モブに転生した俺。推しキャラのハピエンを拝むまで夜も眠れない

天宮叶

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推しの笑顔を守ってみせる!

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「どうして俺にそのことを教えてくれたの?カエラムはネイトになにをする気?」
 
 混乱している中でもノエルの思考にはネイトを守らなければならないという意思があった。魔術で縛られている体を動かそうと全身に力を入れて抗う。
 カエラムの目が仄暗くひかり、魔術の威力が強まったのを感じた。それでもノエルは抗うことをやめなかった。

「あれは我の後を継ぎ魔王になる運命だ。そのためにも強すぎる光は取り除いて置かなければならない」

 カエラムが手の先から鋭い爪を出す。小さな爪だが相手は魔王だ。攻撃されれば一溜まりもないことはわかる。

「っ、よくわからないけどっ、俺は推しの幸せを拝むまでは立ち止まっていられないだ!」

 手のひらに光の魔力を込める。縛られているせいかコントロールがうまく行かない。それでもノエルは必死に魔力を発動させようと試みた。

 ──ようやく笑ってくれるようになったんだ。その笑顔がまた見れなくなるなんて想像したくない。

 強い思いが魔力になり手のひらへ集まる感覚がした。
 カエラムとネイトの関係も、魔王のことも、この世界のことだってノエルにはすべてを理解することはできない。けれど、ネイトを魔王孤独への道へ引きずり込もうとするカエラムを阻止しなければいけないということはわかる。そしてそれをこの瞬間実行することが出来るのは光の魔力を持つノエルだけだ。

「なっ!この忌々しい力はっ!」
「魔王なんて関係ない!ネイトにひどいことをしようとするなら、俺が絶対阻止してやる!」

 カエラムに向かって光の魔力を放つ。ノエルの上からカエラムが慌てた様子で飛び退いた。その瞬間、全身を縛り付けていた魔術が解けた。
 勢いよく体を起こしたノエルのことを足元にいるカエラムが睨みつけてくる。

「精神力だけで拘束を解いて魔術を使うとは想像もしていなかったぞ。どうやらあれのことを相当大切にしているらしい。だがお前が大切にする男は魔王の血を引く怪物だ」
「さっきからあれあれって……。ネイトを物みたいに言うのはやめて!それにもしもネイトが魔王になりかけても俺が必ず止めてみせる」
「ふんっ。話しているだけで腹が立ってくるわ。光を持つ者と話しても分かり合えぬ。次は油断せず確実に息の根を止めてやろう」

 カエラムがやま再び爪をノエルへと向けてきた。二人の間に緊張が走る。
 心臓が嫌な音を立てていた。目の前にいる小さな黒猫がやけに大きな存在として視界に映る。ノエルは恐怖心で微かに体を震わしながらも、ネイトのことを思い浮かべてシーツを握りしめた。怖くても負けられない。

「新たな魔王の誕生の糧となれ!」

 カエラムが飛びかかってきた。ノエルは顔を守るように両腕を前に出してガードする。そのとき、突然カエラムの体が宙で動きを止めた。そのままベッドへと落下したカエラムを驚きの表情で見つめる。

「ノエル!」

 そのすぐ後、ネイトが寝室へと飛び込んできた。慌ててきてくれたことがわかり嬉しさと申し訳無さを感じた。

「ネイトっ、その黒猫が……」

 魔王だと言おうとして口をつぐんでしまう。魔王だと伝えたら自然とネイトの出生の話になってしまう。魔族の子として迫害されてきたネイトは充分苦しんできたというのに、魔王が親だと知ったら──。

「ノエルどうした?……おい、ノエルになにをした?返答次第ではただではおかない」

 ベッドに縫い付けられたように動けなくなっているカエラムをネイトが睨む。ネイトも縛り付ける魔術を使っているのだろう。

「ふん。まだなにもしておらぬ」
「つまりこれから危害を加えようとしていたということだな」

 ネイトが魔術を強めると、カエラムが苦しそうに呻く。その姿が痛々しく見えて、ノエルは思わずネイトに「平気だからやめてあげて!」と伝えた。

「危害をくわえられたというのに庇うのか?」
「少し動けなくさせられただけだから。それに俺も力を使って抵抗したから怪我もしていないよ」
「ノエルの言葉だとしても拘束を解くことはできない。だが少しは緩めてやろう。おい黒猫、お前はなんだ?」

 ネイトが指先を動かすと、カエラムが微かに顔を上げた。挑発するような笑みを浮かべているけれど、余裕があるようには見えない。

「っ、力が弱まったとはいえ、こうも簡単に拘束されてしまうとは……。魔王という肩書はすでに意味をなさぬな。次期魔王よ、我はお前の父親だ」

 カエラムの言葉を聞いたノエルは、慌てた様子でネイトへと視線を向けた。けれど当の本人は眉一つ動かす気配がない。ノエルは心配で心臓や胃が痛むというのに。

「お前は猫だろう。それに私に親と呼べる存在はいない。もちろん猫の父親もいない」
「猫、猫、猫と!我は魔王だぞ!」
「どう見ても猫だ」
「事情があってこの姿をしているだけだ!父親を敬わぬか!」
「調子に乗るな。お前が生かされているのはノエルがお前をかばったからにすぎない」

 冷たい声に情など一切感じられない。ノエルが知っているネイトは温かくて優しい。けれどそれはネイトが自身の心の内側に踏み込ませてもいいと思ってくれたからだ。
 だから本来他人に接するときの彼は絶対零度のようなのだろう。
 胸元をぎゅっと手で押さえながら様子をうかがう。

「ネイト・フローレス。お前はすでに魔王として覚醒しているはずだ。だがお前の中の憎悪や憎しみにストッパーをかけている存在がいる。それがその小童(こわっぱ)だ。だから我が直接そのストッパーを取り除いてやろうとしているというのだ」
「黙れ。ノエルに指先一つでも触れた瞬間命はないと思え」
「どうやら絶望を忘れたようだな。我は知っているぞ。愛する者を助けるためにお前は独りで魔物の群れを食い止めた。周りはお前を置いて逃げたがお前は逃げなかった。だがそこまでしても愛する者の心は手に入らず、残ったのは望まぬ婚姻と口先だけの賞賛だ。憎かろう。許せぬだろう。お前は毎夜孤独の苦しみに耐え、他の者等は温もりの中で眠りにつく。そのような仕打ちを許せるはずもない。世界は醜い!周りはお前からも私からも愛する者を奪っていく。同じ苦しみを味あわせてやりたいとは思わぬか?」

 カエラムの言葉には周囲への止めどない憎悪が感じられた。ノエルは魔王カエラムについての設定集を思い出して胸を痛めた。
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