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推しと痴話喧嘩しました
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椅子に座り直し、膝の上で丸くなって眠り始めたカエラムを撫でながら今後のことを考えていた。カエラムの協力を得ることもできた。他に魔族に対抗できる人物もいえばあの二人が浮かぶ。
けれどエアリスとフェイブルに協力を仰ぐことは難しい。
「ノエル話がある」
頭を悩ませているとネイトが来て声をかけてきた。
「俺もちょうど話をしたかったんだ」
膝で眠っているカエラムを一瞥したネイトが対面の椅子に腰掛けた。
紅茶を入れてあげると、顔をほころばせながら口をつけてくれる。それが嬉しくて胸がときめいた。
「先にノエルの話を聞かせてくれ」
「えっとね、カエラムが俺達の手助けをしてくれるって約束してくれたんだ」
「……裏切られたらどうする?」
「従属契約があるからそんなことできないよ。それに魔族と渡り合うならカエラムの協力がある方がいいと思うんだ。俺達は戦争をしたいわけではないけれど、ネイトの魔王化を企てている魔族達とはいつか対立することになると思うから」
「……そうだな。ノエルがそう決めたのなら私はノエルを信じる。だがその猫がなにか悪さをしたらそのときには……」
「うん!ありがとうネイト」
カップを置いたネイトが微かに息を吐き出した。ネイトもカエラムに思うところはあるはずだ。それでもノエルの気持ちを尊重してくれる優しいところに惹かれている。
「次はネイトの話を聞かせて」
一瞬戸惑うように視線をそらしたネイトは、意を決したようにノエルへと視線を向けた。それだけの仕草で緊張が伝わってくる。
「エアリスとフェイブルに魔王化のことを伝える必要があると考えている」
「っ、まってよ!そんなことしたらネイトは……」
エアリスは聖女だ。魔王を倒し世界を平穏に導くことが使命であり、世界中の人々がエアリスの正義を信じている。フェイブルも大国の王太子であり聖女の伴侶。
そんな二人にネイトが次期魔王だと伝えたら、友情が壊れるだけでは済まない。エアリスとフェイブルはネイトと敵対しなければならなくなる。
「ノエルの言いたいことはわかる。だが魔族を野放しにはできない。危険因子は私を含めて排除しなければならない」
「そんなおかしいよ!それに俺言ったよね!俺はネイトを幸せにしたい!俺と一緒にこの先もずっと笑顔で過ごしていきたいって!愛してるって……」
「ノエルの気持ちはよくわかっている。だから私も覚悟を決めなければならない。いつか知られてしまうのならば、二人には自ら伝えたいんだ」
胸の中を葛藤が渦巻いている。
エアリス達はネイトの正体を知ったらどうするのだろうか?
ネイトの魔王化はノエルの光の魔力によって抑えられている。けれど些細なきっかけで魔王化の進行が進む危険性はあるため、きっとエアリスはネイトのことを……。
「ネイトはそうするって決めたの?」
「そうだ。それにエアリスならこの呪いの解き方も知っているかもしれない」
「……俺に相談する前に決めちゃってたんだね……」
ネイトはそういう人だ。
いつだって自分を犠牲にする道を選ぶ。けれど今回ばかりは彼の選択を否定することもできない。
「俺は怖いよ。だってネイトはエアリス達のことを大好きでしょう?もし敵対してしまったら傷つくのはネイトだ。俺だってエアリス達と敵対なんてしたくない」
「フッ、ノエルは私の味方をすると決めているんだな」
「っ、当然だよ!だって俺とネイトは夫夫で、ネイトは俺の推しで、俺は、俺は……」
どんなことがあっても──ネイトが世界中の人々の敵になったとしても絶対に自分だけは彼の味方だから。
「ノエル、怒らないでほしい」
そっと手に触れられて、ノエルは勢い良く立ち上がった。
「怒るよ!だってこんな大事なこと俺抜きで決めちゃってさ!」
「すまない」
ネイトの困ったような表情を見ていると胸が苦しくてたまらなくなる。
それでも同意できないのはエアリスとフェイブルがカエラムを窮地に追いやった実績を持つほどに強い力を有しているからだ。
ネイトとぶつかれば無事では済まない。
セイトナイトはBL恋愛シミュレーションRPGだ。育成やRPG要素にも突出していて、難易度も上級者向きで有名だ。
魔王もその分レベルが高くて、主人公のレベリングがすごく大変だった記憶もある。
ゲームの設定が脳内にいくつも流れてくる。思い出すたびに、ネイトが傷つく姿も鮮明に浮かんできてしまう。
「怖いんだよ……」
この言葉を伝えるのは何度目だろう。
ネイトが傷つく姿を見たくない。花祭りの日は本当に幸せで穏やかだった。
「魔王化を解く方法が見つからないいま、エアリス達に頼るほかに道はないと思っている。友を失おうとも、私はノエルと過ごす幸せな未来を手に入れるためならどんなことも耐えていける。ノエル、私を信じてくれるか?」
ノエルはぐっと唇を噛み、手を握りしめた。自分の全身が小刻みに揺れているのがわかる。
ネイトを失うかもしれない。
ノエルにとってそれはなによりも耐え難いことだ。
「っ、ごめん……少しだけ考える時間がほしい……」
「そうだな。なにもすぐに決める必要はない。数日ゆっくり考えてみてほしい」
「うん……」
すぐに決断できない自分自身の不甲斐なさに悔しさを覚えた。ネイトは信じると言ってくれたのに、ノエルは彼のことを信じると伝えてあげられない事実がつらい。
「そんな顔をするな。気持ちは伝わっている」
「っ、ごめん……」
ポロポロと涙が流れる。
怖いものなんてなかった。けれどネイトと過ごす日々に幸せを感じるほどに、その日々を失うことが怖くなっていった。
愛する人と過ごすことは幸せなことばかりではない。苦しみや悲しみや恐怖もすべてひっくるめて、愛するということなのだと今更になって思い知らされた。
膝で眠っていたカエラムが顔を上げて大欠伸をする。
それからノエルの泣き顔とネイトの苦しそうな表情を交互に確認してからため息を吐き出した。
「痴話喧嘩など聞くに耐えぬな。我は別の場所で眠るとしよう」
膝から飛び降りて去っていくカエラムはどこまでもマイペースだ。その雰囲気にのまれて涙もひっこんだ。
「……はぁ、あの馬鹿猫め」
「あはは。俺達も部屋に戻ろう」
「私は仕事に戻る。ノエルは部屋でゆっくりしていろ」
「うん。そうさせてもらう」
二人で並んでガゼボを後にする。
「少し腫れている」
「平気だよ」
ネイトの細くて綺麗な指先が下まぶたをなでてきた。
その指先はほんの少し冷たい。
(きっとネイトも話すのに勇気を出してくれたんだ)
それがわかってしまうから、ノエルはますます決断することが難しいことのように感じた。
けれどエアリスとフェイブルに協力を仰ぐことは難しい。
「ノエル話がある」
頭を悩ませているとネイトが来て声をかけてきた。
「俺もちょうど話をしたかったんだ」
膝で眠っているカエラムを一瞥したネイトが対面の椅子に腰掛けた。
紅茶を入れてあげると、顔をほころばせながら口をつけてくれる。それが嬉しくて胸がときめいた。
「先にノエルの話を聞かせてくれ」
「えっとね、カエラムが俺達の手助けをしてくれるって約束してくれたんだ」
「……裏切られたらどうする?」
「従属契約があるからそんなことできないよ。それに魔族と渡り合うならカエラムの協力がある方がいいと思うんだ。俺達は戦争をしたいわけではないけれど、ネイトの魔王化を企てている魔族達とはいつか対立することになると思うから」
「……そうだな。ノエルがそう決めたのなら私はノエルを信じる。だがその猫がなにか悪さをしたらそのときには……」
「うん!ありがとうネイト」
カップを置いたネイトが微かに息を吐き出した。ネイトもカエラムに思うところはあるはずだ。それでもノエルの気持ちを尊重してくれる優しいところに惹かれている。
「次はネイトの話を聞かせて」
一瞬戸惑うように視線をそらしたネイトは、意を決したようにノエルへと視線を向けた。それだけの仕草で緊張が伝わってくる。
「エアリスとフェイブルに魔王化のことを伝える必要があると考えている」
「っ、まってよ!そんなことしたらネイトは……」
エアリスは聖女だ。魔王を倒し世界を平穏に導くことが使命であり、世界中の人々がエアリスの正義を信じている。フェイブルも大国の王太子であり聖女の伴侶。
そんな二人にネイトが次期魔王だと伝えたら、友情が壊れるだけでは済まない。エアリスとフェイブルはネイトと敵対しなければならなくなる。
「ノエルの言いたいことはわかる。だが魔族を野放しにはできない。危険因子は私を含めて排除しなければならない」
「そんなおかしいよ!それに俺言ったよね!俺はネイトを幸せにしたい!俺と一緒にこの先もずっと笑顔で過ごしていきたいって!愛してるって……」
「ノエルの気持ちはよくわかっている。だから私も覚悟を決めなければならない。いつか知られてしまうのならば、二人には自ら伝えたいんだ」
胸の中を葛藤が渦巻いている。
エアリス達はネイトの正体を知ったらどうするのだろうか?
ネイトの魔王化はノエルの光の魔力によって抑えられている。けれど些細なきっかけで魔王化の進行が進む危険性はあるため、きっとエアリスはネイトのことを……。
「ネイトはそうするって決めたの?」
「そうだ。それにエアリスならこの呪いの解き方も知っているかもしれない」
「……俺に相談する前に決めちゃってたんだね……」
ネイトはそういう人だ。
いつだって自分を犠牲にする道を選ぶ。けれど今回ばかりは彼の選択を否定することもできない。
「俺は怖いよ。だってネイトはエアリス達のことを大好きでしょう?もし敵対してしまったら傷つくのはネイトだ。俺だってエアリス達と敵対なんてしたくない」
「フッ、ノエルは私の味方をすると決めているんだな」
「っ、当然だよ!だって俺とネイトは夫夫で、ネイトは俺の推しで、俺は、俺は……」
どんなことがあっても──ネイトが世界中の人々の敵になったとしても絶対に自分だけは彼の味方だから。
「ノエル、怒らないでほしい」
そっと手に触れられて、ノエルは勢い良く立ち上がった。
「怒るよ!だってこんな大事なこと俺抜きで決めちゃってさ!」
「すまない」
ネイトの困ったような表情を見ていると胸が苦しくてたまらなくなる。
それでも同意できないのはエアリスとフェイブルがカエラムを窮地に追いやった実績を持つほどに強い力を有しているからだ。
ネイトとぶつかれば無事では済まない。
セイトナイトはBL恋愛シミュレーションRPGだ。育成やRPG要素にも突出していて、難易度も上級者向きで有名だ。
魔王もその分レベルが高くて、主人公のレベリングがすごく大変だった記憶もある。
ゲームの設定が脳内にいくつも流れてくる。思い出すたびに、ネイトが傷つく姿も鮮明に浮かんできてしまう。
「怖いんだよ……」
この言葉を伝えるのは何度目だろう。
ネイトが傷つく姿を見たくない。花祭りの日は本当に幸せで穏やかだった。
「魔王化を解く方法が見つからないいま、エアリス達に頼るほかに道はないと思っている。友を失おうとも、私はノエルと過ごす幸せな未来を手に入れるためならどんなことも耐えていける。ノエル、私を信じてくれるか?」
ノエルはぐっと唇を噛み、手を握りしめた。自分の全身が小刻みに揺れているのがわかる。
ネイトを失うかもしれない。
ノエルにとってそれはなによりも耐え難いことだ。
「っ、ごめん……少しだけ考える時間がほしい……」
「そうだな。なにもすぐに決める必要はない。数日ゆっくり考えてみてほしい」
「うん……」
すぐに決断できない自分自身の不甲斐なさに悔しさを覚えた。ネイトは信じると言ってくれたのに、ノエルは彼のことを信じると伝えてあげられない事実がつらい。
「そんな顔をするな。気持ちは伝わっている」
「っ、ごめん……」
ポロポロと涙が流れる。
怖いものなんてなかった。けれどネイトと過ごす日々に幸せを感じるほどに、その日々を失うことが怖くなっていった。
愛する人と過ごすことは幸せなことばかりではない。苦しみや悲しみや恐怖もすべてひっくるめて、愛するということなのだと今更になって思い知らされた。
膝で眠っていたカエラムが顔を上げて大欠伸をする。
それからノエルの泣き顔とネイトの苦しそうな表情を交互に確認してからため息を吐き出した。
「痴話喧嘩など聞くに耐えぬな。我は別の場所で眠るとしよう」
膝から飛び降りて去っていくカエラムはどこまでもマイペースだ。その雰囲気にのまれて涙もひっこんだ。
「……はぁ、あの馬鹿猫め」
「あはは。俺達も部屋に戻ろう」
「私は仕事に戻る。ノエルは部屋でゆっくりしていろ」
「うん。そうさせてもらう」
二人で並んでガゼボを後にする。
「少し腫れている」
「平気だよ」
ネイトの細くて綺麗な指先が下まぶたをなでてきた。
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(きっとネイトも話すのに勇気を出してくれたんだ)
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