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推しを心配するのは当然だよね!?
しおりを挟むやけに長く感じる一日だった。
式が終わると、ネイトと共に関係者に挨拶をして回る。と言っても参加者は少ない。ノエルの両親とネイトの仕事の関係者。それからエアリスとフェイブル。攻略キャラ達は来てはいなかった。ネイトはフェイブル以外の攻略キャラとはあまり仲が良くないため、招待はしなかったのだろう。
「おめでとうネイト」
「……ありがとうエアリス」
鈴の鳴るような柔らかな声音が、ネイトへと話しかけてきた。
プラチナの髪が陽の光に照らされて輝いている。ピンクブラウンの瞳にネイトを映しながら、エアリスがふわりと花のように微笑んでいた。隣には見守るようにフェイブルが寄り添っている。
近くで見るとますます、その愛らしさに息を呑む。本物のエアリスは、画面越しに見るよりも遥かに可愛らしかった。
淡いピンク色の正装がよく似合っている。
(天使でも舞い降りたみたいだ)
ノエルですら見惚れてしまうほどだ、攻略キャラやネイト達が好きになってしまうのも納得できる。
「貴方がノエルさん?」
「初めまして。ノエルと呼んでください」
「ふふ、それじゃあ僕のこともエアリスと呼んでほしいな。結婚おめでとう」
「ありがとうエアリス」
挨拶の意味も込めて手を握り合う。
ネイトはその様子を、どこか不機嫌そうに見つめてくる。それに気づかないふりをするのは、ネイトが辛い思いをしているとわかっているからだ。
「やぁ、俺とも握手をしてくれないかな」
一歩前に出てきたフェイブルが手を差し出してくる。エアリスから手を話したノエルは、フェイブルともしっかりと握手を交わした。
「……不思議だ。君からはなにか温かなものを感じる。まるでエアリスのように神の祝福でも受けているような……」
「あはは、気のせいだと思いますよ」
ゲームの設定を思い出したノエルは、慌てないように気をつけながらフェイブルから手を離した。
実際に神様に会ったことがあると答えたら大変なことになってしまう。贈り物がなにかもまだわかっていないのだから。
フェイブルは触れた相手の潜在能力を読み取る力がある。武術にも長けており、雷の魔法を自在に操り、ユーザー人気も高かった。
金に近いオレンジ色の髪に、目が覚めるような群青色のタレ目。甘いマスクで微笑まれると、安心感を抱いてしまう。実際はかなりの策略家で油断できない人物だ。
そんな彼が主人公にハマっていく様を見るのはかなり爽快だった。
「気のせいねえ。そういうことにしておくよ」
微笑みを返されて、苦笑いを零してしまう。
「もうフェイブルったら、ノエルを困らせないでよね。ネイトもノエルを取っちゃってごめんね。二人でゆっくり話すこともあるだろうし、僕達はそろそろ帰らせてもらうね」
エアリスがフェイブルの腕を掴み、ノエルから引き離してくれる。それに安堵感を覚える。隠し事は得意ではない。
「また近いうちに遊びに行くからね」
「……そうだな。君ならいつでも歓迎する」
「ありがとうネイト」
フェイブルの腕に手を絡めて笑顔を浮かべるエアリス。その姿をネイトがじっと見つめている。その瞳の奥に悲しみが宿っていることを感じたノエルは、思わずネイトの腕を掴んでいた。
「なにをっ……」
「ネイト様、俺疲れちゃった。挨拶回りもほとんど終わったし部屋に戻ろう」
「っ!……はぁ……わかった。俺達も失礼させてもらおう」
エアリスとフェイブルに別れを告げて、二人は用意されていた寝室へと戻った。国では初夜の日から、夫婦の寝室を共有するのが昔からの習わしになっている。そのため使用人の手配で、ネイトとノエルの寝室も新しく用意されていた。
「離せ」
底冷えのするような声に促されて、ノエルはようやくネイトから手を離した。彼の瞳からは悲しみの色はもう伺えない。
「ごめんなさい……でもネイト様が心配で……」
「なぜそう思うのかわからないな」
「だってネイト様はエアリスのことを……ぁ……っ」
失言だと気が付き慌てて口をつぐむ。
ネイトは必死に思いを抑えている。それなのに、傷をえぐるようなことをしてしまったと後悔した。
けれど、苦しそうな表情を浮かべているネイトのことを放っておけなかった。余計なお節介だとしても、あの場所から一秒でも早く連れ出してあげたいとノエルは思った。
「なぜお前が私の気持ちを勝手に決めるんだ。なにもわからないくせに、わかったようなことを言うな」
睨みつけられて、うつむきそうになる。
たしかにノエルが知っていることは、ゲームでのネイトの姿だけだ。気持ちを想像して、勝手に悲しみや喜びを知った気になっていた。自分と画面の中にいるキャラたちが友達にでもなったような錯覚をして、すべてを共有する。それが楽しかった。それだけがすべてだった。
でも今この瞬間は現実だ。ネイトの心をテキストで読むことも辿ることもできない。だから実際のところ、彼の言うとおりノエルはなにもわかってはいない。
それでもネイトに悲しい顔をしてほしくないという、自分の気持ちは本当だった。だから心に従った。
その思いはネイトにすら否定などできない。
「たしかにわからないです。でもネイト様が悲しそうだって思ったんです。本当は俺と結婚なんてしたくなかったのもわかってます。でも、夫夫になってしまったんだから、夫の心配をするのは、俺の当然の権利です!」
「契約書を交わしたくらいで調子に乗るな。私はお前を認めない。……私は、永遠に彼を守ると誓ったんだ」
話を切るようにノエルに背を向けたネイトは、寝室に繋がる執務室へと入っていく。カチリと鍵の閉まる音が耳に届き、ノエルは唇を噛み締めた。
踏み込み過ぎなのだろうか?
ノエルはただネイトと穏やかに話をしたいだけだ。けれどどうやっても上手くいかない。 望まれていない関係だとわかっていても、関わりたいと思ってしまう。一歩踏み込みたくなる。
転生して戸惑うことは大きい。だからこそ前世で大好きだったネイトに出会えたことが嬉しかった。きっと無意識のうちに安心感を得ていたのだ。
「俺のこと認められないのはわかるよ。でもさ、ちょっとくらい会話してくれてもいいでしょ……」
執務室に繋がる扉に手を添えると、気持ちを吐き出す。
聞こえているのかはわからない。中からはなんの音も聞こえては来なかった。
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