モブに転生した俺。推しキャラのハピエンを拝むまで夜も眠れない

天宮叶

文字の大きさ
7 / 53

推しだけが冷静なんですが!?

しおりを挟む
婚姻契約書を交わしてから一ヶ月程が経った。
明日はいよいよ結婚式の日。だというのに、ノエルとネイトはあれから一度も会話を行っていない。
結婚式の準備も優秀な使用人達がほとんど行ってくれた。こじんまりとした式になる予定で、参列者も少ない。参列者名簿を一通り見せてもらったときに、エアリスの名前見つけたことだけが気がかりだった。
もちろんエアリスを近くで見ることができることは嬉しい。けれど、愛する人に結婚式を祝われるネイトの気持ちを想像すると、嬉しさも心配に塗り潰されてしまう。 
衣装部屋で衣装の最終合わせを行いながら、姿見に映る自分を観察する。
何度見ても平凡なモブという容姿だ。エアリスは目を見張るほどに美しいプラチナの髪と、淡い桃色の瞳をしている。スチルを描いていたイラストレーターさんの手腕だろう。攻略キャラも完璧な美形揃いだ。その中でもネイトは別格に格好良い。
どうせなら美形に転生したかったが、神様に文句を言うのも気が引ける。
ノエルの着ている白いタキシードには、金色の刺繍が施してあり、一目で上質だとわかる。着られている感が否めないけれど、今更衣装変更もできないだろう。
それにネイトの黒いタキシードと、ノエルの衣装は対になっており、同じ柄の刺繍が黒いタキシードにも施されている。
タキシードを着ているネイトを想像すると、ノエルの頬はたちまち緩んでしまう。

「ノエル様は腰が細いので、ラインがとても綺麗に出ますね」
「少しはマシに見えてるならよかったよ~」

着替えを手伝ってくれていたシルビィに、苦笑いを返す。

「ネイト様とはまだお話できていないのですよね。寂しくはありませんか?」
「うーん。寂しいけど、仕方ないんだ。俺が余計なこと言っちゃったからさ。それに明日会えるから、謝って仲直りしようと思う」
「きっとノエル様のお気持ちは伝わりますよ」

ノエルの胸元のリボンを結びながら、シルビィが微笑みを向けてくれる。ノエルも笑みを返すと、鏡に映る自分に向かって「似合ってるぞ」とエールを送った。

迎えた式当日。
向かい合うネイトとノエルの間には、気まずい空気が流れていた。観客席にはエアリスがいる。隣にはフェイブルが座っている。
ネイトと顔を合わせたのは、衣装部屋だった。お互い会話もなく、淡々と進んでいく準備。何度か声をかけようとしたものの、そのたびに避けられてしまい、ノエルにはどうしようもなかった。
ノエルの心は、歓喜と冷や汗でいっぱいいっぱいだ。エアリスの美しさは周りを圧倒している。その隣に居るフェイブルも同じだ。
第一王子であるフェイブルとネイトは親友。フェイブルのメインストーリーでは、親友であるフェイブルのために、ネイトが身を引く場面が印象的だった。
今回の婚姻も、襲い来る魔族の大群をネイトが 一人で相手にし防衛を担ったため、その報奨の一貫ということになっている。
実際はフェイブルのメインストーリーで、エアリスとフェイブルが魔族に囲まれて危機に陥り、そこへ助けに現れたのがネイトという裏事情がある。二人はネイトに後押しされて、魔王のもとに向かい、見事討ち取って帰還する。
大切な人のために命を投げ打つことのできるネイトの強い想いに、思わず拍手を送りたくなるストーリーだ。
ノエルならばネイトを好きになる。
けれど、エアリスは決してネイトを選ばなかった。それはゲームの都合上仕方のないことだ。わかっていてもノエルはネイトに愛する人と結ばれてほしかった。
今は更にその思いが強い。
もう無理だとわかっていても、せめてエアリスの元以外で心の落ち着ける居場所を見つけてほしかった。
思いを馳せている間にも式は進んでいく。

「それでは誓いのキスを」

神父に促されて、ノエルは固まってしまった。
推しとキスをするなど、想像しただけで顔が熱くなる。相変わらず無表情のままのネイトが、おもむろにノエルの肩に手を添えてきた。そのまま顔を近づけられて、頬の赤みが増す。
恥ずかしさに耐えきれず目を閉じると、来るはずの衝撃に備える。しかし一向になにも起こらない。そろりと目を開けると、至近距離にルビーとサファイアを思わせる瞳があることに気がついた。ほんの数センチにも満たない距離にお互いの唇がある。

(これやばいっ……)

更に羞恥心が増して、もう一度目を閉じかけたときネイトがゆっくりとノエルから離れた。戸惑うノエルを他所に、ネイトは素知らぬ顔をしている。観客からは遠い位置に居るため、周囲にはキスをしたように見えたかもしれない。
期待をしてしまったことが恥ずかしかった。
ネイトはエアリスのことを愛している。期待するな、求めるなと散々言われたというのに、少しも学んでいない。
ノエルの胸の奥にほんの少しだけ寂しさが宿る。
気持ちを置いてけぼりにしたまま、結婚式は続いていく。前世から、なんとなく幸せな結婚というものには憧れていた気がする。
その幸せを体現したものが結婚式だと思っていた。けれどそれは二人には当てはまらなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

呪われた辺境伯は、異世界転生者を手放さない

波崎 亨璃
BL
ーーー呪われた辺境伯に捕まったのは、俺の方だった。 異世界に迷い込んだ駆真は「呪われた辺境伯」と呼ばれるレオニスの領地に落ちてしまう。 強すぎる魔力のせいで、人を近づけることができないレオニス。 彼に触れれば衰弱し、最悪の場合、命を落とす。 しかしカルマだけはなぜかその影響を一切受けなかった。その事実に気づいたレオニスは次第にカルマを手放さなくなっていく。 「俺に触れられるのは、お前だけだ」 呪いよりも重い執着と孤独から始まる、救済BL。 となります。

だから、悪役令息の腰巾着! 忌み嫌われた悪役は不器用に僕を囲い込み溺愛する

モト
BL
2024.12.11~2巻がアンダルシュノベルズ様より書籍化されます。皆様のおかげです。誠にありがとうございます。 番外編などは書籍に含まれませんので是非、楽しんで頂けますと嬉しいです。 他の番外編も少しずつアップしたいと思っております。 ◇ストーリー◇ 孤高の悪役令息×BL漫画の総受け主人公に転生した美人 姉が書いたBL漫画の総モテ主人公に転生したフランは、総モテフラグを折る為に、悪役令息サモンに取り入ろうとする。しかしサモンは誰にも心を許さない一匹狼。周囲の人から怖がられ悪鬼と呼ばれる存在。 そんなサモンに寄り添い、フランはサモンの悪役フラグも折ろうと決意する──。 互いに信頼関係を築いて、サモンの腰巾着となったフランだが、ある変化が……。どんどんサモンが過保護になって──!? ・書籍化部分では、web未公開その後の番外編*がございます。 総受け設定のキャラだというだけで、総受けではありません。CPは固定。 自分好みに育っちゃった悪役とのラブコメになります。

転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?

米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。 ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。 隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。 「愛してるよ、私のユリタン」 そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。 “最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。 成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。 怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか? ……え、違う?

【完結】流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。

時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!? ※表紙のイラストはたかだ。様 ※エブリスタ、pixivにも掲載してます ◆この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」もあります。そちらも気になったら覗いてみてください。 ◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います

神様の手違いで死んだ俺、チート能力を授かり異世界転生してスローライフを送りたかったのに想像の斜め上をいく展開になりました。

篠崎笙
BL
保育園の調理師だった凛太郎は、ある日事故死する。しかしそれは神界のアクシデントだった。神様がお詫びに好きな加護を与えた上で異世界に転生させてくれるというので、定年後にやってみたいと憧れていたスローライフを送ることを願ったが……。  2026/01/09 加筆修正終了

【完結】義妹(いもうと)を応援してたら、俺が騎士に溺愛されました

未希かずは(Miki)
BL
第13回BL大賞 奨励賞 受賞しました。 皆さまありがとうございます。 「ねえ、私だけを見て」 これは受けを愛しすぎて様子のおかしい攻めのフィンと、攻めが気になる受けエリゼオの恋のお話です。 エリゼオは母の再婚により、義妹(いもうと)ができた。彼には前世の記憶があり、その前世の後悔から、エリゼオは今度こそ義妹を守ると誓う。そこに現れた一人の騎士、フィン。彼は何と、義妹と両想いらしい。まだ付き合えていない義妹とフィンの恋を応援しようとするエリゼオ。けれどフィンの優しさに触れ、気付けば自分がフィンを好きになってしまった。 「この恋、早く諦めなくちゃ……」 本人の思いとはうらはらに、フィンはエリゼオを放っておかない。 この恋、どうなる!? じれキュン転生ファンタジー。ハピエンです。 番外編。 リナルド×ガルディア。王族と近衞騎士の恋。 ――忠誠を誓った相手を、愛してはいけないと思っていた。切ない身分差、年の差の恋。恋の自覚は、相手が成人してからになります。

処理中です...