モブに転生した俺。推しキャラのハピエンを拝むまで夜も眠れない

天宮叶

文字の大きさ
45 / 53

推しの無事を祈ります

しおりを挟む
七日が経った頃、ネイトとノエルは滞在のために、再び馬車に揺られてエアリス達の屋敷を訪れた。
 彩の整えられた豪華なディナーや広々とした美しい寝室など、盛大にもてなされすぎて申し訳なく感じた。

「二人が来てくれたから賑やかになってとても嬉しいな」
 
 屋敷に来てから三日程が経った頃、一緒にアフタヌーンティーを楽しんでいたノエルにエアリスがそう言ってくれた。

「俺もとても良くしてもらっていて、本当に夢みたいだよ」

 平和すぎて怖いくらいだ。
エアリスとフェイブルがイチャついている場面も間近で目にすることができるため、天国にでも来たかのような心境だった。

「ネイトはまた仕事?」
「そうみたい。伯爵家に居なくても仕事を放り出すことはできないって。そういうところが真面目で格好いいと思う。ただ……」

 少し不安でもある。魔王化の進行が進んできていることもあるけれど、不安を感じたときに仕事をしてしまう癖があるため、見ているこちらのほうが心配になってしまう。

「大丈夫だよ」

 エアリスが励ましてくれる。彼にそう言われると、本当に大丈夫だという気持ちになるから不思議だ。

「っ、二人とも大変なことが起きた!」

 フェイブルが慌てた様子で部屋に入ってきて会話が止まった。

「そんなに慌ててどうしたの?」

 エアリスが尋ねると、フェイブルが落ち着かない様子で近づいてくる。

「魔獣が各領地で大暴れしているんだ。主な三ヶ所は王都の北側とフローレス伯爵家が管理しているアザレア。それから南の外れに位置するトーラル領地だ。ここはスリーム男爵家が管理しているんだけど、男爵家には魔獣を退治するための兵力が足りない」
「……まずい状況になったね。魔族の仕業だろうね」
「ああ、そうに違いないよ。俺とエアリスは魔族退治に赴かなければいけなくなった。ネイトも伯爵家の管理する領地となるの動かざるをえない」
「騒ぎにまぎれてなにかを仕掛けようとしているのは間違いないね……」

 フェイブル手エアリスが難しそうな表情を浮かべる。
 そこに丁度、騒ぎを聞きつけたのかネイトも姿を現した。

「ネイト、領地が……」
「あぁ、先程早馬で知らせが来た。……エアリス、ノエルはこの屋敷に置いていく。連れて行くには危険すぎる」
「っ!?まってよ!俺だって光の魔力を使えるんだから戦えるよ!」
「駄目だ。敵が戦いの最中にノエルを狙ってくる可能性がある。それに怪我をするリスクのある場所に連れてなどいけない」
「でも、黙って見ているだけなんてできないよ!」

 必死に反論するけれどネイトは引く気がない様子だ。
 エアリスとフェイブルに助けを求めようとするけれど、二人もネイトと意見は同じ様子な気がした。

「たしかにノエルは屋敷に残ったほうがいい。カエラムと一緒にいれば少しは安心なはずだ」
「でも、俺は……」

 エアリスの指示でも頷くことなどできない。
 それなのにノエルをおいてけぼりにして話だけが進んでいく。

「とにかく一刻も早く現場に行かないと、民間人に被害が出てしまう」
「そうだね。ネイトも本当にいいかい?」
「仕方ないだろう。念のために屋敷全体に魔族除けの防御魔術を施していく。私が帰るまで待っていてほしい」

 三人がノエルへと視線を向けてきた。
 もう反論などできないのだと悟り、ノエルは無理矢理自分を納得させることしかできない。胸に渦巻く悔しさを押さえ込むように胸元を握りしめて、同意するように小さく頷いた。
 先にエアリスとフェイブルが慌てて部屋を飛び出す。残ったネイトが呪文を唱えると、屋敷全体が仄かに光り輝いたのが見えた。

「ノエル、私は必ず戻ってくる。だからノエルも屋敷で私の帰りを待っていてほしい」
「……守られることしかできない自分が今はすごく嫌いだって思うよ。でも……だからこそ、ネイト達の無事を祈って待っているから。必ず俺のことを迎えに来て」
「あぁ、約束する」

 抱きしめられる。それから唇を重ね合わせた。お互いの温度、触れ合ったときの感覚、存在すべてを心に刻み込む。
 どれだけ離れていても心は繋がっている。
 ネイトのことを信じているし、ネイトもノエルのことを信じていてくれる。だからきっと問題を解決したら無事に再会できるはずだ。

「無事を心の底から祈っているからね」

 魔を払うように光の魔力をネイトへと流し込む。
 いつも行っているこの行為すら、いまはとても神聖なもののように思えてしまう。

「ありがとう。祝福は受け取った」

 ノエルのおでこにキスをしたネイトは、離れると背を向けて部屋を出ていく。扉の閉まる音がやけに耳に残って離れない。
 ──どうか無事でいて……。
 ノエルはひたすら三人の無事だけを願っていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

呪われた辺境伯は、異世界転生者を手放さない

波崎 亨璃
BL
ーーー呪われた辺境伯に捕まったのは、俺の方だった。 異世界に迷い込んだ駆真は「呪われた辺境伯」と呼ばれるレオニスの領地に落ちてしまう。 強すぎる魔力のせいで、人を近づけることができないレオニス。 彼に触れれば衰弱し、最悪の場合、命を落とす。 しかしカルマだけはなぜかその影響を一切受けなかった。その事実に気づいたレオニスは次第にカルマを手放さなくなっていく。 「俺に触れられるのは、お前だけだ」 呪いよりも重い執着と孤独から始まる、救済BL。 となります。

だから、悪役令息の腰巾着! 忌み嫌われた悪役は不器用に僕を囲い込み溺愛する

モト
BL
2024.12.11~2巻がアンダルシュノベルズ様より書籍化されます。皆様のおかげです。誠にありがとうございます。 番外編などは書籍に含まれませんので是非、楽しんで頂けますと嬉しいです。 他の番外編も少しずつアップしたいと思っております。 ◇ストーリー◇ 孤高の悪役令息×BL漫画の総受け主人公に転生した美人 姉が書いたBL漫画の総モテ主人公に転生したフランは、総モテフラグを折る為に、悪役令息サモンに取り入ろうとする。しかしサモンは誰にも心を許さない一匹狼。周囲の人から怖がられ悪鬼と呼ばれる存在。 そんなサモンに寄り添い、フランはサモンの悪役フラグも折ろうと決意する──。 互いに信頼関係を築いて、サモンの腰巾着となったフランだが、ある変化が……。どんどんサモンが過保護になって──!? ・書籍化部分では、web未公開その後の番外編*がございます。 総受け設定のキャラだというだけで、総受けではありません。CPは固定。 自分好みに育っちゃった悪役とのラブコメになります。

転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?

米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。 ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。 隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。 「愛してるよ、私のユリタン」 そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。 “最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。 成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。 怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか? ……え、違う?

【完結】流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。

時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!? ※表紙のイラストはたかだ。様 ※エブリスタ、pixivにも掲載してます ◆この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」もあります。そちらも気になったら覗いてみてください。 ◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います

神様の手違いで死んだ俺、チート能力を授かり異世界転生してスローライフを送りたかったのに想像の斜め上をいく展開になりました。

篠崎笙
BL
保育園の調理師だった凛太郎は、ある日事故死する。しかしそれは神界のアクシデントだった。神様がお詫びに好きな加護を与えた上で異世界に転生させてくれるというので、定年後にやってみたいと憧れていたスローライフを送ることを願ったが……。  2026/01/09 加筆修正終了

【完結】義妹(いもうと)を応援してたら、俺が騎士に溺愛されました

未希かずは(Miki)
BL
第13回BL大賞 奨励賞 受賞しました。 皆さまありがとうございます。 「ねえ、私だけを見て」 これは受けを愛しすぎて様子のおかしい攻めのフィンと、攻めが気になる受けエリゼオの恋のお話です。 エリゼオは母の再婚により、義妹(いもうと)ができた。彼には前世の記憶があり、その前世の後悔から、エリゼオは今度こそ義妹を守ると誓う。そこに現れた一人の騎士、フィン。彼は何と、義妹と両想いらしい。まだ付き合えていない義妹とフィンの恋を応援しようとするエリゼオ。けれどフィンの優しさに触れ、気付けば自分がフィンを好きになってしまった。 「この恋、早く諦めなくちゃ……」 本人の思いとはうらはらに、フィンはエリゼオを放っておかない。 この恋、どうなる!? じれキュン転生ファンタジー。ハピエンです。 番外編。 リナルド×ガルディア。王族と近衞騎士の恋。 ――忠誠を誓った相手を、愛してはいけないと思っていた。切ない身分差、年の差の恋。恋の自覚は、相手が成人してからになります。

処理中です...