モブに転生した俺。推しキャラのハピエンを拝むまで夜も眠れない

天宮叶

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推しの悪口は許しません!

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「おいおい。混ざり者がこんな所でなにしてんだ?」
「まだエアリス様の周りを彷徨うろついてるのかよ」

幸せな気持ちが一変する。聞こえてきた中傷に、ノエルは怒りを覚えた。
『混ざり者』はゲーム内でも出てきたネイトを中傷するための言葉だ。魔族と人間の混血だからそう呼ばれている。
ノエルはその呼び方が好きではない。

「混ざり者は出ていけよ。神聖なエアリス様が穢れるだろう」

冗談にしても言い過ぎだ。
当の本人は素知らぬ顔をして、ビュッフェのチョコブラウニーに口を付けている。ネイトは中傷されることに慣れきってしまっているのだろう。
そのことが胸を締め付けられるほどに悲しくてたまらない。

「俺の旦那様を馬鹿にするのは止めてください!」

それに、ネイトが無視できてもノエルは無理だ。どこの世界に推しを貶されて怒らない人間がいるというのだろうか。
小馬鹿にするような笑みを浮かべていた貴族男性達が、顔を歪めながらノエルを睨みつける。

「放っておけ」
「嫌だ!謝ってもらうまで絶対引かない!」

ため息をついたネイトが、駄々をこねるノエルの耳元に顔を寄せてきた。突然の行動に、ノエルは大きく心臓を跳ねさせる。

「ここで騒いだらエアリスの誕生日パーティーが台無しになってしまう。我慢してくれ」

囁かれた言葉に、ぐっと唇を噛み締めた。
確かに、冷静さを欠いて騒いでしまえばエアリス達に迷惑をかけてしまう。そんなことはノエルも望んではいない。
だから荒ぶる気持ちを、深呼吸することで押し留める。

「一言だけ言わせてください。俺の推しは最強で最高なんです。だから、次同じことが起こったら絶対許しませんから」

睨みつけると、ネイトの手を掴んでその場を離れる。本当はとっ捕まえて縄で縛ったあとに、ネイトの素晴らしさを永遠に聞かせてやりたいくらいだ。
けれど推しがそれを望まいのだから我慢する。ノエルはやり場のない怒りを、唇を噛みしめることで耐えていた。
会場を出た二人は、廊下を進み階段下の死角になる壁際で立ち止まった。

「どうしてお前が怒るんだ?」

ネイトから飛んできた純粋な疑問。
ノエルは勢い良くネイトへと顔を向けると、眉を寄せて苦しげに表情を歪める。

「だって!貴方は本当はすごく優しくて、愛情深くて、誰よりも素敵な人だから。だから、貴方のことをなにも知らないくせにあんなことを言うなんて許せないんだ!」

心からの言葉だった。
ノエルが穂だった頃から、心の支えになってくれたのはネイトだ。
受験が上手く行かなかった日も、就職するときも。家族と喧嘩して家を飛び出したときだって、セイントナイトをプレイするとき──ネイトの顔を見るときだけはなににも囚われずありのままでいられた。元気をもらえた。
そして今も、真っ直ぐで一途で、不器用な彼を見ていると頑張らないといけないと思わされる。ネイトに釣り合うような素敵な人になりたいと感じさせられた。
だから大切な彼のことを馬鹿にされることが許せなかった。

「ふっ、ありがとう」

くしゃりと表情を崩したネイトが、ノエルのことを抱き締めてくれる。それから優しく頭を撫でてくれた。

「そんな風に怒ってくれたのはノエルだけだ。こういう気分も悪くない」

満足気に笑みを零しているネイトの背に、ノエルも腕を回す。
感じる温もりや、抱き締められたときの力強さが包み込んでくれる。幸せだと思えるのに、どうしてこんなにも泣きたい心地になるのだろうか?
深くは望まない。そう思っていた。
友達のような関係になれるのならそれでいい。周りに対して冷たい部分のあるネイトが、唯一温もりを取り戻す瞬間を見ることができるのはエアリスだけだと知っている。
だから、一方的な思いでもかまわない。

「苦しいってば……」

そのはずだった。
けれど、こんな風に抱き締められていると勘違いしそうになる。ネイトの中で、ほんの少しは『特別』という枠組みの中に入れてもらえているのではないのかと。

「少しだけ我慢しろ。まだお前の光を感じていたい……」

光の魔力など使っていない。靄が溢れてきている気配もない。それでもネイトが言うのなら、いくらだって受け止められる。
パーティーで賑わう声が微かに聞こえてきた。その音の狭間に、お互いの心音が重なり合うように聞こえてくる。

「俺はずっとネイトの傍にいるよ」

どうしてだか今すぐにそう伝えなければならない気がした。
身じろいだネイトがか細い声で「そうだな」と呟くのが聞こえてきた。否定されなかったことに安堵する。
前と比べれば随分と会話が出来るようになってきた。それがどれほど嬉しいことかを、ネイトは知らないのだろう。

(ネイトが笑ってくれると凄く幸せな気持ちになるんだよ)

だからもっと、彼には笑っていてほしい。できることならそのとき傍にいるのが自分ならいいと、ノエルは思った。
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