18 / 38
推しは世界一!
しおりを挟む
心が落ち着きを取り戻した頃、二人は会場へと戻った。
丁度ワルツが流れ始めると、男女のペアが会場内で好きに踊り始める。目の前を揺れる色とりどりのドレスを見つめていると、現実感が薄れていく。
「踊れるのか?」
「俺は……」
ダンスなど踊ったこともない。視線を彷徨わせると、ネイトがおもむろにノエルの手を取ってきた。
「来い」
「えっ、わっ!」
手を引かれて、距離が縮まる。先程まで穏やかな心地で抱き合っていたのに、今は心臓がやけにうるさい。頭一つ分は背の高いネイトを見上げる。宝石のように美しい瞳に、顔を赤く染めたノエルの姿が映し出されていた。
「力を抜け」
「む、無理だよ……」
繋いだ手が熱い。ネイトから香る薔薇の花のような香りは、前世でキャラクターモチーフとして販売されていた香水と同じ香り。そんなことにすら気が付いてしまうほどに、二人の距離は近い。
「仕方ないやつだ」
腰に手が添わされる。
そのままゆっくりとワルツのリズムを足で刻む。ノエルも合わせるように足を動かす。自然と踊れているのは、転生する前に本物のノエルが踊れていたからかもしれない。
「ノエル、お前は私が怖くはないのか?」
「怖いわけないよ。ネイトがどんな姿になったとしても俺はネイトをずっと好き」
「……好き?」
「あ……いや、そのっ……」
何度も好きだと言葉にしてきたはずだ。けれど、咄嗟に出たその言葉は今までとは意味合いが異なってしまう気がして慌てる。
ようやくネイトが心を許し始めてくれたというのに、気持ちを伝えたらまた距離が開いてしまうかもしれない。それだけは避けたかった。
咄嗟に言い訳を考えてみるも、上手い言葉が見つからず黙り込んでしまう。
気まずく感じて目をそらそうとしたとき、ネイトが顔を寄せてきて驚いた。
「お前は私の心を揺らすのが上手い」
「ネ、ネイト?」
顔を離したネイトの口角が上がっているのに気が付いて、ノエルは言葉をつまらせた。その表情は、いつもエアリスにだけ向けられていたものと似ている。けれど、そこに哀しみは含まれていない気がした。
穏やかに音楽は流れていく。楽器の重なり合う音を耳に入れながら、ノエルはネイトへと真っ直ぐに目を向ける。そらしては駄目だと気がついたから。
感情が溢れてきて恥ずかしくなったとしても、ずっと大好きな推しを視界に入れておきたい。そうしていなければネイトの微かな表情の変化や、感情の起伏を見逃してしまう。
「俺ね、ネイトと出会えて本当に幸せだよ。だから最近沢山話せるようになって嬉しいんだ。ネイトの思ってることを知ることができるから」
「私のことを知っても面白みなどないだろう。他にも出来た人間は多くいる」
ワンテンポ、足を踏み出すたびに会話が進んでいく。
「俺の旦那様は世界一だって知らないの?」
満面の笑みで伝える。
そうすると、ネイトが目を丸くして言葉をつまらせたのがわかった。
(へんなこと言っちゃったかな?)
反応に困っていると、唐突にネイトが歩みを止めた。まだ曲は流れている。疑問に感じて首を傾げる。
丁度会場の真ん中辺り。多くの人が踊り続ける。その中で、立ち止まった二人は見つめ合う。
先に動いたのはネイトだった。
丁度ワルツが流れ始めると、男女のペアが会場内で好きに踊り始める。目の前を揺れる色とりどりのドレスを見つめていると、現実感が薄れていく。
「踊れるのか?」
「俺は……」
ダンスなど踊ったこともない。視線を彷徨わせると、ネイトがおもむろにノエルの手を取ってきた。
「来い」
「えっ、わっ!」
手を引かれて、距離が縮まる。先程まで穏やかな心地で抱き合っていたのに、今は心臓がやけにうるさい。頭一つ分は背の高いネイトを見上げる。宝石のように美しい瞳に、顔を赤く染めたノエルの姿が映し出されていた。
「力を抜け」
「む、無理だよ……」
繋いだ手が熱い。ネイトから香る薔薇の花のような香りは、前世でキャラクターモチーフとして販売されていた香水と同じ香り。そんなことにすら気が付いてしまうほどに、二人の距離は近い。
「仕方ないやつだ」
腰に手が添わされる。
そのままゆっくりとワルツのリズムを足で刻む。ノエルも合わせるように足を動かす。自然と踊れているのは、転生する前に本物のノエルが踊れていたからかもしれない。
「ノエル、お前は私が怖くはないのか?」
「怖いわけないよ。ネイトがどんな姿になったとしても俺はネイトをずっと好き」
「……好き?」
「あ……いや、そのっ……」
何度も好きだと言葉にしてきたはずだ。けれど、咄嗟に出たその言葉は今までとは意味合いが異なってしまう気がして慌てる。
ようやくネイトが心を許し始めてくれたというのに、気持ちを伝えたらまた距離が開いてしまうかもしれない。それだけは避けたかった。
咄嗟に言い訳を考えてみるも、上手い言葉が見つからず黙り込んでしまう。
気まずく感じて目をそらそうとしたとき、ネイトが顔を寄せてきて驚いた。
「お前は私の心を揺らすのが上手い」
「ネ、ネイト?」
顔を離したネイトの口角が上がっているのに気が付いて、ノエルは言葉をつまらせた。その表情は、いつもエアリスにだけ向けられていたものと似ている。けれど、そこに哀しみは含まれていない気がした。
穏やかに音楽は流れていく。楽器の重なり合う音を耳に入れながら、ノエルはネイトへと真っ直ぐに目を向ける。そらしては駄目だと気がついたから。
感情が溢れてきて恥ずかしくなったとしても、ずっと大好きな推しを視界に入れておきたい。そうしていなければネイトの微かな表情の変化や、感情の起伏を見逃してしまう。
「俺ね、ネイトと出会えて本当に幸せだよ。だから最近沢山話せるようになって嬉しいんだ。ネイトの思ってることを知ることができるから」
「私のことを知っても面白みなどないだろう。他にも出来た人間は多くいる」
ワンテンポ、足を踏み出すたびに会話が進んでいく。
「俺の旦那様は世界一だって知らないの?」
満面の笑みで伝える。
そうすると、ネイトが目を丸くして言葉をつまらせたのがわかった。
(へんなこと言っちゃったかな?)
反応に困っていると、唐突にネイトが歩みを止めた。まだ曲は流れている。疑問に感じて首を傾げる。
丁度会場の真ん中辺り。多くの人が踊り続ける。その中で、立ち止まった二人は見つめ合う。
先に動いたのはネイトだった。
61
あなたにおすすめの小説
【完結済】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜
キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」
平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。
そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。
彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。
「お前だけが、俺の世界に色をくれた」
蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。
甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー
【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件
表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。
病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。
この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。
しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。
ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。
強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。
これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。
甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。
本編完結しました。
続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください
温泉旅館の跡取り、死んだら呪いの沼に転生してた。スキルで温泉郷を作ったら、呪われた冷血公爵がやってきて胃袋と心を掴んで離さない
水凪しおん
BL
命を落とした温泉旅館の跡取り息子が転生したのは、人々から忌み嫌われる「呪いの沼」だった。
終わりなき孤独と絶望の中、彼に与えられたのは【万物浄化】と【源泉開発】のスキル。
自らを浄化し、極上の温泉を湧き出させた彼の前に現れたのは、呪いにより心と体を凍てつかせた冷血公爵クロード。
半信半疑で湯に浸かった公爵は、生まれて初めての「安らぎ」に衝撃を受ける。
「この温泉郷(ばしょ)ごと、君が欲しい」
孤独だった元・沼の青年アオイと、温もりを知らなかった冷血公爵クロード。
湯けむりの向こうで出会った二人が、最高の温泉郷を作り上げながら、互いの心の傷を癒やし、かけがえのない愛を見つけていく。
読む者の心まですべて解きほぐす、極上の癒やしと溺愛のファンタジーロマンス、ここに開湯。
乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について
はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
悪役の僕 何故か愛される
いもち
BL
BLゲーム『恋と魔法と君と』に登場する悪役 セイン・ゴースティ
王子の魔力暴走によって火傷を負った直後に自身が悪役であったことを思い出す。
悪役にならないよう、攻略対象の王子や義弟に近寄らないようにしていたが、逆に構われてしまう。
そしてついにゲーム本編に突入してしまうが、主人公や他の攻略対象の様子もおかしくて…
ファンタジーラブコメBL
不定期更新
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる