緑宝は優しさに包まれる〜癒しの王太子様が醜い僕を溺愛してきます〜

天宮叶

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幸せのお裾分け

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楽しい時間はあっという間に過ぎていくものだって今日初めて知ったんだ。

フェリクス様とお話するのは楽しくて、美味しくて甘いお茶菓子とフェリクス様が入れてくれた紅茶を楽しみながら過ごす一時は僕にとってかけがえのない思い出になった。

「そろそろ帰らないと行けない時間だね」

「……はい」

寂しい……。

でも、そんなこと言えない。だって、絶対彼のことを困らせてしまうから。

だから、これだけは聞いてもいいだろうか。

「あの……、どうして誘ってくれたんですか」

僕が本当はコーラル=アルスタッドじゃないって気がついているはずなのに。それなのにどうしてコーラル=アルスタッドの名前で手紙を出したんですか。

もしも、僕じゃなくてラルがこのお茶会に来ていたら貴方はどうしていましたか?

「君が何を言いたいのか分かっているつもりだよ」

紅茶を一口飲んだ後、フェリクス様がそう言ってくすりと小さく笑を漏らした。

その笑みとカップが置かれた音が重なって僕の耳に届くと、何故か心臓を掴まれた様な気分にさせられた。

「……僕……」

先程まで紅茶を飲んでいたはずなのに、喉が酷く乾いていて喉奥に何かが詰まったような感覚がする。

「そんなに怖がらないで。今日のお茶会は私にとっては1種の賭けの様なものだったんだ」

「……賭け?」

「君がコーラル=アルスタッド嬢ではないことは最初から分かっていたよ。あの子は良くも悪くも社交界ではものすごく目立っているから。それと同時に、コーラル嬢に双子のお兄さんが居ることも知っている」

「……っ……ごめんなさい……」

きっと彼は怒っているんだろうって思った。
だから、謝罪の言葉を口に出して、必死に泣くのを我慢する。

顔の右側が痙攣したみたいにピクリと何度も動いていて、頭の中はどうしよう、嫌われた、って言葉でいっぱいになっていた。

僕の謝罪を聞いたフェリクス様が目をまん丸にして僕を見てくるから、もう一度謝ろうと口を開きかけた時、彼の大きな手が僕の手を包み込んできて、次は僕が目を丸くさせる。

「なにか勘違いをさせてしまったみたいだ」

「勘違いなんて……」

「私はただ、君の名前を聞きたかっただけなんだ。そのために賭けをした。コーラル嬢の名前でお茶会の誘いの手紙を出して君が来てくれるかどうか賭けたんだ」

「……え?」

「名前を教えて欲しいと初めて会った時にお願いしたのを覚えている?」

彼の問に頷くと、彼が安堵の表情を浮かべた。

「まだ、名前を教えて貰っていないから。だから、どうしても君から直接、君の声で君の名前を教えて欲しかったんだ」

フェリクス様の言葉を聞き終えた僕は思わず我慢していた涙をポロポロと流した。

記憶を辿ると、確かに彼は今日1度も僕のことをコーラルと呼んでいない。

「君さえ良ければ私に君の名前を教えてくれないかな?」

最初から分かっていて、僕をちゃんと僕として扱ってくれていたんだ。こんなに醜い僕に・・彼は優しくしてくれて、幸せな時間をくれていたんだ。

「……っ、僕っ……僕の名前はっ……」

「慌てないで、ゆっくりでいいから」

フェリクス様がそう言って僕の手を撫でてくれる。
だから、僕は言われた通りゆっくりゆっくり深呼吸して、ちゃんと彼に伝わるようにゴシゴシと空いている方の手で涙を拭って彼の目を見返した。

「……っ、僕の名前は、エスメラルダ=アルスタッドです」
感想 10

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