モブに転生した俺。推しキャラのハピエンを拝むまで夜も眠れない

天宮叶

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推しに聞かれてしまいました

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ゆっくりと感情が変化していく。

「僕はずっと清らかで愛らしいエアリスという役を演じてるんだ。本当は野山を駆け回ったり、商人街を走り回って大笑いしてみたりしたい。子供の頃はそれが自由にできた。でももう夢みたいなものだね。今が現実で、過去は置いていくしかない。みんなに愛される聖女。それが僕の役目だから。僕と同じ力を持つ……いや、それ以上に神に愛されている君はこの世界でどうやって生きていくのかな」

なんとなくわかっていた。エアリスはノエルの力に気が付いている。ネイトが魔王だということは知らないのだろう。けれど光の魔力を持つ彼には、ネイトを覆う闇の存在がはっきりと見えているはず。
だからノエルにこんな話をするのだろう。

「エアリスは演じてるっていうけれど、俺は本当に優しくて仲間思いな人だって知ってるよ」

ネイトがエアリスのことを好きだったのだとノエルに話すことはリスクでしかない。それでもこうして本音を話してくれるのは、友達であるネイトのことが心配だからだ。
ノエルはそのことを良く理解している。セイントナイトの主人公であるエアリスは、誰よりも優しくて、いつだって自分のことよりも他人のことを大切にする人だから。

「俺はネイトに幸せになってほしい。笑っていてほしい。その手伝いを出来たら満足なんだ。だって推しのことを世界で一番大好きで、愛してるから」

エアリスが本音を話してくれるのなら、ノエルも本当の気持ちをぶつけたいと思った。
ネイト本人には伝えられなくても、エアリスになら伝えられる。知っていてほしい。大好きだから、悲しんでいる顔なんて見たくない。愛しているから寄り添ってあげたい。

「おし?」
「あっ、えっと!推しっていうのは、エアリスにとってのフェイブル様みたいな感じ!めちゃくちゃ大好きってこと!一日中眺めてても飽きないし、辛いことがあっても声を聞くだけで元気になれるんだ!人生の一部みたいなものだよっ」

思わず早口に推しの説明をしてしまう。勢いに押されて、エアリスが若干驚いた表情を浮かべたのがわかって、慌てて口を閉ざす。
推しのことになると、ノエルはテンションがおかしくなってしまう。

「ふふ、僕が心配する必要なんてなかったんだね。最近魔族の動きも活発になってきているから気を張りすぎているみたいだ。ノエルはネイトのことを本当に大切に思っているんだね。ネイトの親友としてすごく嬉しいよ。良かったねネイト」
「え……」

エアリスの視線がノエルの背後へと向けられる。釣られるように振り返ると、真顔のネイトが背後に立っていることに気がついた。
さっと顔を青くしたノエルは、自分の発言を振り返り続いて羞恥心で顔を赤くさせた。コロコロと変わる表情を、ネイトが感情の宿っていない瞳で見つめてくる。
それすらもノエルの心を荒立たせる。穴があったら埋まりたいというのはこういうことなのだろう。

「ネ、ネイト……あの……」
「エアリス、私達はもう帰らせてもらう」

視線がエアリスへと向けられる。了承するようにエアリスが頷くと、それを確認したネイトがノエルの腕を掴んで引き寄せてきた。
腰に腕を回されたまま、エスコートされる形でその場を離れる。

「ネイト、さっきのはそのっ」

友達のようになりたいと伝えたのはノエルだ。その約束を破るような発言をしてしまった。大好きや、愛してるは友達に向けるような言葉ではない。
ようやく良好な関係に変化しつつあったというのに、全て水の泡になってしまったかもしれない。
色のないネイトの表情を見つめてみても、なにを考えているのかもわからなかった。
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