失恋〜Lost love〜

天宮叶

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「あっちぃ」

俺は制服のボタンを第二まで外してパタパタと服の中に風を送り込んでいた。

真夏の室内は蒸し蒸しと暑苦しく、クーラーをつけていてもそれはあまり変わらない。

「これだから田舎ってのは!」

ぶーぶーと文句を垂れていると、廊下の向こうからあいつが歩いてくるのが見えた。

そう、俺の想い人。

「よぉ~、相変わらず涼しそうな顔してんなぁ」

「………」

俺が声をかけても完全スルー。

手に持った本を読みながら、つかつかと俺の前を過ぎていく。

「シカトかよ~。東~聞こえてんなら返事しろよ」

読んでいた本を横からかっさらってプラプラと東の前で振ってみせる。

「返せ、坂本。本が汚れる」

「なっ!俺が汚いみたいな目で見んじゃねーよ!!」

いつものやり取り。

でも、俺はそのやり取りが好きだった。

「東~。あんま本ばっか読んでっと虫になるぞ」

ケラケラと本を振りながら笑ってみせる。
そうすると東の眉がぴくりとかすかに動いた。

「お前の頭はすでに虫以下だがな。大体、本を読んでなぜ虫になる。本の虫という言い方があるが、あれは本が好きすぎて本ばかり読んでいる人のことを通称してそう呼ぶのであって((以下略」

「あぁ~はいはい。お前のお説教は長くて嫌いだ」

耳を抑えながら本を東の腕に投げやると、東はそれを落とさないようにしっかりとキャッチする。

俺は制服のボタンを閉めると、そのまま教室へと向かった。

そろそろ授業が始まる時間だ。

「さぁ~てと、んじゃお宅も勉強がんばってねん♪」

「…うざい」

俺は東の言葉に笑いながら教室へと入った。

東と話したから次の授業も頑張れるなって思った。

◇◇◇

毎日同じような会話をする。

それが俺の当たり前で、俺の楽しみだった。

放課後になると、帰宅部の俺は真っ直ぐに家へと帰る。でも、今日はそのまま帰らず美術部を覗くことにした。

理由?んなもん、決まってるっしょ!

「お、いたいた」

声を小さくして俺はそっと窓から中をのぞいた。

部室には一人しかいないようで、俺に気づいていないのか、東が1人黙々と絵を描き進めている。

綺麗だ……。

真剣な眼差し、その目の前にある描きかけの絵。

綺麗だと思ったのは、あいつがあまりにも真剣で、黒いあいつの瞳が目の前の絵を捉えて離さないさまに見惚れてしまったから…。

「っ…。」

俺は音を立てないようにその場から離れた。

そのまま見ていたら、なぜかあいつがいなくなってしまうような気がしたんだ。
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