せないため捨て置いていた末姫を活用してやろうとの企みであったが、とちらが事実であるかなど、誰にもわからないことであった。
グランドール王はそれを断ることなく、いくつかの条件をつけたが、姫を受け入れた。
その際の条件は、セイハーヌ王が不思議に思うほど、大したことのないものばかりだったため、ほどなくして末姫はグランドール王の下へ側妃として輿入れすることが、決定した。
ひとつ、姫の輿入れには、親であるセイハーヌ王夫妻が必ず付き添うこととする。
ひとつ、姫の従者は、身を守るための騎士と身のまわりの世話をする侍女を、それぞれ一人までとする。
ひとつ、以後、セイハーヌ王国はグランドール王国の属国となり、忠誠を誓うものとする。
これらの約定を破りし時は、セイハーヌ王国を取り潰すものとする。
グランドール王国へとついていく姫の従者には、唯一の騎士であるロサリオールと、同じく唯一のメイドであるカリネイアが選ばれた。
二人とも平民の出身で、どちらも有能さを買われて王族に召し上げられたものの、王の寵愛から程遠い末姫の世話係を命じられていた。
セイハーヌ王は、国民からの求心力を集めるため、平民からも進んで登用していたが、その平民出身者を自身の側に置くことはなかった。
当然ではあるが、王や王太子のまわりで仕えるものには、生粋の高位貴族だけが選ばれている。
平民出身者である二人は、身分的には王族であるものの、側妃にすらなれない身分の妾から生まれた末姫ティリアの側近に命じられ、長い間冷遇されていた。
しかし、二人は仕える末姫の心根の優しさに心酔しており、与えられた地位を不満に思ったことなどなかった。
だから、二人は末姫と離れずに済んだことを、純粋に喜んでいた。
何も知らない末姫は、二人とお出かけができることを喜んだ。
生まれて初めての外出だった。
セイハーヌ王は、グランドール王国まで行くことをしぶしぶとではあるが了承した。
あまり聞かない風習ではあったが、一緒に行くだけで良いのならと、セイハーヌ王と王妃はそれぞれ別の馬車でグランドール王国まで行くことになった。
王と王妃の馬車には、それぞれ愛人が侍っており、王の馬車などは常に不規則な揺れを伴っていたが、誰もそれを指摘するものはいなかった。
末姫と二人の従者は、一つの馬車で仲良くグランドール王国を目指すことになった。
「ふたりは、ティリアのおとうさまとおかあさまみたいね。かぞくでおでかけできて、うれしいわ」
ロサリオールとカリネイアの間に入り、二人の手を握っていた末姫が、にこにこと嬉しそうに笑う。
そのまま三人で乗り込んだあと、末姫は王と王妃の前に姿を見せることを許されず、馬車からほとんど外へ出ることなく過ごすことになった。
本当の家族と呼べる人はすぐ側にいるのに、と二人は不憫に思いながらも、私たちも嬉しいですと二人の間に座った末姫を、順番に抱き締めて伝えるだけだった。
国王夫妻が、末姫のことをどう思っているのかなど、言われなくても二人はちゃんと気づいていたからだ。
それならばと、自分たちが代わりに末姫を愛そうと思っていた。
二人の間に恋愛感情はなかったが、ただ同じ目的を持つ同士として協力しあうことはできると考えた。
セイハーヌ王は、自分の子よりも若い王を苦々しく思ってはいたが、グランドール王に逆らうつもりなどなかった。
だから、命じられるまま、グランドール王国まで王妃を伴って訪れたし、騎士だらけのの謁見の間で膝もついた。
しかし、その結果、姫と共にグランドール王国へとやってきたセイハーヌ国王夫妻は、揃って王城の地下牢に入れられることとなった。
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