モブに転生した俺。推しキャラのハピエンを拝むまで夜も眠れない

天宮叶

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推しともっと話していたい

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ホワイトシャツにブラウンのショートジャケットと、スラックスに編み上げブーツ。フォーマルな衣装を身に纏ったノエルは、緊張して表情を強張らせていた。隣には、同じく紺のフォーマルスーツを身に纏ったネイトが立っている。
エアリスの誕生日パーティーには、多くの貴族が参加していた。高位貴族も多く、初めての社交界にノエルは不安を募らせている。
けれどネイトの気持ちを思うと、緊張ばかりもしていられない。

「ネイト、来てくれたんだね。ノエルも久しぶり」

二人に気がついたエアリスが近づいてくる。隣にはフェイブル。そして、攻略キャラであるザイン、フィル、オーガストス、アギィも居た。

(ひええええ!ここは顔面国宝の宝庫やあああ!!)

ゲーム内で見ていた攻略キャラ達の登場に、ノエルの緊張は吹っ飛び興奮に変わってしまう。手腕に長け商人ながら爵位を得た、豪商のザイン・ハルバード。宰相候補であり、カリスマ性溢れる銀縁眼鏡のフィル・ジェイ。騎士団長候補として名も上がるほどの剣の才能を持つ聖騎士副団長オーガストス・アーヴェン。若い見た目ながら実は一番の年長である謎の多い魔術協会長のアギィ・シルバー。
攻略キャラ達五人に囲まれて笑顔を浮かべているエアリスは、正に主人公そのものだ。

「おめでとうエアリス」

一歩前に出たネイトが、口元に笑みを浮かべながらお祝いの言葉を伝える。エアリスが嬉しそうに花のような笑みを浮かべた。
その笑顔を見ていると、たちまち春が来たような気分になる。攻略キャラ達も、穏やかに微笑んでいて良い雰囲気だ。
ネイトの様子が気になり、横目で盗み見る。いつもとは違い、ネイトの表情は柔らかい。それに少しだけ安堵した。

「来てくれて嬉しい。今日は楽しんでいってね!」
「あぁ、ありがとう」

簡素な返事だけをして、ネイトはエアリスに背を向けた。もう少し話しても良さそうだと思うのに、ネイトはその場を立ち去る気満々だ。
意図的に避けようとしていることはわかっている。それに攻略キャラ達と共にいるエアリスを見て、思うこともあるのだろう。

「ノエル、ネイトのことお願いね」
「うん。エアリス本当におめでとう」

戸惑うノエルの背を、エアリスが押してくれた。去ろうとするネイトの手を掴み、一緒にその場を立ち去る。
ほんのりと汗ばんでいるネイト。緊張していたのだとわかり、ノエルははしゃいでいた自分が恥ずかしくなった。

「ネイト、料理がすごく美味しそうだよ。俺がネイトの分も取ってこようか?」
話しかけると、ようやく立ち止まってくれる。
「……いや、一緒に居てくれないか」
「っ、う、うん!もちろん」

弱々しくお願いされて、胸がギュッと鷲掴みされた感覚がした。普段は一人でなんでもこなせる完璧な人が、エアリスのことになると途端幼子のように不安そうな表情を浮かべる。
そのギャップが可愛らしくも思える。なのに、ほんの少しだけエアリスが羨ましくもあった。胸の奥にモヤがかかったみたいだ。
ノエルにとって、ネイトはただの推しではなくなってきている。その事実を受け入れることが、怖い。
もしも気持ちを知られてしまったら、ネイトはノエルのことを遠ざけてしまうのではないだろうか。

「どうかしたのか?」
「えっ!?ううん。なにもないよ。それより俺、社交界は初めてなんだ。だから緊張しちゃってて。ネイトが色々教えてくれないかな?」
「フッ、仕方ないやつだな」

 ようやく笑みを浮かべてくれたネイト。その表情を見て、少しだけ安堵した。ネイトにはずっと笑っていてほしい。
 エアリスへの想いは消えなくても、いつか大切な思い出として消化できる日が来たらいい。ネイトにとってエアリスは永遠だから。
 ビュッフェ形式の食事をつまみながら、ネイトと取り留めのない会話をする。こんな風に隣に立ち、話をすることが出来ている事自体が奇跡のようだ。
 むず痒いような、嬉しい心地になったノエルは思わず笑みを零す。それに疑問を感じたのか、ネイトが左右色の違う瞳を向けてきた。

「俺、こうやってネイトと話す時間が凄く好きだな」
「……物好きだな」

プイッと顔を背けたネイト。ぶっきらぼうな返しなのに、冷たくは感じない。ネイトの可愛らしい反応に、ノエルはたまらなくなって吹き出すように満開の笑みを浮かべた。
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