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推しと同じベッドの上って緊張しちゃう!
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寝室に戻ると一人でベッドへと潜り込む。
ネイトはまだ来ていない。一人寝はいつものことなのに、約束があるからか寂しさが押し寄せてくる。
扉一枚先にはネイトが居る。自分から会いに行くこともできるのかもしれないけれど、邪魔はしたくなかった。
(俺、本当にちゃんと祝福してあげられるのかな)
ネイトの隣に自分以外が立っている。それを想像すると、泣きたくなるほどに胸が痛む。ノエルの中で、ネイトとエアリスの組み合わせは最上だった。でも今はそれすらもほんの少し嫌だと思う。
──推しを好きになるなんて駄目でしょ。
どれだけ好きだと言葉に出したとしても、それはアイドルに想いを伝えるファンのような立場から変わることはない。
それに期待するなと何度も念を押されている。ネイトの心の真ん中にはいつだってエアリスが居るのだ。そして、その気持ちを変えるのはセイントナイト2の正ヒロインだと決まっている。
それならノエルはモブらしく、『役目』を全うしなければならない。
「ノエル起きているのか?」
暗くなった心を凪ぐような声音が耳に届き顔を上げた。
寝間着に着替え終えたネイトが姿を表して、心臓がピョンっと跳ねた。露わになった胸元から、鎖骨やしっかりと鍛えられてきる胸筋が覗いている。
慌てて目をそらすと、ベッドへ乗ってきたネイトがノエルの顎を軽く掴んできた。
「なぜそらすんだ?」
強制的に顔をネイトの方に向かされると、暗くてよく見えなかった美麗な顔もはっきりと目に映る。キャパオーバーしそうになったノエルは、耳まで熱くさせながらギュッと目を閉じた。
「……誘っているのか?」
ネイトが呟くも、小さな音はノエルの耳に上手く届かなかった。
羞恥心デふるふると震えているノエルのことを、ネイトが面白そうに観察している。
「目を開けろ。お前の瞳を見ていたい」
指の腹で目尻を撫でられる。様子を伺うようにゆっくりと瞼を持ち上げると、微笑みを浮かべるネイトの顔がしっかりと瞳に映る。
「ようやく私のことを見たな」
「っ……推しがあまりにも眩しすぎて……」
「フッ、お前に『推し』と呼ばれるのは悪くないな」
大変満足そうに笑いながら、ネイトがノエルを抱き寄せた。胸板に頬が当たり、ノエルは卒倒しそうになる。
推しの生肌に触れるなど許されるのだろうか?
そんな明後日のことを考えながら心を落ち着かせる。
期待したらだめだ。ネイトの心を煩わせたくはない。本物が現れたら、モブのノエルは退場しなければならないのだから。
「っ、ごめん……」
思わずネイトの胸を押して、身体を離した。本当は抱きしめられていたかった。温かさに触れて、微睡みの中に沈んでいけたら最高に心地がいいだろう。
それに自分から誘っておきながら、拒否するなど有り得ない。それでも行動に移したのは、怖くなったから。
これ以上ネイトに心を預けたら、自分のすべてを見てほしいと願ってしまう。誰かがネイトの隣に立つことを許せなくなってしまう気がしたから。
「……急かしすぎたな。そんなに怖がるな」
「ちがっ、俺……」
ネイトが怖いのではない。
自分の中で、ネイトの存在が『推し』から『愛する人』に変わっていくことが受け入れられないだけだ。
「お前の瞳は不思議な色をしている。沈む夕焼けの色をしているのに、温かみを感じる。お前から与えられる言葉も同じだ。私の心を簡単に救い上げる」
「ネイト、俺……俺は……」
「なにもしない。だからお前を抱きしめさせてくれ。夜はあまり好きではないんだ。一人では眠ることもできない。でも、お前が傍にいれば安心できる」
そんな風に言われたら断れるわけがない。
きっと夜遅くまで仕事をしているのも、眠れないからなのだろう。
「ずるいよ……」
悪態つくと、再び腕の中に閉じ込められた。
「ずっと我慢してきたんだ。今度はどんな手を使っても手に入れる。我慢などするものか」
なにに対しての言葉なのかノエルには理解できなかった。
けれどネイトが幸せそうに表情を緩めているから、ノエルはそれ以上抵抗することを止める。
推しには勝てない。
暗い心を振り払うように息を吐きだして、気を取り直す。そうして、なにも考えずにネイトの胸へと顔を埋めた。
ネイトはまだ来ていない。一人寝はいつものことなのに、約束があるからか寂しさが押し寄せてくる。
扉一枚先にはネイトが居る。自分から会いに行くこともできるのかもしれないけれど、邪魔はしたくなかった。
(俺、本当にちゃんと祝福してあげられるのかな)
ネイトの隣に自分以外が立っている。それを想像すると、泣きたくなるほどに胸が痛む。ノエルの中で、ネイトとエアリスの組み合わせは最上だった。でも今はそれすらもほんの少し嫌だと思う。
──推しを好きになるなんて駄目でしょ。
どれだけ好きだと言葉に出したとしても、それはアイドルに想いを伝えるファンのような立場から変わることはない。
それに期待するなと何度も念を押されている。ネイトの心の真ん中にはいつだってエアリスが居るのだ。そして、その気持ちを変えるのはセイントナイト2の正ヒロインだと決まっている。
それならノエルはモブらしく、『役目』を全うしなければならない。
「ノエル起きているのか?」
暗くなった心を凪ぐような声音が耳に届き顔を上げた。
寝間着に着替え終えたネイトが姿を表して、心臓がピョンっと跳ねた。露わになった胸元から、鎖骨やしっかりと鍛えられてきる胸筋が覗いている。
慌てて目をそらすと、ベッドへ乗ってきたネイトがノエルの顎を軽く掴んできた。
「なぜそらすんだ?」
強制的に顔をネイトの方に向かされると、暗くてよく見えなかった美麗な顔もはっきりと目に映る。キャパオーバーしそうになったノエルは、耳まで熱くさせながらギュッと目を閉じた。
「……誘っているのか?」
ネイトが呟くも、小さな音はノエルの耳に上手く届かなかった。
羞恥心デふるふると震えているノエルのことを、ネイトが面白そうに観察している。
「目を開けろ。お前の瞳を見ていたい」
指の腹で目尻を撫でられる。様子を伺うようにゆっくりと瞼を持ち上げると、微笑みを浮かべるネイトの顔がしっかりと瞳に映る。
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「っ……推しがあまりにも眩しすぎて……」
「フッ、お前に『推し』と呼ばれるのは悪くないな」
大変満足そうに笑いながら、ネイトがノエルを抱き寄せた。胸板に頬が当たり、ノエルは卒倒しそうになる。
推しの生肌に触れるなど許されるのだろうか?
そんな明後日のことを考えながら心を落ち着かせる。
期待したらだめだ。ネイトの心を煩わせたくはない。本物が現れたら、モブのノエルは退場しなければならないのだから。
「っ、ごめん……」
思わずネイトの胸を押して、身体を離した。本当は抱きしめられていたかった。温かさに触れて、微睡みの中に沈んでいけたら最高に心地がいいだろう。
それに自分から誘っておきながら、拒否するなど有り得ない。それでも行動に移したのは、怖くなったから。
これ以上ネイトに心を預けたら、自分のすべてを見てほしいと願ってしまう。誰かがネイトの隣に立つことを許せなくなってしまう気がしたから。
「……急かしすぎたな。そんなに怖がるな」
「ちがっ、俺……」
ネイトが怖いのではない。
自分の中で、ネイトの存在が『推し』から『愛する人』に変わっていくことが受け入れられないだけだ。
「お前の瞳は不思議な色をしている。沈む夕焼けの色をしているのに、温かみを感じる。お前から与えられる言葉も同じだ。私の心を簡単に救い上げる」
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「なにもしない。だからお前を抱きしめさせてくれ。夜はあまり好きではないんだ。一人では眠ることもできない。でも、お前が傍にいれば安心できる」
そんな風に言われたら断れるわけがない。
きっと夜遅くまで仕事をしているのも、眠れないからなのだろう。
「ずるいよ……」
悪態つくと、再び腕の中に閉じ込められた。
「ずっと我慢してきたんだ。今度はどんな手を使っても手に入れる。我慢などするものか」
なにに対しての言葉なのかノエルには理解できなかった。
けれどネイトが幸せそうに表情を緩めているから、ノエルはそれ以上抵抗することを止める。
推しには勝てない。
暗い心を振り払うように息を吐きだして、気を取り直す。そうして、なにも考えずにネイトの胸へと顔を埋めた。
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