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推しに正ヒロインが居ること忘れてた
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「……迷惑になると思って」
「前に言っただろう。下らないことでも構わないから、ノエルのことを教えてほしい」
「でも……」
「拒否することは許さない。私とお前は夫夫だ。夫の私にはお前のことを知る権利がある。そうだろう?」
懐かしい言葉に、ノエルは目尻が熱くなるのを感じていた。
ネイトと出会って間もない頃に、ノエルはネイトに同じような言葉を投げかけた。それを覚えてくれていたことが泣きたくなるほどに嬉しい。
「そうだね……うん。ネイトの権利は守らないと。これからは夫夫の間で隠し事はなしだ」
目尻に涙をためながら満面の笑みを浮かべる。繋いだ手にはお揃いの指輪。
尊すぎるほどに最高の誕生日になったことを、ノエルは一生忘れることはないだろう。
「ふふ」
思わず笑い声が漏れた。
「なんだ?」
「ううん。俺ね、今すっごく幸せで、胸の真ん中がぽかぽかしてるんだ」
夕焼け色の瞳が弧を描く。
ネイトも釣られるように優しく笑みを零した。そうしてどちらともなく指を絡める。
カタ、コトと二人を包むように車輪の音が鳴っている。
ゆっくりゆっくりと、二人の屋敷へ向けて馬車が進んでいた。
屋敷に着くと、寝室へと戻る。ネイトはいつものように仕事をするようだ。ほんの少しだけ寂しいと思ったノエルは、ネイトのスーツの裾を掴み上目遣いに言葉を発する。
「行っちゃうの?」
素直な気持ちを伝えると約束したばかりだ。面倒だと思われたとしても、勇気を出そうと決心する。
「先に湯浴みをして来い。疲れただろう」
「……うん」
「戻ってきたら私も仕事は切り上げる」
「本当?嬉しいな」
頬を緩めると、ネイトが顔をそらす。今はその仕草すら可愛らしくてたまらない。
「早く行け」
「うん!」
突き放すような言い方なのにまったく嫌ではない。
笑みを浮かべたまま、部屋に備え付けの浴室へと向かう。指に着いている指輪を撫でると、心が晴れやかになる気がした。
これから先、ネイトとノエルは正真正銘の夫夫だ。それが嬉しくてたまらない。抑えきれない愛おしさが溢れ出してくる。
今話していたばかりなのに、早くネイトの顔を見たい。
湯浴みを手伝ってくれているシルビィに、指輪をもらったことを話した。
「良かったです。本当に安心しました」
「心配かけてごめんね」
嫁いできてからずっと、シルビィはノエルのことを心配してくれていた。慣れない結婚生活に、エアリスとネイトの関係。内情を知らない人達からすると、ノエルの立場は危うい ように見えていたことだろう。
湯船に浸かりながら、ゆらゆらと揺れる水面を見つめる。ネイトの中にある闇もこんな風に波打っていて不安定だ。
──どうにかネイトの中から取り去ることが出来たらいいのに……。
どれだけ闇を祓っても、根幹を絶たなければ意味がない。
こういうときセイントナイト2をプレイ出来なかったことが悔やまれてしまう。
セイントナイト2の主人公はどのようにしてネイトの魔王化を止めたのだろうか?大抵のゲームにはバッドエンド、トゥルーエンド、ハッピーエンドが存在する。メリーバッドエンドという選択肢もあるが、ノエルが目指すのはハッピーエンドただ一つだ。
(もしもネイトが主人公と出会ったらどうなっちゃうんだろう)
本来なら、ネイトを助けるのはその子の役割だったはず。けれどイレギュラーが起きたことで、ストーリーが変わってしまった。
「先程からなにか悩まれているご様子ですが、大丈夫ですか?」
「う、うん!平気だよ」
肩にお湯をかけてくれていたシルビィに尋ねられて、心臓が嫌な音を立てる。考え込み過ぎてしまっていたようだ。
「ネイトのことを考えていたんだ」
「ノエル様は本当にネイト様のことを大切にされているのですね」
「俺はネイトの夫だからね」
自分で言ってくすぐったい気持ちになった。
夫夫という関係は特別だ。その特別を推しと共有できている。この世界に転生してきてから随分と経つ気がするのに、未だにその現実を夢のように感じてしまう。
水が地面に染み込んでいくように、ノエルも現実を少しずつ受け入れ始めていた。ネイトと心の距離が近づいていくほどに、感情の波は押し寄せてくる。大量の水分を一気に染み込ませることは難しい。
だから気持ちをゆっくり消化していく。そしていつかネイトが幸せになれたときには、心からの祝福してあげるんだ。たとえ隣に自分が居なかったとしても……。
「なんだかのぼせてきたみたい。そろそろ上がろうかな」
「タオルをお持ち致します」
「ありがとう」
胸の痛みには気づかないフリをする。
ノエルはただのモブで、結局主役にはなれない。だから友達のようにネイトを支えられるだけで充分だ。ノエルが前世でずっと見てきたネイトもそうやっていたから。
「前に言っただろう。下らないことでも構わないから、ノエルのことを教えてほしい」
「でも……」
「拒否することは許さない。私とお前は夫夫だ。夫の私にはお前のことを知る権利がある。そうだろう?」
懐かしい言葉に、ノエルは目尻が熱くなるのを感じていた。
ネイトと出会って間もない頃に、ノエルはネイトに同じような言葉を投げかけた。それを覚えてくれていたことが泣きたくなるほどに嬉しい。
「そうだね……うん。ネイトの権利は守らないと。これからは夫夫の間で隠し事はなしだ」
目尻に涙をためながら満面の笑みを浮かべる。繋いだ手にはお揃いの指輪。
尊すぎるほどに最高の誕生日になったことを、ノエルは一生忘れることはないだろう。
「ふふ」
思わず笑い声が漏れた。
「なんだ?」
「ううん。俺ね、今すっごく幸せで、胸の真ん中がぽかぽかしてるんだ」
夕焼け色の瞳が弧を描く。
ネイトも釣られるように優しく笑みを零した。そうしてどちらともなく指を絡める。
カタ、コトと二人を包むように車輪の音が鳴っている。
ゆっくりゆっくりと、二人の屋敷へ向けて馬車が進んでいた。
屋敷に着くと、寝室へと戻る。ネイトはいつものように仕事をするようだ。ほんの少しだけ寂しいと思ったノエルは、ネイトのスーツの裾を掴み上目遣いに言葉を発する。
「行っちゃうの?」
素直な気持ちを伝えると約束したばかりだ。面倒だと思われたとしても、勇気を出そうと決心する。
「先に湯浴みをして来い。疲れただろう」
「……うん」
「戻ってきたら私も仕事は切り上げる」
「本当?嬉しいな」
頬を緩めると、ネイトが顔をそらす。今はその仕草すら可愛らしくてたまらない。
「早く行け」
「うん!」
突き放すような言い方なのにまったく嫌ではない。
笑みを浮かべたまま、部屋に備え付けの浴室へと向かう。指に着いている指輪を撫でると、心が晴れやかになる気がした。
これから先、ネイトとノエルは正真正銘の夫夫だ。それが嬉しくてたまらない。抑えきれない愛おしさが溢れ出してくる。
今話していたばかりなのに、早くネイトの顔を見たい。
湯浴みを手伝ってくれているシルビィに、指輪をもらったことを話した。
「良かったです。本当に安心しました」
「心配かけてごめんね」
嫁いできてからずっと、シルビィはノエルのことを心配してくれていた。慣れない結婚生活に、エアリスとネイトの関係。内情を知らない人達からすると、ノエルの立場は危うい ように見えていたことだろう。
湯船に浸かりながら、ゆらゆらと揺れる水面を見つめる。ネイトの中にある闇もこんな風に波打っていて不安定だ。
──どうにかネイトの中から取り去ることが出来たらいいのに……。
どれだけ闇を祓っても、根幹を絶たなければ意味がない。
こういうときセイントナイト2をプレイ出来なかったことが悔やまれてしまう。
セイントナイト2の主人公はどのようにしてネイトの魔王化を止めたのだろうか?大抵のゲームにはバッドエンド、トゥルーエンド、ハッピーエンドが存在する。メリーバッドエンドという選択肢もあるが、ノエルが目指すのはハッピーエンドただ一つだ。
(もしもネイトが主人公と出会ったらどうなっちゃうんだろう)
本来なら、ネイトを助けるのはその子の役割だったはず。けれどイレギュラーが起きたことで、ストーリーが変わってしまった。
「先程からなにか悩まれているご様子ですが、大丈夫ですか?」
「う、うん!平気だよ」
肩にお湯をかけてくれていたシルビィに尋ねられて、心臓が嫌な音を立てる。考え込み過ぎてしまっていたようだ。
「ネイトのことを考えていたんだ」
「ノエル様は本当にネイト様のことを大切にされているのですね」
「俺はネイトの夫だからね」
自分で言ってくすぐったい気持ちになった。
夫夫という関係は特別だ。その特別を推しと共有できている。この世界に転生してきてから随分と経つ気がするのに、未だにその現実を夢のように感じてしまう。
水が地面に染み込んでいくように、ノエルも現実を少しずつ受け入れ始めていた。ネイトと心の距離が近づいていくほどに、感情の波は押し寄せてくる。大量の水分を一気に染み込ませることは難しい。
だから気持ちをゆっくり消化していく。そしていつかネイトが幸せになれたときには、心からの祝福してあげるんだ。たとえ隣に自分が居なかったとしても……。
「なんだかのぼせてきたみたい。そろそろ上がろうかな」
「タオルをお持ち致します」
「ありがとう」
胸の痛みには気づかないフリをする。
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