モブに転生した俺。推しキャラのハピエンを拝むまで夜も眠れない

天宮叶

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推しはすごく一途な人だ

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「ノエルありがとう。僕の親友の心を救ってくれた」
「エアリス……」
「今度は僕が二人のために一肌脱ぐ番だね」

 決意を表明するように力強い笑みを向けてくれたエアリスの姿にたくましさを感じた。

(やっぱりエアリスは俺の大好きな主人公そのものだ)

 ノエルはエアリスのことを見つめながら目尻があたくなる感覚を覚えた。感動や安堵の入り交じる気持ちが溢れてきて止まらない。
 ピンチのときにはいつだって駆けつけて守ってくれるお助けキャラだったネイトのことを、今度はエアリスが助けてくれる。それはきっとゲームではなく現実世界だからこそ生まれた人間同士の絆の賜物だ。

「……ありがとうエアリス」

 心底安堵したのが感じられる声音だった。ネイトの言葉にその場にいる全員が笑みを浮かべた。

「俺もずっとネイトの親友だってことわすれないでくれよ」
「あぁ、フェイブル。私もそう思っている」
「なんだかネイトが素直だと調子が狂っちゃうな」

 場を和ませるようなフェイブルの態度に笑みがこぼれた。
 ノエルの大好きなセイトナイトの登場人物達は、現実のこの世界でもやっぱり素敵で大好きだと思える。
 自分自身がその輪の中に入れることが夢のようだ。

「さて、気持ちも繋がったことだし作戦会議をしようか」
「そうだね」
「あぁ、そうしよう」
「うん!」

 エアリスの合図でそれぞれが頷く。

「伯爵領で魔族が騒ぎを起こしたとするなら、またなにかアクションを起こしてくることも考えられるよね。だとしたらそれまでにネイトの魔王化を解く方法を見つけておく必要があると思うんだ」
「心当たりがあるの?」

 エアリスに尋ねると、少し悩んだあと「もしかしたら……」とつぶやいた。つい期待するような眼差しを向けてしまう。

「世界には希少な魔力の使い手が存在することは知っているよね。その中でも光の魔力を扱う聖女と、治癒魔術を扱う治癒士は特別な存在なんだ。数百年にたった一人ずつしかその魔力を扱う人間は現れない。まぁ、僕とノエルは例外だけどね」
「……治癒士」

光の魔力は魔を祓い、治癒の魔力は万物を癒やす。
奇跡のような魔術だ。

「もしもその治癒士が見つかったらネイトの魔王化を止めることができるの?」
「魔王化はいわば呪いだからね。治癒士が本当に存在するのならその呪いを解くことは可能だと思う。けれど僕も本で読んだ知識しかないんだ。現代に治癒士が存在するという噂も聞いたことがない」

 エアリスの言葉を聞き終えると、ノエルは肩を落とした。期待のし過ぎはだめだとわかっていても期待してしまう。
 魔族の狙いが魔王の復活なら、ネイトの魔王化を止めればいい。そうすれば自然と魔族の行動も鎮火していくはずだ。ネイトだって心穏やかに過ごすことができる。

「治癒士の件は僕達も探してみるよ」
「うん。よろしくね」

 エアリスとフェイブルなら情報を探るのもの容易いはずだ。
 ずっと黙っているネイトへ視線を向けると、難しい表情をしていて不安になった。
 それもそのはずだ。結局治癒士を頼ることもできないいのだから。

「私のことも大事だがノエルのことを守ってやってほしい。相手はノエルも狙ってくるかもしれない。魔王化は感情と連動している。もしもノエルに危害が及んだら私は感情を抑えることが難しい」
「たしかにノエルのことも心配だ。ノエルは光の魔力を持っているけど戦えるわけじゃないだろう?」

 フェイブルのいうとおり、ノエルには戦える能力はない。護身術なんて学んだことはないし、精々勢い良く光の魔力を魔族に発射するくらいしかできないだろう。

「俺の側にはカエラムもいるから多少は平気だよ」
「そういえば猫もいたな」

 ネイトがつぶやいた瞬間、ノエルの肩にカエラムが現れた。普段は魔術を使って姿を隠しているのだろう。

「っ、この魔力は魔王の!?」

 エアリスが勢い良く立ち上がった。
 衝撃で卓の上の紅茶が揺れる。

「聖女よ久しいな」
「どうして魔王がノエルと一緒にいるの!?」

 取り乱したエアリスが光の魔力を放とうと構えた。フェイブルも警戒態勢に入った。

「落ち着いて!カエラムはもう力をほとんど失くしているし、従属契約をしているから人に害を及ぼすこともないんだ!」

 立ち上がってかばうように両手を広げた。戸惑いの表情を浮かべたエアリスが、大粒の瞳を揺らしながらネイトへ真偽を確かるように視線を向ける。

「ノエルの言葉は本当だ。私が直接従属契約を施した。いまややつはただの猫だ」
「ただの猫というでない!」

 カエラムが騒いでいるけれど、ネイトは無視して「だから大丈夫だ」とエアリスへ声かけた。
 その優しい声音がエアリスの心を落ち着かせたようだ。体から力を抜くように椅子に腰掛けた。

「ネイト説明してくれ」

 フェイブルがエアリスの背をさすりながらネイトを見た。
 問題の中心人物であるカエラムは素知らぬ顔で、ノエルの肩に乗っている。

「数週間前、伯爵家の屋敷に乗り込んできた魔王をねじ伏せた。魔王復活を企みノエルに危害を加えようとしていたため従属契約によって無力化した」
「俺からも説明させてほしいんだ」

 ノエルが口を開くと、フェイブルが頷いてくれる。

「カエラムと話をして、彼は俺達に力を貸してくれると約束してくれた。従属契約は俺が主人になっているし、裏切られることはないって保証できる」

 それからこれまで起こったことや、カエラムと話した内容を伝えた。カエラムのネイトに対しての思いはあえてノエルの口からは伝えなかった。
 それはカエラムとネイトの問題だから。

「……そっか。うん、わかった。複雑な気持ちだけど、手を貸してくれるというのなら信じるよ」
「ありがとうっ……」

 エアリスとフェイブルが眉を寄せながら複雑な表情を浮かべているのを見つめながら、ノエルは周りの理解や優しさに感謝した。
 不安なことはつきない。それでも心強い仲間がいる。それがノエルの心を強固に支えてくれていた。

「俺はネイトの魔王化をなんとしても止めたい。それにはカエラムの力が必要だと思うんだ」

「たしかに魔族の内情を知っているぶん相手の動きを抑止することも容易になるかもしれない。けれど相手がなにをしてくるかわからないから、しばらくは警戒をしておくに越したことはないね。二人さえよければしばらくここに滞在するのはどうかな?」
 フェイブルの提案に戸惑う。
 正直、セイントナイトファンとしてはとても止まってみたい。けれど二人のプライベートにお邪魔させてもらってもいいのだろうか?

「そうさせてもらおう。一度屋敷に帰り、数日後邪魔させてもらう」
「うん。そうして」

 ネイトの提案にエアリが頷く。三人だけで進んで行く話を、ノエルはおろおろしながら聞くことしかできない。
 緊張感がないと思われようと、ノエルのファン心が疼いてしまう。いまにも叫び出しそうだった。
 ──俺得すぎませんかーー!?
 内心で黄色い叫びを上げていると、ネイトに優しく肩を叩かれて意識を引き戻した。

「大丈夫か?」
「へっ、う、うん!」

 あぶないあぶない。
 悪い癖が出てくるところだったと気を引き締める。
 真剣に考えてくれた結果の提案なのだとわかっているためふざけてなどいられない。
 それにエアリスとフェイブルが側にいてくれるのであればとても安心できる。エアリスもネイトの魔王化を抑えられため、ノエルが常に側にいられないときにも心配せずに過ごせるし、フェイブルも王太子のため情報通だ。治癒の魔力の使い手も見つかるかもしれない。

「二人とも本当にありがとう。俺もネイトのためにできることは調べようと思う」
「皆で力を合わせればきっと大丈夫だよ」

 エアリスが微笑みを浮かべてくれた。主人公の心強さは半端ない。笑みを見せてもらえるだけで力が湧いてくる気がした。
 その後は近況や他愛ない話に花を咲かせながら時間を過ごした。ネイトとノエルが帰る頃には日が沈みかけ始めていて慌てて馬車に乗り込んだ。
 馬車に乗り込んだ瞬間、緊張や不安の糸が解けて脱力してしまった。それはネイトも同じようで、ノエルの隣に腰掛けると肩に頭を乗せて心に燻っていたものを吐き出すようにため息をこぼしていた。
 カエラムだけが相変わらず呑気そうにノエルの膝の上で大欠伸をしている。

「疲れちゃったね」
「そうだな……──なぁ、ノエル」
「なーに?」
「……私は友に恵まれている。それにノエルが隣りに居てくれたから堂々としていられた。ありがとう」

 ポツポツと気持ちを伝えてくれるネイトは少し弱々しいのにどこかスッキリとしているようにも思えた。その様子にノエルは深く安堵した。
 自分が大切な人の役に立てたことが嬉しい。傍にいるだけでも力になれている。そのことがノエル自身の心にも自信を与えてくれた。

「帰ったら少し休んで、それから荷物を用意しよう。エアリスには感謝しないといけないね」

 ネイトはエアリスとしばらく一緒に過ごすことをどう思っているのだろうか……。
 聞いてみたいけれど、それは許されないような気もする。自分に対してのネイトの気持ちを疑うことはない。それでも、未練くらいはあるのではないかと思っていた。
 あれだけ大切にしていた人のことを忘れられるわけがないだろうから。

「ノエル、勘違いしないようにひとつだけ重要なことを伝えておく」
「なに?」
「私はエアリスにはもう未練などない。私の気持ちに中途半端は存在しないことをノエルにだけはわかっていてほしい」

 まるで頭の中を読んだかのような言葉に、ノエルは思わず破顔してしまった。

「そうだったね。俺の知っているネイトはすごく真っ直ぐで一途な人だ」
「わかってくれたのならいい」

 ネイトがゆっくりと目を閉じた。それを確認してからノエルも目を閉じる。馬車が道を進んでいくときの微かな揺れを感じながら、二人はしばらくの間まどろみの中へと身を預けた。
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