モブに転生した俺。推しキャラのハピエンを拝むまで夜も眠れない

天宮叶

文字の大きさ
14 / 53

推しはいつだって俺の人生を支えてくれるんだ!

しおりを挟む
「猫が好きなのか?」
「昔、猫を飼ってみたかったんだ。でも両親に反対されて結局駄目だった」

前世での話だ。
唐突に失われてしまった当たり前の生活。今を不幸せだとは思わない。けれど、時々思い出してしまう。ただの平凡な社会人だった頃の自分のことを。
懐かしさと寂しさが胸を覆う。

「飼えばいい」
「いいの?」
「この屋敷はもうお前の家だ。好きにしろ」

頭を撫でてくれながら、ネイトが了承の返事をしてくれる。喜びが溢れてきて、ノエルは頬を緩めた。
ネイトは優しい。つっけんどんな態度を取っていたとしても、根っこでは他人を思いやることのできる人。だからノエルはネイトのことを推している。

「ありがとうネイト」

お礼を伝えると、ネイトがまた頭を撫でてくれた。目を細めてそれを受け入れる。一気に縮まった距離。恥ずかしいのに、幸せだ。
ネイトと触れ合うだけで、ノエルは胸が一杯になるような心地になる。その気持ちに名前をつけることは難しかった。

部屋に戻るとシルビィが温かい紅茶を入れてくれた。飲みながら、ネイトの言葉を思い出して笑みをこぼす。

「なにかいいことでもあったのですか?」
「今日、ネイトと話をしたんだ。少しだけ心を許してもらえたみたいで嬉しかったんだよ」
「ふふ、それは喜ばしいことです」
「うん。ネイトの心の拠り所に少しでいいからなれていたら嬉しい」
「……辛くはないのですか?」

シルビィが心配そうに尋ねてくる。
使用人達の間では、ネイトがエアリスのことを思っているのは、周知の事実なのだろう。きっとシルビィもそのことを知っている。

「辛いなんて思わないよ。俺はネイトが幸せならそれでいい」
「どうして幸せになってほしいのです?お二人はまだ出会って間もないのに」
「それは……」

推しだから。それ以外の理由などノエルは考えたことがなかった。ネイトと話をして、笑いあったり、気持ちをぶつけ合ったりする。その日々が積み重なっていくたびに、ノエルはわからなくなっていく。
ただゲームの中で推していたキャラという位置づけだった。けれど、今は生身の素敵な男性として目に映る。その変化を受け入れたいと思ってしまう。きっとそれが答えだ。

「ネイトは俺の人生を支えてくれた人だから」 

どんなに辛いことがあっても、画面の向こうのネイトを見ていると元気になれた。一生懸命好きな人のために頑張る姿が、ノエルには眩しくて仕方なかった。

「時々、ノエル様は別人になってしまわれたのかもしれないと思うときがあります」
「……シルビィ、俺は……」
「いいんです。なにもおっしゃらなくて。私は生涯貴方にお仕えしたい。その心に変わりはありませんから」
「っ、ありがとう」

シルビィが紅茶のおかわりをくれる。
まるで鼈甲べっこうを溶かしたかのように美しい黄金色の紅茶。口に運び温かさを噛みしめた。

「そういえばもうすぐノエル様のお誕生日ですね」
「そうだったね」

すっかり忘れていた。ネイトのことばかり気にかけていて、自分のことは放ったらかしていたせいかもしれない。

「旦那様に伝えないのですか?」

質問に、ノエルは眉を寄せて困り顔を作る。祝ってほしいというのが本音だ。けれどわざわざ伝えるのも違う気がした。

「機会があれば伝えてみるよ」

だからそう答えるしかできなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

呪われた辺境伯は、異世界転生者を手放さない

波崎 亨璃
BL
ーーー呪われた辺境伯に捕まったのは、俺の方だった。 異世界に迷い込んだ駆真は「呪われた辺境伯」と呼ばれるレオニスの領地に落ちてしまう。 強すぎる魔力のせいで、人を近づけることができないレオニス。 彼に触れれば衰弱し、最悪の場合、命を落とす。 しかしカルマだけはなぜかその影響を一切受けなかった。その事実に気づいたレオニスは次第にカルマを手放さなくなっていく。 「俺に触れられるのは、お前だけだ」 呪いよりも重い執着と孤独から始まる、救済BL。 となります。

だから、悪役令息の腰巾着! 忌み嫌われた悪役は不器用に僕を囲い込み溺愛する

モト
BL
2024.12.11~2巻がアンダルシュノベルズ様より書籍化されます。皆様のおかげです。誠にありがとうございます。 番外編などは書籍に含まれませんので是非、楽しんで頂けますと嬉しいです。 他の番外編も少しずつアップしたいと思っております。 ◇ストーリー◇ 孤高の悪役令息×BL漫画の総受け主人公に転生した美人 姉が書いたBL漫画の総モテ主人公に転生したフランは、総モテフラグを折る為に、悪役令息サモンに取り入ろうとする。しかしサモンは誰にも心を許さない一匹狼。周囲の人から怖がられ悪鬼と呼ばれる存在。 そんなサモンに寄り添い、フランはサモンの悪役フラグも折ろうと決意する──。 互いに信頼関係を築いて、サモンの腰巾着となったフランだが、ある変化が……。どんどんサモンが過保護になって──!? ・書籍化部分では、web未公開その後の番外編*がございます。 総受け設定のキャラだというだけで、総受けではありません。CPは固定。 自分好みに育っちゃった悪役とのラブコメになります。

転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?

米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。 ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。 隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。 「愛してるよ、私のユリタン」 そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。 “最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。 成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。 怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか? ……え、違う?

【完結】流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。

時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!? ※表紙のイラストはたかだ。様 ※エブリスタ、pixivにも掲載してます ◆この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」もあります。そちらも気になったら覗いてみてください。 ◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います

神様の手違いで死んだ俺、チート能力を授かり異世界転生してスローライフを送りたかったのに想像の斜め上をいく展開になりました。

篠崎笙
BL
保育園の調理師だった凛太郎は、ある日事故死する。しかしそれは神界のアクシデントだった。神様がお詫びに好きな加護を与えた上で異世界に転生させてくれるというので、定年後にやってみたいと憧れていたスローライフを送ることを願ったが……。  2026/01/09 加筆修正終了

【完結】義妹(いもうと)を応援してたら、俺が騎士に溺愛されました

未希かずは(Miki)
BL
第13回BL大賞 奨励賞 受賞しました。 皆さまありがとうございます。 「ねえ、私だけを見て」 これは受けを愛しすぎて様子のおかしい攻めのフィンと、攻めが気になる受けエリゼオの恋のお話です。 エリゼオは母の再婚により、義妹(いもうと)ができた。彼には前世の記憶があり、その前世の後悔から、エリゼオは今度こそ義妹を守ると誓う。そこに現れた一人の騎士、フィン。彼は何と、義妹と両想いらしい。まだ付き合えていない義妹とフィンの恋を応援しようとするエリゼオ。けれどフィンの優しさに触れ、気付けば自分がフィンを好きになってしまった。 「この恋、早く諦めなくちゃ……」 本人の思いとはうらはらに、フィンはエリゼオを放っておかない。 この恋、どうなる!? じれキュン転生ファンタジー。ハピエンです。 番外編。 リナルド×ガルディア。王族と近衞騎士の恋。 ――忠誠を誓った相手を、愛してはいけないと思っていた。切ない身分差、年の差の恋。恋の自覚は、相手が成人してからになります。

処理中です...