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推しだけが冷静なんですが!?
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婚姻契約書を交わしてから一ヶ月程が経った。
明日はいよいよ結婚式の日。だというのに、ノエルとネイトはあれから一度も会話を行っていない。
結婚式の準備も優秀な使用人達がほとんど行ってくれた。こじんまりとした式になる予定で、参列者も少ない。参列者名簿を一通り見せてもらったときに、エアリスの名前見つけたことだけが気がかりだった。
もちろんエアリスを近くで見ることができることは嬉しい。けれど、愛する人に結婚式を祝われるネイトの気持ちを想像すると、嬉しさも心配に塗り潰されてしまう。
衣装部屋で衣装の最終合わせを行いながら、姿見に映る自分を観察する。
何度見ても平凡なモブという容姿だ。エアリスは目を見張るほどに美しいプラチナの髪と、淡い桃色の瞳をしている。スチルを描いていたイラストレーターさんの手腕だろう。攻略キャラも完璧な美形揃いだ。その中でもネイトは別格に格好良い。
どうせなら美形に転生したかったが、神様に文句を言うのも気が引ける。
ノエルの着ている白いタキシードには、金色の刺繍が施してあり、一目で上質だとわかる。着られている感が否めないけれど、今更衣装変更もできないだろう。
それにネイトの黒いタキシードと、ノエルの衣装は対になっており、同じ柄の刺繍が黒いタキシードにも施されている。
タキシードを着ているネイトを想像すると、ノエルの頬はたちまち緩んでしまう。
「ノエル様は腰が細いので、ラインがとても綺麗に出ますね」
「少しはマシに見えてるならよかったよ~」
着替えを手伝ってくれていたシルビィに、苦笑いを返す。
「ネイト様とはまだお話できていないのですよね。寂しくはありませんか?」
「うーん。寂しいけど、仕方ないんだ。俺が余計なこと言っちゃったからさ。それに明日会えるから、謝って仲直りしようと思う」
「きっとノエル様のお気持ちは伝わりますよ」
ノエルの胸元のリボンを結びながら、シルビィが微笑みを向けてくれる。ノエルも笑みを返すと、鏡に映る自分に向かって「似合ってるぞ」とエールを送った。
迎えた式当日。
向かい合うネイトとノエルの間には、気まずい空気が流れていた。観客席にはエアリスがいる。隣にはフェイブルが座っている。
ネイトと顔を合わせたのは、衣装部屋だった。お互い会話もなく、淡々と進んでいく準備。何度か声をかけようとしたものの、そのたびに避けられてしまい、ノエルにはどうしようもなかった。
ノエルの心は、歓喜と冷や汗でいっぱいいっぱいだ。エアリスの美しさは周りを圧倒している。その隣に居るフェイブルも同じだ。
第一王子であるフェイブルとネイトは親友。フェイブルのメインストーリーでは、親友であるフェイブルのために、ネイトが身を引く場面が印象的だった。
今回の婚姻も、襲い来る魔族の大群をネイトが 一人で相手にし防衛を担ったため、その報奨の一貫ということになっている。
実際はフェイブルのメインストーリーで、エアリスとフェイブルが魔族に囲まれて危機に陥り、そこへ助けに現れたのがネイトという裏事情がある。二人はネイトに後押しされて、魔王のもとに向かい、見事討ち取って帰還する。
大切な人のために命を投げ打つことのできるネイトの強い想いに、思わず拍手を送りたくなるストーリーだ。
ノエルならばネイトを好きになる。
けれど、エアリスは決してネイトを選ばなかった。それはゲームの都合上仕方のないことだ。わかっていてもノエルはネイトに愛する人と結ばれてほしかった。
今は更にその思いが強い。
もう無理だとわかっていても、せめてエアリスの元以外で心の落ち着ける居場所を見つけてほしかった。
思いを馳せている間にも式は進んでいく。
「それでは誓いのキスを」
神父に促されて、ノエルは固まってしまった。
推しとキスをするなど、想像しただけで顔が熱くなる。相変わらず無表情のままのネイトが、おもむろにノエルの肩に手を添えてきた。そのまま顔を近づけられて、頬の赤みが増す。
恥ずかしさに耐えきれず目を閉じると、来るはずの衝撃に備える。しかし一向になにも起こらない。そろりと目を開けると、至近距離にルビーとサファイアを思わせる瞳があることに気がついた。ほんの数センチにも満たない距離にお互いの唇がある。
(これやばいっ……)
更に羞恥心が増して、もう一度目を閉じかけたときネイトがゆっくりとノエルから離れた。戸惑うノエルを他所に、ネイトは素知らぬ顔をしている。観客からは遠い位置に居るため、周囲にはキスをしたように見えたかもしれない。
期待をしてしまったことが恥ずかしかった。
ネイトはエアリスのことを愛している。期待するな、求めるなと散々言われたというのに、少しも学んでいない。
ノエルの胸の奥にほんの少しだけ寂しさが宿る。
気持ちを置いてけぼりにしたまま、結婚式は続いていく。前世から、なんとなく幸せな結婚というものには憧れていた気がする。
その幸せを体現したものが結婚式だと思っていた。けれどそれは二人には当てはまらなかった。
明日はいよいよ結婚式の日。だというのに、ノエルとネイトはあれから一度も会話を行っていない。
結婚式の準備も優秀な使用人達がほとんど行ってくれた。こじんまりとした式になる予定で、参列者も少ない。参列者名簿を一通り見せてもらったときに、エアリスの名前見つけたことだけが気がかりだった。
もちろんエアリスを近くで見ることができることは嬉しい。けれど、愛する人に結婚式を祝われるネイトの気持ちを想像すると、嬉しさも心配に塗り潰されてしまう。
衣装部屋で衣装の最終合わせを行いながら、姿見に映る自分を観察する。
何度見ても平凡なモブという容姿だ。エアリスは目を見張るほどに美しいプラチナの髪と、淡い桃色の瞳をしている。スチルを描いていたイラストレーターさんの手腕だろう。攻略キャラも完璧な美形揃いだ。その中でもネイトは別格に格好良い。
どうせなら美形に転生したかったが、神様に文句を言うのも気が引ける。
ノエルの着ている白いタキシードには、金色の刺繍が施してあり、一目で上質だとわかる。着られている感が否めないけれど、今更衣装変更もできないだろう。
それにネイトの黒いタキシードと、ノエルの衣装は対になっており、同じ柄の刺繍が黒いタキシードにも施されている。
タキシードを着ているネイトを想像すると、ノエルの頬はたちまち緩んでしまう。
「ノエル様は腰が細いので、ラインがとても綺麗に出ますね」
「少しはマシに見えてるならよかったよ~」
着替えを手伝ってくれていたシルビィに、苦笑いを返す。
「ネイト様とはまだお話できていないのですよね。寂しくはありませんか?」
「うーん。寂しいけど、仕方ないんだ。俺が余計なこと言っちゃったからさ。それに明日会えるから、謝って仲直りしようと思う」
「きっとノエル様のお気持ちは伝わりますよ」
ノエルの胸元のリボンを結びながら、シルビィが微笑みを向けてくれる。ノエルも笑みを返すと、鏡に映る自分に向かって「似合ってるぞ」とエールを送った。
迎えた式当日。
向かい合うネイトとノエルの間には、気まずい空気が流れていた。観客席にはエアリスがいる。隣にはフェイブルが座っている。
ネイトと顔を合わせたのは、衣装部屋だった。お互い会話もなく、淡々と進んでいく準備。何度か声をかけようとしたものの、そのたびに避けられてしまい、ノエルにはどうしようもなかった。
ノエルの心は、歓喜と冷や汗でいっぱいいっぱいだ。エアリスの美しさは周りを圧倒している。その隣に居るフェイブルも同じだ。
第一王子であるフェイブルとネイトは親友。フェイブルのメインストーリーでは、親友であるフェイブルのために、ネイトが身を引く場面が印象的だった。
今回の婚姻も、襲い来る魔族の大群をネイトが 一人で相手にし防衛を担ったため、その報奨の一貫ということになっている。
実際はフェイブルのメインストーリーで、エアリスとフェイブルが魔族に囲まれて危機に陥り、そこへ助けに現れたのがネイトという裏事情がある。二人はネイトに後押しされて、魔王のもとに向かい、見事討ち取って帰還する。
大切な人のために命を投げ打つことのできるネイトの強い想いに、思わず拍手を送りたくなるストーリーだ。
ノエルならばネイトを好きになる。
けれど、エアリスは決してネイトを選ばなかった。それはゲームの都合上仕方のないことだ。わかっていてもノエルはネイトに愛する人と結ばれてほしかった。
今は更にその思いが強い。
もう無理だとわかっていても、せめてエアリスの元以外で心の落ち着ける居場所を見つけてほしかった。
思いを馳せている間にも式は進んでいく。
「それでは誓いのキスを」
神父に促されて、ノエルは固まってしまった。
推しとキスをするなど、想像しただけで顔が熱くなる。相変わらず無表情のままのネイトが、おもむろにノエルの肩に手を添えてきた。そのまま顔を近づけられて、頬の赤みが増す。
恥ずかしさに耐えきれず目を閉じると、来るはずの衝撃に備える。しかし一向になにも起こらない。そろりと目を開けると、至近距離にルビーとサファイアを思わせる瞳があることに気がついた。ほんの数センチにも満たない距離にお互いの唇がある。
(これやばいっ……)
更に羞恥心が増して、もう一度目を閉じかけたときネイトがゆっくりとノエルから離れた。戸惑うノエルを他所に、ネイトは素知らぬ顔をしている。観客からは遠い位置に居るため、周囲にはキスをしたように見えたかもしれない。
期待をしてしまったことが恥ずかしかった。
ネイトはエアリスのことを愛している。期待するな、求めるなと散々言われたというのに、少しも学んでいない。
ノエルの胸の奥にほんの少しだけ寂しさが宿る。
気持ちを置いてけぼりにしたまま、結婚式は続いていく。前世から、なんとなく幸せな結婚というものには憧れていた気がする。
その幸せを体現したものが結婚式だと思っていた。けれどそれは二人には当てはまらなかった。
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