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きっと伝わったはず
しおりを挟む保護されたアリは、その後王都の王立病院で治療を受けた。
フルーリ伯爵は、孤児院とは名ばかりの奴隷商を営んでいたことが明るみに出て、捕まったそうだ。アリが見つかったのは、伯爵家内の捜査の最中だったらしい。
「やはり喋れないのか?」
アリを助けてくれた男性──ギルバート・サラン辺境伯爵が、眉を垂れさせて難しい表情を浮かべる。長年酷い仕打ちを受けていたアリは、三日の間病院で検査を受けながら過ごしていた。その間、両親が会いに来てくれたが、アリの変わり果てた姿に泣き崩れてしまい辛かった。
「フルーリ伯爵の件は、伯爵家を捜索したときに見つけた裏帳簿でほぼ罪は確定している。だが君との間に起きたことに関しては、君が話してくれるまでどうすることもできないんだ」
「……」
ギルバートの言葉は理解できる。困らせたくはない。
けれど、どうやっても言葉は空を切ってしまう。それに、紙に文字を書こうとすると、震えてミミズのようになってしまった。
「……焦らせてしまったな。君は子爵家の令息だったな。家に帰ってもかまわない。そのほうがいいだろう」
家に帰れるというのに、アリは素直に喜ぶことができなかった。
泣き崩れる両親を見て、変わってしまった自分自身や現実と向き合うことが怖くなったからだ。せめて声が出るのなら、気持ちを打ち明けることもできた。
けれどそれは叶わない。
アリは両親に泣いてほしくなどなかった。フルーリ伯爵とも関わりたくはない。穏やかだった、笑顔溢れる日常に戻りたいだけだ。
唇を噛み締めながら、首を横に振る。
「帰りたくないのか?」
頷くと、ギルバートは更に眉を垂れさせる。ますます困らせてしまったようだ。
「……それなら、俺の屋敷に来るか? 辺境伯爵領は王都から少し外れた田舎にあるんだ。心も落ち着く」
迷わず同意するように頷いた。抱きかかえられた瞬間、感じた熱を忘れられなかったからだ。
ギルバートなら安心できる。アリの直感が、告げていた。
「わかった。ご両親には話しておこう」
ありがとうございます、と口を動かす。伝わったのかはわからない。けれど、柔らかな笑みを浮かべてくれたから、気持ちは伝わったと捉えておく。
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