身代わりの花は包愛に満たされる

天宮叶

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お出迎え②

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駐屯地が近づくと、護衛の方達の様子が少しずつ慌ただしくなってきた。あと二日ほどはかかるだろう。

長い馬車の旅のせいで疲れたのか、少しだけ気分が悪い。目頭を押さえながら体調を落ち着かせていると、馬が道を駆けて来る音が聞こえてきた。複数の足音が、馬車へと近づいてきている。

「どうしたんですか?」

小窓を開けて近くにいた護衛の方に尋ねた。

「どうやら待ちきれなかったようですね」

「それって……」

顔を出して遠くの方へと目を凝らす。小さかった影がはっきりと見えてくると、馬に乗って先頭を走る黒髪の男の人の姿が視界に映った。

馬車の近くで止まった男性が、馬から降りてこちらへと近づいてくる。護衛達の方達は皆、敬礼の姿勢を取っていた。

野性味を帯びた精悍な顔つきに、がっしりとした筋肉。馬車に乗っていても見上げてしまいそうなほど背も高い。すべてを見通すような鋭い紅の瞳と目が合った気がして、咄嗟に馬車の中へと隠れた。

心臓がやけに高鳴っている。あの人の姿を見た瞬間、いままでに感じたことのないような高揚感が胸を満たした気がした。けれどそれも、一瞬のことだ。

「遅いから迎えに来た」

「むしろ予定より早い方なのですが……」

呆れ気味に答えた護衛の方に、彼が舌打ちをする。

思いの外大きかったその音に、僕は大袈裟に肩を跳ねさせた。どうして彼が怒っているのかわからない。できるだけ困らせないように、馬車で大人しくするように心がけていた。

けれどもしかすると、知らないうちに迷惑をかけていて遅くなってしまったのだろうか……。

「中にいるのか?」

「ええ。ですが長旅で疲れているご様子なので、デューク様に会うと余計疲れてしまうかと」

「どういう意味だアルベルト」

「そのままの意味ですけど」

二人の会話の中で、彼がデューク様だとようやく気がついた。そうするとますます動機が激しくなる。夫となる人物が馬車の外にいる。そう思うと、この場所から一歩も動けなくなってしまう。

ジルバート様のことを忘れられない。

愛していたかと問われると難しいけれど、大好きだと思う気持ちは本物だ。それに少なくとも、彼が心の支えになってくれていたことは確かだった。だから婚約を破棄されたときは、本当に辛かったんだ。

それは一ヶ月経った今も変わらない。

そう思っているのは僕だけなのだろう。家族は皆、僕が居なくなっても気にも止めていない。なにも変わらず生活を続けるはずだ。

それが悲しい。

「たくっ、仕方ないな。おい!お前ら出発するぞ!」

デューク様の一声で、再び馬車が動き出した。

まったく知らない人と結婚することには抵抗がある。けれど逃げ出すこともできない。未来に希望なんて見いだせなかった。

デューク様の姿を見た今は、ますますその思いが強くなる。

ゆっくりゆっくりと、馬車が僕を知らない世界へと連れて行く。

なにもできない僕をデューク様はどう思うだろうか……。

僕の顔を見たはずだ。期待外れだとは思わなかったかな?

バトラー伯爵家に近いていくほどに、不安は募る。もしかしたら、デューク様を見た瞬間に感じた、動機がまだ治まっていないせいかもしれない。

 

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