モブに転生した俺。推しキャラのハピエンを拝むまで夜も眠れない

天宮叶

文字の大きさ
23 / 53

推しに正ヒロインが居ること忘れてた

しおりを挟む
「……迷惑になると思って」
「前に言っただろう。下らないことでも構わないから、ノエルのことを教えてほしい」
「でも……」
「拒否することは許さない。私とお前は夫夫だ。夫の私にはお前のことを知る権利がある。そうだろう?」

懐かしい言葉に、ノエルは目尻が熱くなるのを感じていた。
ネイトと出会って間もない頃に、ノエルはネイトに同じような言葉を投げかけた。それを覚えてくれていたことが泣きたくなるほどに嬉しい。

「そうだね……うん。ネイトの権利は守らないと。これからは夫夫の間で隠し事はなしだ」

目尻に涙をためながら満面の笑みを浮かべる。繋いだ手にはお揃いの指輪。
尊すぎるほどに最高の誕生日になったことを、ノエルは一生忘れることはないだろう。

「ふふ」

思わず笑い声が漏れた。

「なんだ?」
「ううん。俺ね、今すっごく幸せで、胸の真ん中がぽかぽかしてるんだ」

夕焼け色の瞳が弧を描く。
ネイトも釣られるように優しく笑みを零した。そうしてどちらともなく指を絡める。
カタ、コトと二人を包むように車輪の音が鳴っている。
ゆっくりゆっくりと、二人の屋敷へ向けて馬車が進んでいた。



屋敷に着くと、寝室へと戻る。ネイトはいつものように仕事をするようだ。ほんの少しだけ寂しいと思ったノエルは、ネイトのスーツの裾を掴み上目遣いに言葉を発する。

「行っちゃうの?」

素直な気持ちを伝えると約束したばかりだ。面倒だと思われたとしても、勇気を出そうと決心する。

「先に湯浴みをして来い。疲れただろう」
「……うん」
「戻ってきたら私も仕事は切り上げる」
「本当?嬉しいな」

頬を緩めると、ネイトが顔をそらす。今はその仕草すら可愛らしくてたまらない。

「早く行け」
「うん!」

突き放すような言い方なのにまったく嫌ではない。
笑みを浮かべたまま、部屋に備え付けの浴室へと向かう。指に着いている指輪を撫でると、心が晴れやかになる気がした。
これから先、ネイトとノエルは正真正銘の夫夫だ。それが嬉しくてたまらない。抑えきれない愛おしさが溢れ出してくる。
今話していたばかりなのに、早くネイトの顔を見たい。
湯浴みを手伝ってくれているシルビィに、指輪をもらったことを話した。

「良かったです。本当に安心しました」
「心配かけてごめんね」

嫁いできてからずっと、シルビィはノエルのことを心配してくれていた。慣れない結婚生活に、エアリスとネイトの関係。内情を知らない人達からすると、ノエルの立場は危うい ように見えていたことだろう。
湯船に浸かりながら、ゆらゆらと揺れる水面を見つめる。ネイトの中にある闇もこんな風に波打っていて不安定だ。

──どうにかネイトの中から取り去ることが出来たらいいのに……。

どれだけ闇を祓っても、根幹を絶たなければ意味がない。
こういうときセイントナイト2をプレイ出来なかったことが悔やまれてしまう。
セイントナイト2の主人公はどのようにしてネイトの魔王化を止めたのだろうか?大抵のゲームにはバッドエンド、トゥルーエンド、ハッピーエンドが存在する。メリーバッドエンドという選択肢もあるが、ノエルが目指すのはハッピーエンドただ一つだ。

(もしもネイトが主人公と出会ったらどうなっちゃうんだろう)

本来なら、ネイトを助けるのはその子の役割だったはず。けれどイレギュラー穂の転生が起きたことで、ストーリーが変わってしまった。

「先程からなにか悩まれているご様子ですが、大丈夫ですか?」
「う、うん!平気だよ」

肩にお湯をかけてくれていたシルビィに尋ねられて、心臓が嫌な音を立てる。考え込み過ぎてしまっていたようだ。

「ネイトのことを考えていたんだ」
「ノエル様は本当にネイト様のことを大切にされているのですね」
「俺はネイトの夫だからね」

自分で言ってくすぐったい気持ちになった。
夫夫という関係は特別だ。その特別を推しと共有できている。この世界に転生してきてから随分と経つ気がするのに、未だにその現実を夢のように感じてしまう。
水が地面に染み込んでいくように、ノエルも現実を少しずつ受け入れ始めていた。ネイトと心の距離が近づいていくほどに、感情の波は押し寄せてくる。大量の水分を一気に染み込ませることは難しい。
だから気持ちをゆっくり消化していく。そしていつかネイトが幸せになれたときには、心からの祝福してあげるんだ。たとえ隣に自分が居なかったとしても……。

「なんだかのぼせてきたみたい。そろそろ上がろうかな」
「タオルをお持ち致します」
「ありがとう」

胸の痛みには気づかないフリをする。
ノエルはただのモブで、結局主役にはなれない。だから友達のようにネイトを支えられるだけで充分だ。ノエルが前世でずっと見てきたネイトもそうやっていたから。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?

米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。 ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。 隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。 「愛してるよ、私のユリタン」 そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。 “最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。 成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。 怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか? ……え、違う?

神様の手違いで死んだ俺、チート能力を授かり異世界転生してスローライフを送りたかったのに想像の斜め上をいく展開になりました。

篠崎笙
BL
保育園の調理師だった凛太郎は、ある日事故死する。しかしそれは神界のアクシデントだった。神様がお詫びに好きな加護を与えた上で異世界に転生させてくれるというので、定年後にやってみたいと憧れていたスローライフを送ることを願ったが……。  2026/01/09 加筆修正終了

【完結】義妹(いもうと)を応援してたら、俺が騎士に溺愛されました

未希かずは(Miki)
BL
第13回BL大賞 奨励賞 受賞しました。 皆さまありがとうございます。 「ねえ、私だけを見て」 これは受けを愛しすぎて様子のおかしい攻めのフィンと、攻めが気になる受けエリゼオの恋のお話です。 エリゼオは母の再婚により、義妹(いもうと)ができた。彼には前世の記憶があり、その前世の後悔から、エリゼオは今度こそ義妹を守ると誓う。そこに現れた一人の騎士、フィン。彼は何と、義妹と両想いらしい。まだ付き合えていない義妹とフィンの恋を応援しようとするエリゼオ。けれどフィンの優しさに触れ、気付けば自分がフィンを好きになってしまった。 「この恋、早く諦めなくちゃ……」 本人の思いとはうらはらに、フィンはエリゼオを放っておかない。 この恋、どうなる!? じれキュン転生ファンタジー。ハピエンです。 番外編。 リナルド×ガルディア。王族と近衞騎士の恋。 ――忠誠を誓った相手を、愛してはいけないと思っていた。切ない身分差、年の差の恋。恋の自覚は、相手が成人してからになります。

【完結】流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。

時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!? ※表紙のイラストはたかだ。様 ※エブリスタ、pixivにも掲載してます ◆この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」もあります。そちらも気になったら覗いてみてください。 ◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います

だから、悪役令息の腰巾着! 忌み嫌われた悪役は不器用に僕を囲い込み溺愛する

モト
BL
2024.12.11~2巻がアンダルシュノベルズ様より書籍化されます。皆様のおかげです。誠にありがとうございます。 番外編などは書籍に含まれませんので是非、楽しんで頂けますと嬉しいです。 他の番外編も少しずつアップしたいと思っております。 ◇ストーリー◇ 孤高の悪役令息×BL漫画の総受け主人公に転生した美人 姉が書いたBL漫画の総モテ主人公に転生したフランは、総モテフラグを折る為に、悪役令息サモンに取り入ろうとする。しかしサモンは誰にも心を許さない一匹狼。周囲の人から怖がられ悪鬼と呼ばれる存在。 そんなサモンに寄り添い、フランはサモンの悪役フラグも折ろうと決意する──。 互いに信頼関係を築いて、サモンの腰巾着となったフランだが、ある変化が……。どんどんサモンが過保護になって──!? ・書籍化部分では、web未公開その後の番外編*がございます。 総受け設定のキャラだというだけで、総受けではありません。CPは固定。 自分好みに育っちゃった悪役とのラブコメになります。

処理中です...