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リコは有名な避暑地であるガルサ湖からの帰り道を、馬車に揺られながら憂鬱な気持ちで進んでいた。実家であるシュピラーレ子爵家の領地内にあるため、夏になると必ず訪れている湖。あの場所で過ごす期間だけが、リコが本当に心から気を休められる一時なのだ。
リコにはフリードリヒ・ホーガンという夫がいる。愛など一切ない、政略的な婚姻で結ばれた夫婦関係だ。シュピラーレ子爵家とホーガン伯爵家は昔から親交があり、リコとフリードリヒもお互いの存在だけは知っていた。リコが十九歳の誕生日を迎える頃、シュピラーレ子爵家の領地で大規模な災害が起こり、復旧のため子爵家は資産を使い果たし財政難に陥ってしまった。そこでホーガン伯爵家へと助けを乞うことになったのだ。
(……帰りたくないな)
深いため息を吐き出しながら、小窓から外を眺める。すでにホーガン伯爵家を継いでいたフリードリヒは、リコとの婚姻を条件にシュピラーレ子爵家を助けることを約束してくれた。結婚適齢期を過ぎかけていたフリードリヒにとって、オメガであるリコが丁度良かったのだろう。
婚姻に関する行事はすべて簡素に行われ、初夜ですら熱の一欠片も感じなかった。番になってからも同じだ。すでに二年の月日が経っているものの、未だ愛と呼べるものはお互いの間には存在しない。
それに、シュピラーレ子爵家もいまだ困窮したままだ。復旧も終わり、安定してくると考えていたものの、年々生活は厳しくなっている。どうにかしてあげたいと考えているが、リコの立場ではフリードリヒに頼むことも難しい。
「ヒヒィーン!」
「っ!」
暗い思考に呑まれていたとき、馬車が急停止して驚く。窓から外の様子を確認すると、道の真ん中に、倒れている馬と人影がいることに気がついた。御者が困り顔でリコへと声をかけてくる。
「どうやら馬が足を挫いて動けなくなってしまったようです」
「治りそうなの?」
「見たところ折れていそうですね。動かそうにも人手がなく難しかったようです」
「僕がその人と話をしてみるから、馬に触れる許可が下りたら手伝ってあげてほしい」
「わかりました」
急いで馬車から降りると、馬に寄り添うように膝をついている男性へと声をかけた。身なりだけで貴族だとわかる。彼が顔を上げた瞬間、美しい銀髪が流れ落ちた。その様がやけに美しく視界に映る。紫色の切れ長の瞳がリコの姿を捕らえると、微かに見開かれた。
リコにはフリードリヒ・ホーガンという夫がいる。愛など一切ない、政略的な婚姻で結ばれた夫婦関係だ。シュピラーレ子爵家とホーガン伯爵家は昔から親交があり、リコとフリードリヒもお互いの存在だけは知っていた。リコが十九歳の誕生日を迎える頃、シュピラーレ子爵家の領地で大規模な災害が起こり、復旧のため子爵家は資産を使い果たし財政難に陥ってしまった。そこでホーガン伯爵家へと助けを乞うことになったのだ。
(……帰りたくないな)
深いため息を吐き出しながら、小窓から外を眺める。すでにホーガン伯爵家を継いでいたフリードリヒは、リコとの婚姻を条件にシュピラーレ子爵家を助けることを約束してくれた。結婚適齢期を過ぎかけていたフリードリヒにとって、オメガであるリコが丁度良かったのだろう。
婚姻に関する行事はすべて簡素に行われ、初夜ですら熱の一欠片も感じなかった。番になってからも同じだ。すでに二年の月日が経っているものの、未だ愛と呼べるものはお互いの間には存在しない。
それに、シュピラーレ子爵家もいまだ困窮したままだ。復旧も終わり、安定してくると考えていたものの、年々生活は厳しくなっている。どうにかしてあげたいと考えているが、リコの立場ではフリードリヒに頼むことも難しい。
「ヒヒィーン!」
「っ!」
暗い思考に呑まれていたとき、馬車が急停止して驚く。窓から外の様子を確認すると、道の真ん中に、倒れている馬と人影がいることに気がついた。御者が困り顔でリコへと声をかけてくる。
「どうやら馬が足を挫いて動けなくなってしまったようです」
「治りそうなの?」
「見たところ折れていそうですね。動かそうにも人手がなく難しかったようです」
「僕がその人と話をしてみるから、馬に触れる許可が下りたら手伝ってあげてほしい」
「わかりました」
急いで馬車から降りると、馬に寄り添うように膝をついている男性へと声をかけた。身なりだけで貴族だとわかる。彼が顔を上げた瞬間、美しい銀髪が流れ落ちた。その様がやけに美しく視界に映る。紫色の切れ長の瞳がリコの姿を捕らえると、微かに見開かれた。
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