モブに転生した俺。推しキャラのハピエンを拝むまで夜も眠れない

天宮叶

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推しを怒らせちゃったかも!?

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止めてあった馬車に乗り込む。
その間もネイトはノエルの腕を掴んだままだった。隣に座らされると、ほぼゼロに近い距離感に落ち着かない。
少し様子のおかしいネイトの顔を覗くと、大きくて細い手がノエルの顔面を覆う。

「わっ、なにするの!?」
「……今は見るな」

指の隙間から見えるネイトの顔が、見たこともないくらい真っ赤に染まっているのがわかり目を疑ってしまう。

「あの……怒ってるんじゃないの?」
「……ああ、怒っている」
「やっぱり……」

友達になるっていう約束を破ってネイトのことを好きになってしまったことを怒っているのだ。シュンっと眉を垂れ下げる。刹那、ネイトがノエルのことを胸の中に閉じ込めてきて固まる。

「……なぜ直接言ってくれないんだ」

息を呑む。
絞り出すように耳元で囁かれた言葉に、ノエルはどう言葉を返せばいいのかわからなくなった。

「……ネイトにとっての推しはエアリスだって知ってるからだよ」
「っ、……そう、だったな……」

頬に手が添えられて上を向かされる。
ルビーとサファイアの輝きを放つ瞳に、顔を果実のように赤く染めて困り顔を浮かべているノエルが映し出されていた。
苦しげに顔を歪めているネイトは、現状の解決方法が見つからない幼子のようにも見える。

「最近、私は私ではないような感覚に陥るんだ。自分の感情が変化してきている。それが辛いことのように思うのに、その変化を受け入れたいと思ってしまう自分もいる」

その変化とは魔王化のことだろうか?
心配になったノエルが顔を近づけると、ネイトも同じタイミングで顔を近づけてきた。
一瞬、唇の端が当たって離れる。

「っ!?」
「……っ」

お互いに目を見開き、距離を取った。口元を押さえたノエルは、今にも爆発してしまいそうな程に頬を赤く染め上げている。
ネイトも目尻をほんのりと染めて、色気を含む瞳でノエルのことを見つめていた。

「……ノエル、浄化をしてくれないか」
「……っ、う、うん」

気を紛らわすように手を伸ばしたノエル。その手をネイトが片手でしっかりと掴む。それからもう片方の手で胸ポケットを探り始めた。
疑問に感じて動きを止める。内ポケットから小箱を取り出したネイトが、その小箱に向かって魔術を唱える。すると夕焼け空を溶かしたかのように、小箱がオレンジと紫の光になって消えた。
手に残ったのは、シルバーのシンプルな指輪だった。
ネイトが、ノエルの薬指に指輪を付けてくれる。その一連の流れを見ていてもなお、現実なのかわからず混乱していた。
浄化して欲しいというのは口実だったのだということしか理解できない。

「こ、これって……」
「婚姻の指輪を渡していなかったと思ってな」

そう言ってネイトがまた魔術を唱えると、ネイトの薬指にも同じデザインの指輪が現れた。

「俺に?どうして……」
「言っただろう。指輪を渡していなかったと。それに、今日はノエルの誕生日だとシルビィから聞いていた。お前は言わないだろうからとな。なぜ教えてくれなかったんだ」

嬉しいのに、素直に喜んでいいのかわからなかった。
自分が推しになにかを求めることが許されないことのように感じてしまう。ネイトの負担にはなりたくない。それにネイトの傍に居られるだけで、毎日が満たされている。
だからあえて誕生日のことは伝えなかった。エアリスの誕生日を心から祝ってほしかったから。
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