モブに転生した俺。推しキャラのハピエンを拝むまで夜も眠れない

天宮叶

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推しは俺が治してあげるから

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彼のキャラ紹介をたった一文。

『愛する女性を殺され復讐者として魔王に変貌を遂げた』

 カエラムがネイトの父親だとするなら、カエラムの愛する人はネイトの母親であるイザベラ・フローレスに間違いない。
 イザベラは不幸な死を遂げた美しい伯爵令嬢として社交界で有名だ。幾人もの高位貴族から婚約話を持ちかけられていたイザベラだったが、頑なにそれを受け入れることはなかった。そんななか妻をなくした初老の男爵がイザベラを娶りたいと尋ねてきたらしい。身分の差もあり断りを入れたイザベラだったが、その美貌に囚われた男爵はイザベラが他の者の元に嫁ぐことを許せず暗殺してしまう。
 その後、ネイトの祖父である当時の伯爵がイザベラの遺品整理の際に書類を見つけ、孤児院に預けているネイトの存在を知った。
 イザベラが婚約を断っていた理由がカエラムと恋仲だったからだとするなら、カエラムが人間を恨むのも無理はないのかもしれない。

「たしかに世界を憎む瞬間もあったのかもしれない。だがそんな私に寄り添い孤独から救ってくれた者がいる。だから私は彼の暮らす世界を守ると決めている」
「この世界は醜い!お前もいつか人の憎悪に触れる日がくる。その時にも同じことをいえるかみものだな!」

 高笑いをするカエラムはどこか狂ってしまっているようにも感じられた。世界を滅ぼすために全力を尽くし、猫になってまで魔王に固執する姿は哀れでもある。

「ネイト、カエラムをどうするの?」
「殺すことができないのであれば従属させて側で監視する他にないだろう」
「なっ!魔王である我を従属させるだと!?」

 暴れて抵抗しようとするカエラムにネイトが一歩近づく。

「大人しくしておくことだ。何度もいうが、殺さないのはノエルがそれを望まないからだということを肝に銘じておけ。つまりお前の命はノエルが握っている」
「ぐぬぅ……」

 カエラムの額へと手をかざしたネイトが呪文を唱える。淡い光がカエラムを包むと、カエラムの首に青色の首輪が出現した。首輪の真ん中には錠前がつけられている。

「飼い猫には似合いの姿だな」
「貴様、父にこのようなことをしていいと思ってっ、んぐっ!」
「父ではない。二度とその言葉に口にするな」

 カエラムの頭を鷲掴みにしたネイトが威圧するように目を細めた。カエラムは抵抗して暴れている。

「ネ、ネイトっ、そのへんでやめてあげて」

 腕に手を添えて止めさせると、ネイトがカエラムから手を離してくれた。ほっと安堵の息を吐き出す。色々と複雑な状況になったものの、転生の事情を知っているカエラムを従属させられたことは今後役に立つ気がする。
 ノエルは心配で落ち着かなかった気持ちが安定していくのを感じた。ずっとハラハラしっぱなしで少し疲れた気もする。

「我を従属させたとて魔王化を阻止できたとは思わぬことだ。神がノエルを転生させるとき我も共にこの世界に戻ってきたが、同時に輪廻転生に歪みも生じた。紛い物が共にこの世界に降り立ったようだからな」
「紛い物?」

 耳を後ろ足で掻きながら喋っているカエラムへ視線を向ける。
 消えかけていた不安が再発してしまった。

「転生するはずではなかった存在が紛れ込んでいる。誰が転生者なのかはわからぬがな」
「俺以外にも転生者がいるってこと?それって……」

 街で出会ったファリスのことを思い浮かべた。セイントナイトについて知っている様子だった。

(ファリスが転生者?)

 たしかに考えてみれば主人公だからといってゲームのことを知っているはずはない。つまりファリスも現代日本から転生してきた人ってことだ。だとするならあの日出会ったのは本当に偶然なのだろうか?
 ますます不安の種が増えてしまった。唇と拳を握りしめる。ネイトの魔王化は少しずつ進んでいる。ノエルの力では解決できていないのが現状だ。

「ネイト、俺……」
「大丈夫だ。どれだけ周りが私を魔王に変えようとしてもノエルが味方でいてくれる限り私が魔王に変化することはない」
「……うん。そうだよね。うん!俺はずっとネイトの味方だよ」

 無理矢理笑顔を浮かべると、ネイトが頭を撫でてくれる。安心させるような手つきに、心が少しだけ軽くなった気がした。

「心底甘いやつらよ」
「うるさいぞ。もうお前に用はない」
「わかったわかった。我は消えるとしよう。だが諦めたわけではないからな」
「はやく出ていけ」

 有無を言わせないネイトの態度にカエラムがため息を吐き出した。それから不機嫌そうに尻尾を大きく振りながら開いている窓から出ていく。
 それを確認した途端体から力が抜けて安堵の息が漏れた。
 ベッドサイドへ腰掛けたネイトが抱きしめてくれる。彼の温もりを感じながら、自分のの不甲斐なさやネイトの背負うものの大きさについて考えてしまう。

「震えている」
「っ、思ったより怖かったのかも」

 カエラムに殺されかけたことはもちろん怖かった。けれどもっと恐ろしいのはネイトが自分の知らない誰かになってしまうことだ。
 不器用で以外にも甘えたがりな彼が、憎しみに支配されて世界を滅ぼしてしまう姿なんて見たくない。ノエルはネイトが守ろうとしてきたものや守ってきたものを知っている。

「俺さ……ネイトのことすっごく大好きなんだ」
「あぁ、知っている」
「うん。ずっとずっと知っていてほしい。どんな瞬間が来たって俺はネイトの味方だし、ネイトのことを諦めたりなんかしない」
「私が魔王になってもか?」
「当たり前だよ。たとえそうなったとしても、絶対俺が治してあげるから」

 約束だというように指を差し出すと、ネイトが小指を絡めてくれた。ふふっと声を漏らして微笑み合う。
 顔を突き合わせてお互いの存在を確かめ合った。
 いつだって隣に並び手を取って進んでいく。

「今度カエラムが来たら爪を切ってあげないとね」
「好きにすればいい」

 思い切りネイトに抱きつくと「うん。そうするよ」と返事をした。
 そんなノエルのことをネイトも抱きしめ返してくれた。

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