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この上なく愛(最終話)
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山奥にある村の跡。僕は事件が起こってから初めて、故郷のあった場所に足を運んでいた。隣にはライアン様が居る。手には大輪の花束。
九年の月日が経ち忘れ去られたリトル村。思い出もなにもかも消え去り、昔の面影すら朧気だ。それでも、僕とライアン様の記憶には残り続けている。
「今日は付き合ってくれてありがとうございます」
「かまわない。それに俺もずっと足を運びたいと思っていたんだ。ただ勇気が出なくてな」
気持ちは痛いほどにわかる。僕だってライアン様が傍に居てくれなければここには来られなかっただろうから。
楽しいことも辛いことも、すべてが詰まっている場所だ。
花束を置くと手を合わせる。目をつぶれば木々のさざめきや香りが昔とは変わらないことが感じられた。自然と故郷の歌を口ずさんでしまう。同じように手を合わせながら、ライアン様はただ静かに歌を聞いてくれていた。
大切な人たちの魂が浮かばれることを願う。あの日は僕たちにとって紛れもなく最悪の日だった。
花患いを発症した瞬間のことを思い出す。ライアン様と心を通わせてからは、嘘のように症状は治まっていた。
(皆、僕は皆の分まで生き続けるよ)
誠実な愛の花言葉を持つスイートバイオレットのように、これからは真っ直ぐにライアン様を愛し続ける。それが生き残りである僕にできる弔いだと思うから。
空に居る義母も喜んでくれているだろうか。最後まで心配をかけたままだったと、寂しく思う。
「見て回ろう」
「はい」
手を差し出されて、戸惑うことなくその手を掴む。腕には日差しを受けて輝くブレスレットが飾られている。
「ライアン様の手は温かいですね」
心地よい熱だ。彼は二度も僕の命を救ってくれた。まごうことなく僕の救世主様だ。この手をずっと離さない。そう誓いを立てて前へと進んでいく。
薬屋の朝は早い。いつものように準備をしていると、カラリとベルの音が聞こえてきた。視線をそちらへと向けると僕の想い人が中へと入ってくる。
「少し早く来すぎてしまったな」
「かまいませんよ。今日も陛下のお使いですか?」
棚の整理をしていた僕のことを後ろから抱きしめながら、ライアン様はため息を吐き出した。相変わらず陛下に困らされているようだ。
「今日は傷薬を貰いにきた。ついでに媚薬もな」
「ふふ、相変わらずですね。すぐに用意します」
振り返ると困り顔が視界に映る。少し疲れているようで心配になった。肩に顔を埋めながら息を吐き出す、愛おしい人の背を撫でてあげる。こんな風に甘えてもらえることが嬉しい。すごく真面目で、皆から頼りにされている方だけれど、たまには肩の力も抜いてほしいと思う。
「最近はましになったが、情事のたびに媚薬を求められては困ってしまう」
「仲睦まじいのですね」
当たり障りのない返しをしてしまう。陛下の情事を想像するのは気まずい。
「……俺が使いたいくらいだというのに」
「へっ⁉」
ぼそりと呟かれた言葉に耳を疑う。聞き間違えだろうか? 尋ねようと思いライアン様の顔を見ると、色気を含んだ切れ長の瞳と目が合って動揺してしまう。一気に顔が熱くなって、思わず視線を逸らす。
「冗談だ」
そっと顎を掴まれて上を向かされると、顔が近づいてきて唇が触れ合った。くちゅりと水音が口内から響き、舌が絡み合う。食べられてしまいそうなキスに翻弄されて息継ぎすら上手くできない。とんとんと胸を叩くと、ようやく離れてくれた。
「でもその顔を見ていると、試してみたくなるな」
琥珀色の瞳に蕩けきった自身の顔が映っていて恥ずかしくなる。想いを交わしてからは、こんな風にライアン様に惑わされてばかり。それを嫌だとは感じない。むしろ幸せすぎて不安になる。たまには僕からもライアン様になにか仕掛けてみたい。
余裕の笑みを浮かべるライアン様の首に、背伸びをして腕を回す。自分からキスをすると、恥ずかしさで震える声を絞り出した。
「今夜までに用意しておきますね」
「!」
僕からそんなことを言われるとは思っていなかったのだろう。ほんのりと頬を染めたライアン様が、ぽすりと再び顔を首元に埋めてくる。
「……楽しみにしている」
か細く囁かれた言葉を聞いて、思わず笑みがこぼれた。僕の愛した騎士様は格好良くて、頼りになる、可愛らしい人。
彼に出会えて本当に嬉しい。
「ふふ、媚薬の注文承りました。僕も楽しみです」
薬屋の中に、小鳥のさえずりと笑い声が響いている。愛おしい人と過ごす穏やかな時間をこれからも大切にしていきたい。
【終】
九年の月日が経ち忘れ去られたリトル村。思い出もなにもかも消え去り、昔の面影すら朧気だ。それでも、僕とライアン様の記憶には残り続けている。
「今日は付き合ってくれてありがとうございます」
「かまわない。それに俺もずっと足を運びたいと思っていたんだ。ただ勇気が出なくてな」
気持ちは痛いほどにわかる。僕だってライアン様が傍に居てくれなければここには来られなかっただろうから。
楽しいことも辛いことも、すべてが詰まっている場所だ。
花束を置くと手を合わせる。目をつぶれば木々のさざめきや香りが昔とは変わらないことが感じられた。自然と故郷の歌を口ずさんでしまう。同じように手を合わせながら、ライアン様はただ静かに歌を聞いてくれていた。
大切な人たちの魂が浮かばれることを願う。あの日は僕たちにとって紛れもなく最悪の日だった。
花患いを発症した瞬間のことを思い出す。ライアン様と心を通わせてからは、嘘のように症状は治まっていた。
(皆、僕は皆の分まで生き続けるよ)
誠実な愛の花言葉を持つスイートバイオレットのように、これからは真っ直ぐにライアン様を愛し続ける。それが生き残りである僕にできる弔いだと思うから。
空に居る義母も喜んでくれているだろうか。最後まで心配をかけたままだったと、寂しく思う。
「見て回ろう」
「はい」
手を差し出されて、戸惑うことなくその手を掴む。腕には日差しを受けて輝くブレスレットが飾られている。
「ライアン様の手は温かいですね」
心地よい熱だ。彼は二度も僕の命を救ってくれた。まごうことなく僕の救世主様だ。この手をずっと離さない。そう誓いを立てて前へと進んでいく。
薬屋の朝は早い。いつものように準備をしていると、カラリとベルの音が聞こえてきた。視線をそちらへと向けると僕の想い人が中へと入ってくる。
「少し早く来すぎてしまったな」
「かまいませんよ。今日も陛下のお使いですか?」
棚の整理をしていた僕のことを後ろから抱きしめながら、ライアン様はため息を吐き出した。相変わらず陛下に困らされているようだ。
「今日は傷薬を貰いにきた。ついでに媚薬もな」
「ふふ、相変わらずですね。すぐに用意します」
振り返ると困り顔が視界に映る。少し疲れているようで心配になった。肩に顔を埋めながら息を吐き出す、愛おしい人の背を撫でてあげる。こんな風に甘えてもらえることが嬉しい。すごく真面目で、皆から頼りにされている方だけれど、たまには肩の力も抜いてほしいと思う。
「最近はましになったが、情事のたびに媚薬を求められては困ってしまう」
「仲睦まじいのですね」
当たり障りのない返しをしてしまう。陛下の情事を想像するのは気まずい。
「……俺が使いたいくらいだというのに」
「へっ⁉」
ぼそりと呟かれた言葉に耳を疑う。聞き間違えだろうか? 尋ねようと思いライアン様の顔を見ると、色気を含んだ切れ長の瞳と目が合って動揺してしまう。一気に顔が熱くなって、思わず視線を逸らす。
「冗談だ」
そっと顎を掴まれて上を向かされると、顔が近づいてきて唇が触れ合った。くちゅりと水音が口内から響き、舌が絡み合う。食べられてしまいそうなキスに翻弄されて息継ぎすら上手くできない。とんとんと胸を叩くと、ようやく離れてくれた。
「でもその顔を見ていると、試してみたくなるな」
琥珀色の瞳に蕩けきった自身の顔が映っていて恥ずかしくなる。想いを交わしてからは、こんな風にライアン様に惑わされてばかり。それを嫌だとは感じない。むしろ幸せすぎて不安になる。たまには僕からもライアン様になにか仕掛けてみたい。
余裕の笑みを浮かべるライアン様の首に、背伸びをして腕を回す。自分からキスをすると、恥ずかしさで震える声を絞り出した。
「今夜までに用意しておきますね」
「!」
僕からそんなことを言われるとは思っていなかったのだろう。ほんのりと頬を染めたライアン様が、ぽすりと再び顔を首元に埋めてくる。
「……楽しみにしている」
か細く囁かれた言葉を聞いて、思わず笑みがこぼれた。僕の愛した騎士様は格好良くて、頼りになる、可愛らしい人。
彼に出会えて本当に嬉しい。
「ふふ、媚薬の注文承りました。僕も楽しみです」
薬屋の中に、小鳥のさえずりと笑い声が響いている。愛おしい人と過ごす穏やかな時間をこれからも大切にしていきたい。
【終】
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