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推しのことを思ってるんだよね?
しおりを挟む◇◇◇
花祭りも無事に終わり、目下残された問題は魔族が伯爵領に現れたという事実だった。
「ふんっ!我を置いて祭りに行くとは!」
薔薇園のガゼボでお茶を楽しんでいるとカエラムが姿を表した。開口一番にそう言われて困ってしまう。
彼のことを忘れていたわけではない。けれど神出鬼没すぎて掴みどころもなく、探すのも大変なため連れていけなかった。
(それにネイトとは馬が合わなそうだし)
テーブルの上に乗ってきたカエラムを膝に乗せると顎を撫でてやる。
「こんなことで我は誤魔化されぬぞ!っ、ムム……なかなか良いではないか。おぉ
そこだ。これはなかなか……」
顎を撫でられるのが気持ちいいのか、ゴロゴロと喉を鳴らし始めたカエラムのことを温かい眼差しで見下ろす。魔王の面影などまったく感じさせないため油断してしまう。
「ねぇ、カエラムが魔王だったころに三人くらい従者がいたでしょう。彼らはどうなったの?」
セイントナイト1で戦うことになる三人の中ボス。それが魔王を守る従者だ。分岐によって戦う敵が異なり、フェイブルルートでは従者の中でも特に強いといわれていたアダマンタイトという従者と戦うことになる。
「知っての通り、精鋭であったアダマンタイトは忌々しい聖女と王子によって葬られた。アレキサンドラも騎士団に敗れ、アズラも魔術協会と争い消息不明だ」
アズラは最も謎の深いキャラとして描かれた従者だ。常に顔を隠していて、ゲーム内でも素顔が出てこない。魔術に長けているため、魔術協会長であるアギィルートと、宰相候補のフィルルートで戦うことになる。
ビジュアルと素顔を隠す謎の多さが人気で隠れファンが多かったキャラだ。攻略もそれなりに大変だったことを覚えている。倒すためのヒントをネイトがくれるから定期的に会いに行っていた。
「アズラって褐色で黒髪だったりするのかな?」
「よく知っているな。我もあの者の素顔は一度しか見たことがない。魔族は我の血肉によって産まれた存在。元々数は少なかったが交配によって増えた。アズラも魔術に長けた魔族の間に産まれた子だ。親が人間に殺されたため我が面倒を見ていた」
「カエラムのこと探してないのかな?」
「わからぬな」
そっぽを向いたカエラムの背を撫でる。
「花祭りに魔族が現れたんだ。転生者の話をしてくれたでしょう。ファリスっていう子が転生者で、アズラはその子と一緒にいた。ネイトを魔王にすることが目的みたい。そのために俺が邪魔なんだって。カエラムと同じことを言ってたよ」
「魔王は魔族にとって崇高な存在だ。復活を目論むのは当然のこと」
「カエラムはまだ俺のことを狙ってるの?」
「ふん。手にかけたくとも従属契約のせいで無理だ。それに撫でる者がいなくなるのは困るからな」
「あはは、そうだね。ねぇ、カエラム。俺に力を貸してくれないかな。俺はネイトを守りたい。そのためにはカエラムの力が必要なんだ」
立ち上がったカエラムが真っ直ぐにノエルの瞳を見返してくる。
「我に魔族と対立しろと?」
「カエラムが魔王復活を願っていることは知っているよ。でもそんなことをしてもイザベラさんは帰ってこない」
それによく考えてみたらカエラムの転生にはおかしな点がある。
「ようやく、君の元に帰ることができる」
魔王カエラムの名台詞をつぶやくとカエラムが一瞬耳を揺らしたのがわかった。
「本当はイザベラさんの元に行きたかったはずなのに、どうして力を使って転生したの?やりたいことがあったからじゃない?従属契約のときあまり抵抗しなかったのはどうして?」
カエラムは魔王復活を望んでいるというけれど、ノエルを殺す機会ならいくらでもあった。それでもただの猫として度々姿を表していたのは……
「ネイトがイザベラさんの忘れ形見だから心配してるんじゃないの?」
「黙れ」
毛を逆立てたカエラムが睨みつけてくる。ノエルに向かって魔力を飛ばそうとするけれど、従属契約によって弾かれてしまった。首輪がしまり苦しそうに顔を歪めている。
「お前になにがわかる!愛する者を失う苦しみを味わうくらいなら世界など消えてしまえばいい!」
「その苦しみをネイトにも味合わせるつもりなの!?そんなの矛盾してるよ」
言い返すと、カエラムが膝から飛び降りた。
ノエルへ背を向けて地面に座ると、小さくため息を吐き出す。
「……我はイザベラが死ぬまでアレの存在すら知らなかった。今更父親になる資格などない。それに我の私怨にあれを巻き込むのも間違っているとわかっている。それでもこの恨みは消えないのだ」
「……恨みは消えないかもしれない。けれどいまからだって父親になることはできるはずだよ。カエラムお願い。俺達に力を貸して」
立ち上がったノエルはカエラムに向かっては頭を下げた。
イザベラのことはカエラムにとって地雷だ。けれどその愛はきっとネイトを救うことに繋がる。
愛した人の息子を見捨てることなんてできないはずだから。
こんなやり方はずるいのかもしれない。それでもカエラムの良心に一縷の望みをかけてみたかった。
「……わかった。どうせ我はお前を殺すことも叶わぬ。それなら息子の行く末を側で見守ることに徹する方がよい」
振り返ったカエラムの背にコウモリのようや羽が生えた。ノエルの肩に飛び乗り、頬に小さな手をあててくる。肉球のひんやりとした柔らかな感覚が伝わってきた。
「我にイザベラの話をするとは度胸があるな」
「すごく怖かったよ」
笑みを返すと、カエラムがペシペシと頬を叩いてきた。このくらいなら従属契約は発動しないらしい。
「アズラの件は任せておけ。できる限りの支援はしてやる」
「ありがとう」
小さな猫の手を指先で掴む。そうすると手先がきゅっと丸められた。二人なりの硬い握手を交わした。
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